39話:フィーナvsフレア
試合終了後、しばらく誰も口を開かなかった。
ミオは応援のために持っていたタオルを持ったまま固まっている。ルリは両手で口元を覆い、エルダーでさえ、いつもの軽口を飲み込んだままだった。ソラも柵に手をかけたまま、視線だけを舞台に向けていた。
舞台の上でカレンが係員に悔しそうに下がっていくのを、皆がただ黙って見送る。分厚い氷は既に崩れ落ち、舞台の半分だけが不自然に濡れて光っていた。
「……なんか…すごかったね〜…」
ようやく絞り出したミオの声も、いつもの元気はなかった。
柵の外側でも、あちこちから戸惑いの声が漏れていた。
エルダーがわざとらしく咳払いをする。
「い、いやぁ、さすがだよなぁ、リゼアは!氷像の展示即売会でも始めるのかと思ったぜ」
「今そういうテンションじゃないでしょ!?」
「いや分かってる分かってる、ちょっと空気変えたかっただけだって」
ミオが咎めるように声を上げたことで、強張っていた空気が少しだけ緩んだ。ルリも小さく息を吐き、握っていた柵から手を離す。
「……リゼアさん、やっぱり規格外ですね……」
「あいつなら何やってもおかしくないし」
エルダーが肩を竦めながら続ける。
「次の試合で手からナタデココ出してナタデココ爆弾ー!とかやっても俺もう驚かねぇぞ」
「いやそれは驚くだろ」
ソラがすかさず言葉を返した。
「さすがにそんな事はしないと思いますけど…次、ミオさん多分リゼアさんとですよね」
ルリの言葉に、ミオが「うっ」と小さく呻いた。
柵の外がざわつく合間を縫うようにして、リゼアがゆっくりと歩いてきた。手にはまだ、うっすらと冷気の名残がある。
「よう、リゼア。今のはさすがにやりすぎじゃないか?」
エルダーが苦笑交じりに声をかける。
「そう?普通にやっただけよ」
抑揚のない声で返しながら、リゼアは柵に軽く肘を乗せた。
「ふ、普通って……」
ルリが言葉に詰まる。
「ね、ね、さっきの脅し文句、あれ本当にできるの?」
ミオが興味津々に身を乗り出す。
「さあ、どう思う?」
「次はどうせミオでしょ、試してみる?」
「え!?わ、私!?」
ミオが悲鳴に似たような、怯えた声を上げる。
「あれだな、怪談話とかによくある次はお前だー!みたいな」
「ちょっとソラ!他人事だからって」
慌てるミオを見てリゼアが小さく笑った。
ちょうどそこへ、係員のアナウンスが割り込む。
「次、魔法科2回戦第3試合!フィーナ選手対フレア選手!」
係員の声に、ミオがハッと顔を上げる。
「あ、フィーナさんとフレアさんの番だ!」
「フレアって子は1回戦で土の魔法張り合いながらずっと撃ち合ってた人だったか」
ソラが思い出したように声を上げる。
「ああ、あの我慢比べみたいなやつか。結局、根負けさせて勝ったんだったよな」
エルダーが頷きながら記憶を辿る。舞台に目を移すと、対照的な2人が舞台に上がってくるのが見えた。動じない無表情のフィーナと対するのは、燃えるような赤髪を靡かせた女子生徒のフレアだった。
「その無表情な顔、すぐぎゃふんと言わせてやるんだから!」
開始線に着くなり、フレアが不敵な笑みを浮かべて拳を握った。フィーナは全く気にすることなく、ただ静かに定位置についている。
「フレアさん、なんか妙に気合い入ってません?」
ルリの言う通り、フレアは開始の合図と同時に踏み込んでいた。
「――もらったぁ!」
──パーティクルエミッション・アンタレス!
連続する炎の弾が、間髪入れずにフィーナへ1発、2発、3発と次々に押し寄せる。防御に徹するフィーナが、じりじりと後退させられていく。
「1回戦の時とは違ってえらく攻撃的だな」
ソラは柵に軽く肘をつき、炎の弾幕越しにフレアの表情を窺っていた。
フィーナは表情ひとつ変えず、最小限の動きで炎の軌道を逸らし続けている。だが、押し込まれる分だけ舞台の端が近づいていくのも事実だった。
「まだまだーっ!!」
フレアが声を張り上げ、両手を左右に広げた。
──パーティクルエミッション・アンタレス!
今度は散弾のように小さな炎が幾つも撒かれる。数の多さで防御を崩す狙いのようだったが、フィーナは半身になっただけで、必要な分だけを的確に弾き落とした。
「あんなに撃たれてるのに、涼しい顔してますね……」
ルリが小声でこぼす。フレアの息は既に上がり始めていた。
「はぁ…はぁ……しつっこいわね…涼しい顔してないでかかってくるなり何なりしなさいよ!」
「……」
フレアがフィーナに話しかけるものの、フィーナは無表情でフレアを見つめたまま動かない。
「もう怒ったんだから……これで終わりよ!」
フレアがひときわ大きな炎の塊を頭上に形成させる。爆ぜるような閃光が舞台を包み、視界が真っ白に染まる。
──パーティクルエミッション・ベテルギウ…
フレアが詠唱を行っている途中、フィーナが背後から現れた。爆炎と閃光で自らの視界も塞がれていたことに、フレアは気づいていなかった。
そして、フィーナは静かに呟く。
──デジタルエミッション・キューブ
背後から光線のような箱状のものが無防備な背中を撃ち抜いた。
「うにゃああああああああ!!!!!!!!」
フレアの体が大きく吹き飛び、そのまま場外へと沈んだ。
「勝者、フィーナ選手!」
「見たことない魔法…」
ミオが呆然と呟く。ルリも頷きながら、肩の力を抜いた。
「これにて本日の2回戦は以上!残る1試合の結果と合わせ、準決勝の組み合わせは明日の朝までに掲示板に貼り出す!」
審判のアナウンスに、柵の外がどよめいた。
「え、今日はここまでなの?」
「ま、しゃねーだろ。お楽しみは取っとけってな」
エルダーが伸びをしながら言う。ミオはまだ心なしか青い顔をしていたが、ひとまず詰めていた息を吐き出した。
「よし、今日はもう帰ろっか……」
「珍しく素直だな」
「今日は色々見過ぎて、なんかもうお腹いっぱい……」
5人は賑わいの残る会場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、掲示板前にはすでに人だかりができていた。
「うわ、また今日もこれか……」
ミオが背伸びをしながら呻く。人垣の隙間から、ソラが対戦表を覗き込んだ。
「あった。準決勝の組み合わせ」
「え、どこ!」
ミオが割り込むようにして隣に体をねじ込む。指でなぞった先に並んだ名前を見て、しばらく黙り込んだ。
「ですよねーーー…」
なぞった先にあったのは、『リゼア対ミオ』の1文だった。
「ミオ、すごい顔してるけど大丈夫か?」
エルダーの声にも、ミオはすぐには反応しなかった。顔は青白く、指先は少しだけ白くなっていた。
「……ねぇソラ」
ようやく口を開いたミオの声は、震えていた。
「知ってた、知ってたけど……今から入れる保険って、あるかな…?」
冗談めかそうとした声は、最後まで力なく萎んでいった。ミオはただ、虚空を見つめていた。
今回もお読み頂きありがとうございました!
今回はフィーナvsフレアのお話でした!
前話に続き、今回も実力者の2人が戦うお話でした。
次回はミオ対リゼアです!果たしてミオに勝機は…?次回もお楽しみに!
よければアクションやTwitterのフォローとかお願いします! @kuronekomaru015
未完成ですが一応作品HPあります→https://hasuki-kuro.github.io/seimyaku/
次回投稿は8月31日(月)6時を予定しております。
何卒よろしくお願いします!




