話し会い
「それで、お話って何かしら?」
小首を傾げ、他人行儀な笑みを浮かべる聖女リリア様。
私と二人だけという空間だから、か、聖女としての佇まいは崩さずにいるのに時折素の顔が見え隠れする。
ただ、やはりリリア様の圧倒的な存在感に、我が家だというのに息が詰まりそうになる。
侍女やメイドの耳を気にしなくていいだけの距離、あえて向かい合わせに座らずにテーブルの角と角に座ったのだ。
席を案内した時に、リリア様もその意図を察したのだろう、何も言わずに座った。
親密な友人なら隣同士かもしれない。
だけど、私達にはまだその距離は近すぎた。
あえて言えば、同士。
それも少し違うような気がする。
だから、近すぎず、でも遠すぎず。
少しだけ離れたその距離が、私とリリア様の間柄を表しているようだ。
「先ほど、私が言いたいことは伝えたと思いますが。
でも、お話があるのでしょう?
聖女である私に。
改まって、何かしら?」
言葉の端々に棘が見え隠れする。
今までとは違う、リリア様の話し方。
私と距離を置こうとしているのは明白だ。
なのに。
それなのに、余計にリリア様が今にも崩れ落ちそうな少女のように感じられる。
一生懸命、虚勢を張っている。
私と同じどこにでもいる一人の少女に。
思わず肩を抱いて「大丈夫よ」
と言いたくなるほどに痛々しく見える。
あぁ、だから私はリリア様を放っておけない、そう思ったのかもしれない。
だけど、それをするのは今じゃない。
今、私はやらなければいけない、聞かなければいけない事があるから。
組んだ両手に力を込めて、リリア様を見る。
「リリア様、単刀直入にお伺いします。
なぜ、巻き戻さなかったのですか?」
リリア様はびくりと肩を震わせた。
ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返し、そして。
そして、大きく息を吐いた。
「さっきも言ったでしょ?
あなたのお望み通りの、待ち焦がれた未来。
どう?
これで良いのでしょう?」
泣きそうな顔で、投げやりに言うリリア様はもう、聖女の仮面を被っていなかった。
多分ここが、私とリリア様二人だけの空間だから、なのかもしれない。
その安心感ゆえの、素のリリア様をさらけ出したのか。
そう思いたい。
そう思いたいのに。
「えぇ、確かに私が待ち望んだ未来ではあります。
だけど」
「チャーリィなら、死んだわよ」
私の声に被せるようにリリア様は言った。
「聖女である私の婚約者はね、王子しかいないのです。
だってさ、笑っちゃうわよね」
そう言われて、聖女リリア様のお相手と噂される王子の顔を思い出す。
アルヴィン第三王子の顔が浮かぶ。
金髪碧眼の物語の王子様らしい王子様だ。
そんな忌避すべき相手ではない、けれど。
「あんな男、興味ないわよ」
バッサリとリリア様は切り捨てた。
確かに、私がハロルド様を好きなように、リリア様もチャールズ様を想うのであれば、それが誰とであれ、立場も何も、全て関係ないのかもしれない。
ただ、やはり相手は王子様。
流石に不敬が過ぎる気がして口を挟もうとした瞬間。
「貴女と私しかいないのだもの、良いじゃない。
不敬?
構わないでしょ?
ただでさえ頭のおかしい会話しているのだし。
今さらだわ」
その言い方に思わず笑いそうになる。
「……確かに、今更、ですよね。
普通だったら、信じられないような会話をしていますものね」
そう認めたら、笑いが止まらなくなる。
耐えようと思うが、余計に抑えがきかなくなり、気が付けば涙まで出てきてしまった。
肩を揺らして笑う私を、リリア様は呆れた目で見ていた。




