どうしたら?どうすれば?
夜になり静かな室内で、ひとり、窓辺で月を見上げる。
リリア様の言葉の意味、彼の遺作だといった、このブローチ。
もう、彼はこの世にいないのかもしれない。
だが、ハロルド様の言い方では、まだ彼は生きているのではないのだろうか……?
不意に湧き出た小さな違和感。
まだ、間に合う……?
もしかしたら、救える……?
それなら、私が出来ることをしよう。
そして。
きっと、これの持ち主は、私ではない。
リリア様。
彼女にこそ、相応しいのではないだろうか。
宝石箱を開けると、綺麗に拭かれたブローチが静かに出番を待っている。
緑色の宝石。
偶然、私もリリア様も同じ緑色の瞳をしている。
その瞬間、何かが私の中で噛み合った。
もしかしたらチャールズという人は、リリア様のことを思いながらこの色を選んだのかもしれない。
リリア様の好きなクローバーのモチーフで。
偶然の一致かもしれない。
でも、言葉にできない彼の思いをこの作品に込めたのだ、そう考える方が自然な気がした。
確信はない。
それでも、そう考えると。
あぁ、きっと、これは。
私の胸にあるより、彼女の胸元を飾る方がずっと似合う気がした。
幸い、今回のブローチはお父様が買ってくださったものだ。
普段使いにちょうど良いものだが、パーティなどにつけて行くには少し物足りない。
もしくは……
彼がまだ生きているのなら、新しい品をオーダーするというのはどうだろうか?
ハロルド様にお願いして買ってもらう、とか。
そう考えて、思わず苦笑いしてしまう。
私も、少しずつ図々しくなってきてしまったのだわ、と。
だって、きっと買ってくださると思っているのだから。
昔の私なら絶対にしない行動だろうし、信じられないと言いそうだ。
それに、少しばかりの寂しさも感じてしまう。
繰り返していくうちに、私も、少しずつ変わっていっているのだろう。
大人になった、とは思わないけれど。
でも、これが、大人になる、という事なのかもしれない。
少しだけ、そう少しだけね。
この寂しさは、きっと誰にも分からないだろう。
私は自分で自分を抱きしめた。
自分の腕の温もりを確かめる。
大丈夫、幻なんかじゃない。
私は、生きている。
「エルシー。
この間、彼に注文していたのが出来上がったんだ」
突然のハロルド様の来訪に何かあったのかと心配したのだけど、そうではなく、既にハロルド様が彼に商品を発注していたことを知って驚いてしまう。
まるで私の考えを読まれていたみたいで、ちょっと気恥ずかしいような気もする。
そして、新作が出来た、という事はチャールズ様も無事だという事だ。
まだ、大丈夫。
救える。
ホッとしたと同時に、2重の喜びが湧き上がる。
「注文というよりも、新作が出来たら僕に声をかけて欲しいと、商会経由でダンガル工房にお願いしていたのだけどね。
今回も同じクローバーのモチーフだと聞いたから、余計に」
何度頂いても、ハロルド様からのプレゼントは特別。
ゆっくりとリボンをほどいて箱を開けると、鎮座する可愛らしいクローバーのネックレス。
「わぁ、可愛らしい!
嬉しいわ、ハロルド様」
そう言って手に取る。
小さな違和感。
クローバーの端が流線形過ぎる気がする。
何というか、あの柔らかいイメージとは違うのだ。
「ん、なんか、あれ?
プレゼントした僕が言うのもなんだけど、ブローチのイメージと少し違うね」
彼は私の胸元のブローチと比較するように見る。
私も無意識にブローチの端をなぞるようにして確かめていた。
昼下がりの光が窓から差し込み、テーブルの上のネックレスを淡く照らしていた。
胸の奥のざわつきが止まらない。
「前作とは少し違う風に、冒険してみたのかもしれないね」
ハロルド様の言葉は静かで、簡単に納得出来る話のはずだった。
だけど。
明らかに、違う。
言い切れるわけないのに、そう確信してしまう。
思わず刻印を確かめる。
小さなネックレスだ、すぐ見つかる。
そう思っていても焦る私には探し出すのが難しかった。
見つけたのはダンガル工房の、刻印。
あぁ、遅かったんだ。
そう思った瞬間、体中の力が抜けた気がした。
かしゃり、とネックレスがテーブルに落ちる。
その音すら気にならず、自然と涙が溢れた。
「エルシー?」
「違うわ、これ、違うのよ」
焦るハロルド様に、私の言葉は支離滅裂だ。
「え……?違う……???」
そう言いながらも、隣に移動して落ち着かせようとして私の背中を撫でてくれる。
私は声を上げて泣いた。
ハロルド様の前でここまで取り乱したのは、きっと初めて、だ。
落ち着いた頃に、私は素直にハロルド様に謝った。




