↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星脈と位相の狭間で  作者: 黒
アレシス学院編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/63

第44話:異種試合・エルダーvsリゼア


 舞台の上を、箒を持った係の生徒が3人がかりで往復していた。焦げた破片を集めては袋へ入れてまた戻る。四隅では教師が防壁魔法の調整をしている。


「まだかかるんすか」


「貼り替えとるだに。まさかここまで損壊するとは誰も思わんかったんでな」


「まぁそりゃあ…」


「そう言えばだが」


 グエンが木剣を放って寄越した。エルダーが片手で受け止める。訓練で使っているものより、握りがわずかに重い。


「これは?」


「付与魔法のついた木剣だて。それ以外を持ち込んだら、炎系魔法一発で炭になるぞ」


「あー…流石に燃えカスでリゼアとやんのはごめんだな」


「なら握っとれ」


「うす」


 ルールの読み上げは短く、場外・降参・戦闘不能の説明が主だった。


「変わらねぇのかよ。相手魔法だぞ」


「変えたらここまでやってきた大会の意味がなくなるだろうが」


「いや、そもそもなんで俺なんだって話でな」


「優勝したからだに」


 グエンはそれだけ言うと他の教師らがいる方へ歩いていった。話は終わったらしい。エルダーは木剣の柄を握ったり緩めたりしながら、舞台の方を見た。電撃で焦げた跡なのか、床の中央あたりだけ色が黒くなっている。


「エルダー〜、生きてる?」


 柵から身を乗り出しているミオの後ろに、ソラとルリもいた。


「まだ始まってもねぇっての」


「差し入れ持ってきた!」


 ミオは布の包みを押しつけた。エルダーは中を見て、そのまま閉じた。


「なんで閉じるの!」


「今食うもんじゃねぇだろこれ」


「ゆで卵だよ?」


「殻ついたまんまじゃねぇか全部」


「剥きましょうか……?」


 ルリが小さく手を伸ばしかけて、途中で引っ込めた。


「なあソラ、お前どっちが勝つと思う」


「聞くのか、それ」


「おうよ」


 ソラは少し黙ってから、柵の向こうの舞台へ目をやった。


「肩、まだ焦げてたし」


「答えになってねぇぞ」


 そう言いながら、エルダーは木剣の先で自分の足首を叩いた。道場でも学院でも、相手は必ず剣を持っていた。魔法科の生徒と向かい合ったことは一度もない。


「そもそも魔法の奴とやったことねぇんだよな、俺」


「授業も分かれてますしね」


「じゃあ誰も知らねぇのかよ」


「……1回だけ見たことある」

 ソラが柵に肘を乗せ直した。


「入学前にさ。訓練場でアスカ先輩がリゼアと手合わせしたんだよ」


「はぁ!?マジかよ!んで、どうなったんだ?」


「踏み込んだ足が、途中で急に沈んだみたいに止まったんだ。地面は何ともなってないのに。その隙にリゼアが下がって、風魔法を3つ」


「…そんで?」


「先輩が全部避けて、次の魔法を出す前に懐まで入った。剣先がリゼアの顔の前で止まって終わり」


 エルダーが木剣の柄を握り直す。

「すげぇな、勝ってんじゃねぇかよ」


「懐まではいられたらキツいんだよ、たぶん」


「おーおー!それ聞くと勝てる気してきたな」


「アスカ先輩の話だからな、今の」


「やめろ」




 通路の奥から足音が2つ聞こえてきた。リゼアと、その後ろにセレナ。


「痛みが引いているだけですからね。無理はしないように」


「はい」



 セレナはリゼアの肩に巻かれた布へ指先で触れ、それ以上は何も言わずに記録席の方へ戻っていった。


「治ったのか?」


「……肩にお相撲さんが乗ってるような感じ」


「なんだよそれ」


「独特なセンスだな…」


 エルダーは木剣を肩に担ぎ直した。


「おい、手加減とかしなくていいからな」


「しないわよ」


「即答かよ」


「ぶい」


 リゼアが胸の前でピースサインを作る。その隣でミオが横で同じ形を作って、こちらに向けてきた。エルダーは無視した。


                 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 四隅の魔道具が低く鳴り始めた。


「エキシビションマッチ!武術科優勝、エルダー選手!魔法科優勝、リゼア選手!」



 通路寄りの柱の陰に、腕を組んだアスカが立っている。グエンは袖から動いていない。


 向かい合ったリゼアは、肩の布を巻き直したままだった。


「なあ、これ勝ったらなんか貰えたりすんのか」


「知らないわよ」


「だよなあ」


───始め!


「疲れてるから、早く終わらせるわよ」


 リゼアの手が下から上へ小さく払われる。


 風魔法が来た。太い一撃ではない。細く薄いものが、間隔を詰めて次から次に飛んでくる。


「っ!当然のように詠唱もなしかよ!」


 エルダーは木剣を横に払った。1本目は弾いた。2本目では腕が押し返された。まともに受ける物ではないと判断して剣を下ろす。


 3本目は首を傾けて外した。4本目は膝を折って下へ抜けさせる。5本目が肩の上を通り、空気の裂ける音が耳のすぐ横で鳴った。


 足は止めない。避けた分だけ前へ出る。


 柵の外の声が遠くなっていく。


「悪ぃけど」


 体ごと沈めて次を躱す。


「こっちも負けるつもりはねぇんだわ!」


 半分まで詰めたところで、正面から真横に風が走った。踏み込みかけた足を戻す。壁のように置かれたそれが消えるまで、1歩も進めなかった。


 消えた瞬間にもう1度出る。


 今度は床すれすれを這うように。気付けたのは、床に積もった煤が一直線に払われたからだった。判断より先に軸足を持っていかれる。


 体が横へ流れ、バランスを崩す。

 だがすぐに木剣を突いて起き上がる。膝に痺れが残っていた。顔を上げると、リゼアは同じ場所から動いていない。ここぞとばかりに前へと突っ込む。


 風の間隔はわずかに開いていた。ソラを投げた時と同じ距離まで、あと半歩。


 伸ばした手がリゼアの腕を捉えた。


 捉えたはずだった。


 唐突にリゼアの体が真後ろへ吹き飛び、舞台を半分ほど滑ってから片足で止まる。


 エルダーは自分の手のひらを見た。掴んだ感触すらなかった。


「……自分に当てたのか、今の」


「そうよ」


「そんな使い方あるかよ!」


 リゼアの肩が上下している。飛んだ先で息を整えているのが、この距離ならはっきり見えた。


「おいおい、もうお疲れか?」


「まだまだいけるけど、面倒なのよね」


「面倒って言ったな今」


「えぇ」


 リゼアの指先が床へ向いた。


 足元が短く弾け、煤と灰が一気に舞い上がる。視界が灰色に濁った。エルダーは腕で顔を庇いながら、その中へ突っ込もうと踏み出した。


 その粉塵が、宙で止まった。


 パキ、と細かい音が連なる。宙にいる形のまま、粉塵が白く固まっていった。粉塵を固めて凍らせたそれは落ちずに厚みを増していく。リゼアの前方から、こちらへ向かって。


 それはエルダーの背丈を越え、さらに上へ上へと伸びていく。数メートルはあろうかという氷の壁が、床を侵食しながら迫ってくる。


 木剣を氷の壁へ叩きつける。付与が跳ね返す感触だけが腕に返り、氷は削れもしない。


「おいおいおいおい」


 横へ走る。壁の端が同じだけ横へ伸びた。反対へ切り返しても同じだった。扇が閉じるように、立てる場所が減っていく。


 上を見た。天井には届いていない。届いていないだけで、登れる面でもなかった。指をかけようとした端から新しい層が張り出してくる。


 下がる。壁も来る。


 壁の向こうではリゼアの姿が見える。氷越しなので輪郭しか分からないが、動いてすらいない。


「なあ、押してるだけだろこれ!」


「押してるだけよ」


 もう一度叩いた。今度は木剣の先が氷に食われかけて、慌てて引き抜く。


「なあ、これどうすんだよ!?」


「下がるしかないんじゃない」


「質問を質問で返してんじゃねぇっ!!」


 踵が縁を探って、何もない場所を踏んだ。


 そのままエルダーは仰向けに舞台の下へ落ちた。




「じょ、場外!勝者、リゼア選手ーーっ!」




 歓声より先に笑い声が来た。


「……反則だろ、あれ」


 舞台の縁からリゼアが見下ろしている。


「反則じゃないわ。作戦勝ちって言って欲しいわね」


「ちげーよ!」


「納得いかない負け方した時の感情、理解できたか?」


 ソラが柵に手をかけたまま笑っていた。


「うるせぇ!お前が言うな!」


 起き上がって、目の前の壁を拳で一発叩いた。冷たさと硬さだけが返ってきて、手の甲が赤くなる。



 氷は溶ける気配がなかった。係の生徒が2人、壁を見上げて顔を見合わせている。記録席ではセレナが立ち上がり、教師の1人と何か話しては壁の方を指している。


「えー、閉会式は……氷が溶けてから行いまーす」


 まばらな拍手が会場に起きた。ミオが「えーっ!」と声を上げ、その隣でルリが座り込む場所を探し始める。壇上では学院長がマイクを持ったまま係の生徒に何か言われ、いったん椅子へ戻された。まだ何も喋っていないのに、袖の方で誰かが「長くなるぞ」と呟いている。


 リゼアは舞台の端に腰を下ろし、布の上から肩を押さえていた。


 舞台の傍では、悔しそうなエルダーの横に、ミオがゆで卵を1個置いていた。


今回もお読み頂きありがとうございました!


今回はリゼアとエルダーの試合でした。今回で最終戦となります。接戦になるかと思いきやまさかの決着のつき方でした!

次回からは大会も終わり、少しづつに学園での生活へ舞台がうつっていきます。

次回以降も是非に一読お願いします!


よければアクションやTwitterのフォローとかお願いします! @kuronekomaru015


未完成ですが一応作品HPあります→https://hasuki-kuro.github.io/seimyaku/


次回投稿は9月14日(月)6時を予定しております。


何卒よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。