23話・魔法科の授業
魔法科の教室は、武術科よりも一回り小さかった。机の並びも詰まっていて、窓際の一列は既に埋まっている。リゼアが入り口をくぐると、後方の席からミオが大きく手を振った。
「リゼアー!こっちこっち!」
声の大きさに、周りの生徒が何人か振り返った。リゼアは小さくため息をついてから、その席に向かった。
「朝から元気ね」
「元気じゃない日なんかないよ!」
ミオは得意げに胸を張った。机の上には包みが置かれている。
「それは?」
「差し入れ!お父さんが今朝作った猫型クッキー」
「……猫、型?」
「うん。にゃごすちんの新メニュー用に試作したやつ、余ったから持ってきた」
包みを開けると、確かに猫の顔を模したクッキーが並んでいた。輪郭がやや歪で、片方は耳の位置が取れていた。
「これ、右のやつ耳ないんだけど」
「あ、それ焼いてる途中で折れたやつ」
「食べていいものなの、それ」
「味は同じだから!平気平気」
リゼアは呆れながらも一枚つまんで口に運んだ。
「……美味しい」
「でしょ!」
ミオが満足げに笑うのと同時に、教室の前方の扉が開いた。入ってきたのは穏やかな顔立ちの女性教師だった。歩き方に無駄がなく、教室に入っただけで空気が少し静かになる。
「おはようございます。セレナです」
挨拶とともにセレナは教壇の前に立った。
「今日は魔法の説明はしません。まず皆さんがどんな魔法を使うのか、見せてもらいます」
教室がざわついた。
「属性の指定とかないんですか?」
誰かが尋ねると、セレナは小さく首を振った。
「ありません。皆さんが既に得意としているものを、私が見たいだけです」
言い方こそ柔らかいが、内容はグエンの授業とほとんど同じだった。ミオがリゼアの袖を軽く引いた。
一人ずつ名前を呼ばれ、教壇の前で簡単な魔法を披露していく。手のひらに小さな炎を灯す者、水を出す者、風を起こす者。セレナはその都度、静かに頷きながら手元の紙に何かを記していた。
「ミオさん」
「はいっ」
呼ばれたミオは元気よく前に出ると、両手を広げた。
「えーっと、これ得意です!」
手のひらから小さな光の玉がいくつも浮かび上がり、教室の中をふわふわと漂った。歓声が上がる。セレナは微笑みながら、紙に何か書きつけた。
「リゼアさん」
名前を呼ばれ、リゼアは前に出た。特に気負う様子もなく、手をかざす。
次の瞬間、教壇の周囲の空気がわずかに歪んだ。誰かが小さく「え」と声を漏らす。無詠唱だった。教師も生徒も、何が起きたのか一瞬理解が追いつかない様子だった。
セレナだけが、表情を変えなかった。
「……ありがとう。もういいわ」
それだけだった。他の生徒に対する反応と、口調も態度も変わらない。だが、紙に書きつける手が、一瞬だけ止まっていた。
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授業の合間、休憩時間に入ると、教室の後方で数人が固まって話していた。その中に見覚えのある顔があった。
「あなたがリゼアさん?」
声をかけてきたのは、落ち着いた雰囲気の女子生徒だった。表情に感情の起伏が少なく、こちらを観察するような視線を向けている。
「そうだけど」
「フィーナです。よろしく」
名乗った以上のことは特に言わなかった。ソラとの会話でローライトの従者だということは、リゼアも既に耳にしていた。
「何か用?」
「別に。さっきの魔法が綺麗だったから」
感想にしては温度が低い言い方だった。リゼアは軽く肩をすくめた。
「それだけ?」
「それだけ」
フィーナはそう言うと、特に踏み込むこともなく席に戻っていった。ミオが横から小声で耳打ちする。
「あの子、ローライトのとこの子だよね」
「ええ」
「まぁ、そういう子もいるんじゃない」
軽く流したものの、リゼアの視線は自然とフィーナの方へ向いていた。彼女は自分の席に戻ると、何事もなかったような顔で隣の生徒と話し始めている。さっきまでの観察するような視線が嘘みたいだった。
「変な子ね」
「うんうん、へんなこー」
ミオはクッキーを頬張りながら答えた。口の端についた欠片に気づかず、もぐもぐと咀嚼している。
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放課後、教室を出たところで、ミオがまた包みを取り出した。
「これも味見してくれる?次のメニュー候補!」
「今度は何の形」
「ネズミ!」
「猫カフェでネズミって攻めてるわね」
「猫が喜ぶかなって」
「客が食べるのよ、それ」
ミオはきょとんとした顔をした後、少し考えて頷いた。
「……確かに」
2人で笑いながら廊下を歩いていると、窓の外に訓練場が見えた。武術科の生徒たちが木剣を振っている。遠目にソラらしき姿もあった。
「向こうも大変そうだね〜」
「そうね」
それだけ言って、リゼアは視線を戻した。ミオはしばらくこちらを窺うように見ていたが、やがて包みの中からネズミの形のクッキーを取り出した。
「そういえばこれ、まだ味の感想聞いてなかったよね」
「別に、普通に美味しかったわよ」
「普通て!もっとこう、感想が欲しいんでふがっ!」
ミオは頬を膨らませながら、残っていたネズミの耳の部分を口に放り込んだ。
「じゃあ、次は違う形にしてみる?」
「なんて言うかその、形の問題じゃないのよ…」
リゼアは呆れたように言いながらも、手を伸ばして最後の一切れを取った。ネズミの頭の部分だった。それを一口かじって少しだけ微笑んだ。
「…美味しい」
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今回もお読み頂きありがとうございました!
今回は魔法科の授業のお話でした!ソラがメインじゃないお話は初めてだったかな?やっぱりミオが出てくると筆が乗りますね〜、書いてて楽しいです。お話も綺麗にまとまった気がするしお気に入りの回となりました!
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未完成ですが一応作品HPあります→https://hasuki-kuro.github.io/seimyaku/
次回投稿は7月22日(水)6時を予定しております。
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