第5話・武の都市・アレシス
それから数日が過ぎた。
夏の日差しは容赦がなく、日中は木陰を選びながら歩いた。朝は早く出て、日が高くなる前に距離を稼ぐ。それがいつの間にか二人の習慣になっていた。道中、野盗らしき人影を見かけることもあった。そのたびに茂みに身を潜め、やり過ごした。
道は少しずつ広くなっていた。最初は獣道のように細かった道幅が、今では荷馬車が二台並んで通れるくらいはある。行き交う人の数も増えた。旅人、行商人、荷を背負った男たち。みな一様に同じ方向へ足を運んでいた。
「人が多くなってきたな」
「アレシスが近いんじゃない」
ソラは近くの木によじ登って前方を見た。道の先、木々が途切れたあたりに灰色の影が見え始めていた。
近づくにつれて、それは影ではなく壁だとわかった。
分厚い石造りの城壁が、視界いっぱいに広がっていた。高さは村の見張り台の何倍もある。表面には無数の傷と染みが刻まれていて、長い年月をそのまま積み重ねてきたような重みがあった。城壁の上を、鎧姿の衛兵が行き来しているのが小さく見えた。
「……でかい」
「村の見張り台は木でできてるのに」
リゼアも城壁を見上げたまま、足が止まった。
城門には長い列ができていた。ソラたちは列の後ろについた。じりじりと前に進み、やがて順番が来た。
「名前と目的を」
槍を携えた大柄な男だった。ソラより頭一つ以上背が高く、目がソラとリゼアの間を行き来した。
「ソラです。東の方の村から剣の修行のためにアレシスへ来ました」
「歳は」
「十三です」
門番はしばらくソラを見た。それからリゼアへ視線を移した。
「お前は?」
「リゼアです。同じ村から、同行者として来ました」
門番は顎をしゃくった。
「いいだろう、通れ」
二人は城門をくぐった。見上げれば、石造りのアーチが頭上に伸びていた。何メートルあるのかも見当がつかなかった。
抜けた瞬間、喧騒が耳に飛び込んできた。
笑い声、怒声、馬の嘶き、金槌の音。石畳の上を人と荷車が入り乱れて行き交っている。屋台から肉の焼ける匂いが漂い、遠くで誰かが声を張り上げて値段を呼び立てていた。
ソラは足を止めた。
村とは何もかもが違った。
「……すごいな」
「口、開いてるわよ」
ソラは慌てて口を閉じた。
その瞬間だった。
石畳を蹴る軽い足音が、人混みの中から飛び出してきた。
「まってまってまって——っ!」
声と同時に、何かがソラの脇腹に突っ込んできた。
ドンッ。
ソラはバランスを崩して倒れた。ぶつかってきた相手も弾かれるように後ろへよろめいて、石畳の上に尻もちをついた。
「……っ、いたた」
金色の髪が石畳に広がった。石畳に手をついて、体を起こす。ソラたちと同じくらいの年頃の少女だった。大きな目がぱちぱちと瞬きをして、ソラを見上げた。




