第6話・猫と少女
大きな目がぱちぱちと瞬きをして、ソラを見上げた。
「ぶつかっちゃった、ごめんなさい!大丈夫!?」
金色の髪の少女が、慌てて立ち上がった。膝の埃を払う手が忙しなく動いている。
「俺は平気だよ」
ソラも身を起こした。尻が痛かったが、それより気になることがあった。
「何かを追いかけてたように見えたけど、何かあった?」
「猫!」
少女は振り返って、人混みの奥を指さした。
「うちの子が逃げちゃって——あっ、いたっ!」
声を上げた瞬間、少女はもう走り出していた。
人の波をするりと抜けていく。ソラは顔を上げて、その視線の先を追った。茶色い猫が耳を伏せて、脇目も振らず一直線に駆けていく。
「どうする…?」
リゼアはソラに問いかけた。
「仕方ないな、追いかけよう!」
ソラはすでに走り出していた。
人の間を通り抜け、荷台を飛び越え、屋台の角を曲がった。通りすがりの人の肩にぶつかる。
「いてっ!おい気をつけろよガキ!」
「すみません!!」
少し足踏みしている間にも猫は走り去っていく。
「待ってよ——!」
前を行く少女が、細い路地へ折れた。ソラもそれに続く。路地に入った途端、喧騒がぐっと遠ざかった。石畳の継ぎ目が細かくなり、建物と建物の間が狭まっていく。
猫は路地の奥で立ち止まった。
振り返り、こちらを見た。尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「ふっふっふっ、もう逃げられないぞぉ〜…」
少女がじわじわと一歩ずつ近づいていく。猫はじっとこちらを見ていた。逃げる気配はない。ただ——少女が手を伸ばした瞬間、すっと体をかわした。
「あ——っ!」
くるりと身を翻した猫が、今度はソラの足元へ寄ってきた。
ぴたりと止まり、青い目を見上げてくる。
ソラも動かなかった。
猫はソラのブーツの先で鼻をクンクンとさせ、その場に座った。尻尾をきれいに巻いて、落ち着き払っていた。
「……なんで俺に」
「すごい。人見知りなのに」
少女が小さく息を吐いた。ゆっくりしゃがんで、猫の背中を撫でる。猫は今度は逃げなかった。目を細めて、されるがままになっていた。
「よかった〜……」
少女が抱き上げた。猫は短く鳴いて、少女の肩に顎を乗せた。
しばらく、路地に静かな時間が流れた。
少女がソラを見た。それからリゼアを見た。
「二人とも、追いかけてくれたの?ありがとう!」
「ぶつかったのも謝らないといけないし——」
少女は猫を抱えたまま、ぺこりと頭を下げた。
「ニャ」
何故か猫も挨拶をした。ーーーように見えた。
「改めてごめんなさい!わたし、ミオっていいます!アレシス生まれの、アレシス育ち!」
顔を上げたら、もうニコニコと笑っていた。
「ソラだ」
「リゼアよ」
「ソラとリゼア!旅人?」
「まあ、そんなところかな」
「だと思った!」
ミオは目を輝かせた。猫が迷惑そうに身じろぎしたが、気にする様子もない。
「ねえ、お礼がしたいんだけど——ちょっとだけ時間ある?」
ソラはリゼアと顔を見合わせた。
「ある、かな?」
ソラはリゼアに尋ねるように答えた。
「なんで私に聞くのよ。まぁ別に、いいんじゃない?」
「じゃあうちに来てよ!にゃごすちんっていう猫カフェやってるの!すぐそこだし、お茶くらい出せるから!」
猫がミオの肩の上で短く鳴いた。
「にゃっ、にゃごすちん…?」
ソラとリゼアが同時に尋ねた。
「猫がいるお店!飲み物とか飲みながら、猫ちゃんと遊べるの。この子みたいな子が他にも何匹かいるんだよ」
リゼアが猫を一瞥した。猫と目が合った。どちらも動かなかった。
「行きましょ」
リゼアが先に歩き出した。
「わあ、ありがとう!こっちこっち!」
ミオが先頭に立った。猫を抱えたまま、スキップで路地を戻っていく。猫は抱き抱えながらも爪を立ててしがみついていた。
ソラはその後ろを歩きながら、リゼアに小声で言った。
「……まだ来てから一時間も経ってないよな」
「経ってないわね」
ソラは前を向いた。アレシスは、思っていたより騒がしいところらしい。
一読頂きありがとうございます!
今回はソラとぶつかった少女のミオと「にゃごすちん」に行くまでのお話でした!
語感が好きなんですよね…w
次回はソラとリゼアがにゃごすちんに行くお話です。
月曜日6:00更新予定です。
是非次回も読んでくださると嬉しいです!よろしくお願いします!(`・ω・´)




