逃げる聖女と追うエルシー
学園で見かけたリリア様は、いつもと同じ聖女の笑みを浮かべてそこにいた。
リリア様を見ると、ふいと視線を逸らされた。
間違いなく意図的に、だ。
今までなら。
私と目があったら、視線で何かを伝えていたというのに。
おかしい。
そう思ったとき、吹き出しそうになった。
あぁ、そうね。
もうずっとずっと、おかしいことだらけだもの。
リリア様だけじゃない。
私だって、ずっと。
一気に肩の力が抜けた気がした。
ごめんなさいね、リリア様。
今までの私とは、もう違うの。
私は、もう逃げないから。
真直ぐにリリア様に向かっていくと、リリア様が一瞬驚いた顔をした。
そうね、今までの私の行動とは違うものね、驚くわよね。
だけどね、リリア様。
決めたの、もう。
この曖昧な世界を終わらせたいって。
リリア様。
私、貴方の事、やっぱりこのまま放っておけないの。
「リリア様」
声をかけられたリリア様の瞳に、一瞬怯えが見えた。
いつも人を取って食うような態度のリリア様の、その様子が変に感じる。
「お昼、また一緒にどうでしょうか?
お話したいことがありますの」
リリア様は珍しいものを見た、というような顔をして、私の顔を見る。
「……」
何かを口にしようとして、リリア様は諦めた顔をして首を振る。
「それとも……リリア様、私の家にいらっしゃりませんか?
今ならちょうどバラが見事に咲いていますの。
余りにも突然のお誘いですから、勿論断っても構いません。
ただ、我が家のほうがゆっくりとお話出来るかと思いまして」
何度断られても、私は誘うだろう、というのが分かったのだろう、リリア様は聖女の仮面を被りなおした。
「あまりにも急なお誘い過ぎて、私の一存では決められませんが……」
曖昧に言葉で逃げようとするけど、決めた私は強いのだ。
もう、周囲は私とリリア様が親しい友人だと認識しているのを逆手に取るまで。
「それなら、きちんと先触れを出します。
いらっしゃるまで、何度でも」
私はニッコリと笑った。
その笑顔に、リリア様は少し怯んだ顔をしたように見えた。
「……分かったわ、エルシー様。
貴女って本当に……」
「私って……何でしょう?」
そう微笑むと、リリア様は晴れ晴れとした笑みを見せた。
「いいわ、伺うわ。
今日でよろしくてよ。
すぐに教会には連絡を入れますから」
そういうとリリア様は一拍置いて私をひたと見た。
「……そして、そうね。
私が言いたかったこと、はね」
リリア様は、私の耳元の口を近づけた。
「貴女が望んだ未来でしょう?
喜びなさいよ」
それだけ言うとすぐに耳元から離れた。
「では、後程、楽しみにしていますわ」
そうゆったりと言いながら聖女の笑みを浮かべるリリア様は、やはり恐ろしい程に美しかった。
そして。
私が望んだ未来、と彼女は言った。
確かに、あの朝は来なかった。
あれだけ待ち望んだ、翌日。
なのに、それは歓喜に湧くわけでもなく、違和感しか残らない。
喜びなさいよ、そう言ったリリア様の声が余りにも平坦で。
結果を素直に喜ぶことが出来ないくらいには、私はリリア様を知りすぎてしまった気がする。
何度も繰り返して、私も、リリア様もようやく何かにたどりつけたのかもしれない。
それが、未来だろうが、また何かの始まりになるのか。
分からない、けれど。
この違和感だけは絶対に、このままにしてはいけない、そう私の直感が言っている。
ううん、違う。
ただ。
私がリリア様を放っておけないだけだ。
だから、私は私がしたいように動く。
だってまた時間が戻るかもしれない。
もしかしたら、このまま進むのかもしれない。
それでも良い、素直に思う。
私が決断した未来なら、その結果も自分で受け止められる。
そう、きっと。




