第2話・旅立ち
翌朝、ソラはいつもより早く目が覚めた。
霧がかかり、外がまだ薄暗い頃。支度を済ませ、剣を背負って家を出た。向かったのはあの場所だった。森の外れ、なだらかな斜面が緩く落ち込んでいる、あの何かが土の中から顔を覗かせている場所だ。
そこにはリゼアがいた。
斜面の前にしゃがみ込んで、じっと眺めていた。
「リゼアも来てたのか」とソラは言った。
「……ソラこそ」とリゼアは答えた。
ソラは隣にしゃがんだ。二人でしばらく、黙ってそれを眺めた。
「リゼア」
「なに?」
「俺、旅に出るよ。」
リゼアの体が、少し固まった。しかし、そこまで動揺したようには見えなかった。
「これが何なのかを知りたい。村の外に何があるのかを知りたい。色んなことを知って、学んで、もっと世界のことを知りたいって思ったんだ。」
リゼアはしばらく黙っていた。目は動かさないまま、膝をきつく抱えた。
「……いつ?」
「明日の朝」
また沈黙が続いた。風が草を揺らして、どこかで鳥が鳴いた。
「一人で行くつもりなの?」
「一人で行くつもりだった。何があるかわからないし、危ないかもしれない」
「私も行きたいって言ったら?」
「……来てくれるなら、嬉しい」
リゼアはようやく振り返った。ソラを見る目は、怒っているのか、呆れているのか、それとも別の何かなのか、読めなかった。
少し頬を膨らませてから、小さく笑ってリゼアは立ち上がった。
「荷物、まとめてくるね」
そう言うとリゼアは歩き去った。
ソラはその背中を見送った。小さくて、でも迷いのない足取りだった。一人残されたソラは、もう一度土の中から顔を覗かせるそれに目を向けた。鈍い光を帯びた灰色の面が、朝の光の中で静かに佇んでいた。
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その日の午後、ソラは家に戻った。
親に旅に出ることを告げた。父は少し黙ってから、「そうか」とだけ言った。それから立ち上がり、納屋から使い古した革袋を引っ張り出してきた。「これに食いもんでも詰めろ」と言って、ソラの手に押しつけた。
「朝は冷えるからな。厚着していくんだぞ」
母は台所で鼻歌を歌いながら夕飯の支度を続けていた。ただ、いつもより品数が多かった。ソラの好きなものばかりが並んでいた。
「遠くに行くんでしょ。ちゃんと食べて、健康にも気をつけるのよ」
引き留めはしなかった。ただ、いつも通りに接してくれる中に、『冒険を頑張れ』というメッセージが込められているように感じられて、ソラはそれが嬉しかった。
二人はソラの育ての親だった。血は繋がっていない。それでも、本物の親以上に大切に育ててくれた。
夜、荷物をまとめながらソラは部屋の隅に置かれた小さな箱を開けた。中には布に包まれた短剣が一本入っていた。実の親から受け継いだものだと、父から聞いていた。それ以上のことは何も知らない。
刃は古びていたが、不思議と錆びていなかった。柄には見たことのない文字が刻まれていた。何を意味するのかは父も、当然ソラにもわからなかった。
ソラはその短剣を荷物の中に丁寧にしまった。
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翌朝、約束の場所にリゼアが先に来ていた。小さなカバンを背負って、ソラを待っていた。
「準備はいい?」とソラが聞いた。
「うん」
「じゃあ、行こう」
二人は歩き始めた。長い旅の始まりだった。




