24話・ペア制度
『よろしくお願いします』
朝礼が終わると、グエンが黒板の方を向き、チョークで四角と丸をいくつか描き始めた。線で繋ぎながら、何かの図を組み立てていく。
「今日は稽古の前に、伝えとくことがある」
教室がざわつくというより、少し身構えるような空気になった。グエンが黒板を使うこと自体が珍しい。
「おみゃーらには、いずれ先輩とペアを組んでもらう」
「ペア?」
誰かが聞き返す。グエンは黒板に「1年」「3年」と書き込み、その間を線で結んだ。
「1年は3年、2年は4年と組む。指導係みたいなもんだ」
「じゃあ俺たちも先輩に教えてもらえるってことですか?」
エルダーが手を挙げずに聞いた。グエンは小さく頷く。
「ただし、詳しいことは武闘大会の後だに」
後方の席から小さな笑いが漏れた。まだ皆、語尾になれないようだった。グエンは表情を変えず、黒板消しで図の一部を消した。
「大会の結果を見た上で、先輩側が誰と組むか決める」
それだけ言うと、いつも通り訓練場へ向かって歩き出した。生徒たちは顔を見合わせながらも後に続く。
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訓練場に着くまでの廊下で、エルダーがソラの隣に並んだ。
「先輩とペアって、いきなり言われてびっくりだよな〜」
「そうだな」
「お前、誰か希望とかあるか?」
「いや、まだ全然。先輩とかもあんまり知らないし」
「そうか」
「俺はさ」
エルダーは少し声を落とした。
「アスカ先輩がいいなって思ってる」
「意外だな」
「意外か?」
「エルとは合いそうにないかなって」
「そこがいいんだよ。俺、抜けてるとこ多いから、ああいうきっちりした人に見てもらった方が伸びる気がして」
「なるほどな」
珍しく真面目な物言いだった。ソラは少し驚いたが、それ以上は突っ込まなかった。
訓練場に着くと、ローライトが既に木剣を持って素振りをしていた。誰よりも早く来て訓練をはじめていたようだ。
「あいつ、ペアの話聞いてどう思ったんだろうな」
エルダーが小声で言う。
「別に何とも思ってないだろ」
「かもな。あいつなら、大会で結果出せば先輩の方から寄ってくるとか思ってそうだし」
ソラは肩をすくめただけで、何も言わなかった。ローライトの方をちらりと見ると、こちらの視線に気づいたのか、一瞬だけ動きを止めた。目が合ったが何も言わずまた素振りに戻った。それだけのことだったが、空気が少しだけ張り詰めた。
「……今日も感じ悪いなぁ、あいつ」
「慣れろって」
「お前がそれ言う?」
小さく笑い合いながら、2人は自分たちの場所へ向かった。
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その日の稽古を終えると、ソラは足早ににゃごすちんへ向かった。ミオから「今日は早く帰ってきてね!」と朝のうちに言われていたのを思い出したからだった。
店の扉を開けると、ベルの音が店内に響いた。
「あ、来た来た!」
奥の席でミオが手を振っている。その向かいには、既にリゼアが座っていた。
「早いな」
「魔法科の方が先に終わったのよ」
リゼアはそう言いながら、テーブルの上のカップを両手で包んでいた。ミオは何やら紙を広げている。
「何それ」
「ふっふーん!ペア制度の相関図である!」
紙には四角と丸が線で繋がれ、いくつもの名前が書き込まれていた。
「相関図って、まだ組む相手すらわかってないだろ」
「予想は自由でしょ!」
リゼアが呆れたように紙を覗き込んだ。
「これ、ミオとセレナ先生繋がってるけど」
「え、ダメなの?先生と組むの一番安全そうじゃん」
「先生は教師よ、ペアの対象外」
「あ……そっか」
ミオはあっさり納得すると、紙をくしゃっと丸めて自分のポケットにしまった。それだけのことに30秒近くかけた図が無駄になった。
「まあでも」とリゼアが続けた。
「大会の結果でペアが決まるっていうの、地味に嫌よね」
「嫌?」
「だって、強い人ほど良い先輩を選べるってことでしょ。負けたら、余り物みたいな組み合わせにされるかもしれない」
「あー……」
「試合の勝ち負けだけならまだいいけど、その後の数年間まで左右されるって思うと、ちょっと重いなって」
ソラは黙って話を聞いていた。言われてみればその通りだった。現状の強さと、これからの人間関係が、同じ舞台の上に乗せられている。
「ソラは誰がいいとかあるの?」とミオが聞いた。
「まだ全然考えてない」
「アスカ先輩とか?」
「エルダーもそれ言ってた」
「あちゃー!被っちゃったか!」
ミオが笑う。カウンターの奥からネロが顔を出し、3人の様子を見て小さく微笑んだ。
「賑やかだね」
「聞いてた?ペアの話」とミオが聞く。
「声、大きいからね」
ミオが少し恥ずかしそうに肩をすくめた。リゼアがそれを見て小さく笑う。
「まあ、誰と組んでも案外どうにかなるものですよ」とネロが布巾で手を拭きながら言った。
「はい、これサービスだよ」
ネロは紅茶とネコとネズミのクッキーをカウンターの上に置くとまた調理場の奥へと戻っていった。
甘い匂いに誘われたのか、足元でちゃちゃ丸がひょこっと顔を出した。
「あ、ちゃちゃ丸」
「珍しいね、この時間に」とミオがしゃがみ込む。
手を伸ばすと、ちゃちゃ丸はすんと匂いを嗅いだだけで、また机の下に引っ込んでしまった。
「……フラれたね」
「フラれてないもん、様子見てるだけだもん」
「様子見て逃げられるの、それもう嫌われてるでしょ」
リゼアが呆れたように言うと、ミオが「違うもん!」とむきになって言い返した。ソラは小さく笑った。
窓の外はもう暗くなり始めていた。
◇
今回もお読み頂きありがとうございました!
今回は学院のペア制度のお話でした。ペア制度の作戦会議(?)をするつもりだったのに秒でオジャンになってしまうミオ、流石です!!!
よければアクションやTwitterのフォローとかお願いします! @kuronekomaru015
未完成ですが一応作品HPあります→https://hasuki-kuro.github.io/seimyaku/
次回投稿は7月25日(土)6時を予定しております。
何卒よろしくお願いします!




