繰り返しの理由
ひとしきり笑っていたリリア様が、悪戯っぽい顔をして私を見た。
「大丈夫よ、エルシー様。
私だってチャーリィが死なないように頑張っていただけだもん」
そう言って照れ隠しのように胸を張るリリア様は、もう聖女という仮面を脱ぎ捨てた、ただの女の子だった。
「ほら見て?」
そこでリリア様が胸元から出したのは、角が丸くなった小さな楕円形の木彫り。
皮紐がすっかり飴色だ。
……角がなくなるほどの年月……
ずっとずっと大切にしてきたのだろう。
「これ、チャーリィの初めての作品。
私の為に作ってくれたクローバーなの。
って説明しないと、なんだか分からない物体になっちゃったけどね」
そう言って、誇らしげに私に見せた後、大切そうに胸元に戻す。
リリア様も、恋する少女。
そんな当たり前のことを実感する。
「だけどさー、権力ってやつがねぇ、これが厄介でさ」
そう言ってうんざりとした顔をする。
いつもの取り澄ました聖女の顔は、本当に仮面だったのだ、と改めて感じた。
「何度か大人しく諦めてさ、やつの婚約者にもなったさ、私だって」
そうしてリリア様は、少しだけ考えるように頬に手を当てる。
「でも殺されるの」
「やつにじゃなくても、そこら辺を忖度した奴らだったり、なんだったりで。
イヤになっちゃう、何通りあるのよって何度思ったか」
余りにも軽く言うから、こちらも気軽に相槌を打ちたくなる。
だがその内容は重かった。
「え、あの、そんなに……?」
「うん、もうね、私、気が狂えたら良かったのにって、ずっと思っていたもの。
だから、ね。
エルシー様が、前と違う行動しているってわかったときにね。
貴方が全然、余りにも普通だったので驚いたの」
明るく、何でもないように言うリリア様。
逆に明るく言えてしまうという方が、十分に怖いという事に気が付いていないのだ。
「その割には、随分と手の内を見せないで……」
私も恨みがましくいってみた。
「私……私、怖かったのに」
だけど、今となっては、それもどうでもいい事だ。
あぁ。そうね。
私も、リリア様も、きっと、多分。
とっくにどこかおかしくなっていたんだと思う。
それは繰り返す時間のせいかもしれない。
ずれていく思考や、選ばなかった行動のせいかもしれない。
「エルシー様」
リリア様が、きちんと背を伸ばし、手を膝に添えて私を見る。
「だから、ね。
貴方が言った、未来を歩きたいってセリフを聞いた時に思ったの。
もうこんな事、終わらせようって」
リリア様の目には涙も浮かんでいなかった。
ただ、ただ静かな瞳で私を見ていた。
それは全てを決めてしまった人の瞳だった。
「誰か、私以外で記憶を持っている人がいたら、もしかして、とか思っていたの。
でもね、そうじゃないんだって気がついたのよ。
そんな問題じゃないんだって、ね」
一旦言葉を区切ったリリア様が、一瞬顔を顰めた。
「どう足掻いても、チャーリィは死んでしまう運命なのだって。
それを受け入れようって」
その口調は強く断定的で。
私が口をはさむ余地もなく。
「チャーリィの作ったクローバーのブローチを、エルシー様が持っていた。
きっと、それも何かの運命だったのだと思うの、私。
だから、ね。
私からも、エルシー様にプレゼント」
そうしてリリア様は、小さく息を吐いた。
「貴女が望んだ未来をあげるわ」
そう言って、リリア様は静かに聖女の仮面を被りなおした。
私は息を飲んでリリア様に見入ってしまった。
流石聖女と呼ばれるだけの人だ。
取り付く島もないほどの完璧さ。
だけど。
だけど、リリア様だって、私と同じ年の少女なのだ。




