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星脈と位相の狭間で  作者:
旅立ち編
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第18話・合格発表


 結果発表までは三日あった。

 その三日は、やけに長く感じられた。


 朝は走り、昼はにゃごすちんを手伝い、夕方は訓練場へ行く。やることは何も変わらない。むしろ、変えることが少し怖いような気もしていた。訓練中は木剣を振る手元がどこかふわふわしていた。


 ーーザッ。


「止まれ」

 アスカの声がした。ソラは振り返った。


「今、何回振った」


「……えっと」


「数えてなかっただろう」


 図星だった。ソラは口をつぐんだ。

 アスカは腕を組んだまま、しばらくソラを見ていた。それから、「はぁ」と短くため息をついた。


「試験のことを考えているなら無駄だ。やめておけ」


「……はい」


「終わったものはどうにもならん。出来が良ければ合格、悪ければ受からん。今さらどうこう考えたところで今振っている剣はそれとは関係ない」


 言い方はいつも通り、素っ気なかった。それでも妙に芯に届いた。


「もう一度」


「……はい!」


 ソラは構え直した。今度は、ちゃんと数を数えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 昼下がりのにゃごすちんは、客がまばらだった。


 ソラがテーブルを拭いていると、ミオがカウンターに頬杖をついてこちらを見ていた。


「じーーーっ」


「……」


「じーーーーーーっ」


「……」


「ねぇねぇソラ、緊張してる?」


「……してない」


「嘘だ嘘だぁ~」


「してない」


「じゃあ、なんでさっきから同じテーブル三回拭いてるの」


 ──あっ

 ソラは手を止めた。布巾を握ったまま、しばらく動かなかった。


「……してるかも」


「やっぱり!」

 ミオが得意げに笑った。


 その時、足元に何かが触れた。見下ろすと、ちゃちゃ丸がソラの脚にぴったりと体を寄せてスリスリしていた。前足をかけて、よじ登ろうとしている。ソラがしゃがんで抱き上げると、おとなしく腕の中に収まった。喉がごろごろと鳴った。


「えー、ずるい!ちゃちゃ丸、またソラだけ!」


 ミオがカウンターから身を乗り出して手を伸ばすと、ちゃちゃ丸はぷいっと顔をそむけた。


「なんでよ〜!あたし、ずっと一緒に住んでるじゃんか~!」


 ソラは何も言わず、ちゃちゃ丸の背を撫でた。もふもふとした感触に心が癒される。さっきまで胸の奥にあった落ち着かなさが、少しだけ薄れた。


 ミオは奥の席に座っていたリゼアのもとへ走って行って、あれやこれやとちゃちゃ丸の行動に対して抗議していたようだが、リゼアはそんなミオを無視して本を読んでいた。顔を上げる気配はない。試験のことも、ちゃちゃ丸のことも、まるで別世界での出来事のような落ち着きようだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その夜、二階の部屋でソラは天井を見ていた。


 眠ろうとしても目は冴えていた。寝返りを打つ。酔っ払いだろうか、騒ぐ人の声がやけに大きく聞こえた。


 階下からもまだ小さく物音がする。ネロが店を閉める音だ。皿を重ねる音、椅子を上げる音。それが一つずつ消えていって、やがて静かになった。


 ソラは首元のネックレスに手をやった。指先で細い鎖をたどる。相変わらず妙に重く、光の当たり方で色が変わる、あれだ。


 アッシュさんは今頃どこにいるんだろう。

 ふと、そんなことを思った。


 ──強くなれ。


 あの時の声が頭の中で鳴った。


 明日になれば合否がわかる。受かっていればいい、そう思いながらソラは目を閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〜結果発表当日〜



「行ってきます!」「行ってきます」


「行ってらっしゃい、合格報告、期待して待っていますね」


ソラとリゼア、ミオの三人はにゃごすちんを出ると一緒に学院へと向かった。その日の空は、青い絵の具をそのまま零したようなきれいな青空だった。



 学院の正門前には、人だかりができていた。


 そこには掲示板が二枚並んでいて、受験生やその親らしき人々が群がっている。歓声と、ため息と、すすり泣く声。受かった者の声と、そうでない者の声が、同じ場所で混ざり合っていた。


 ソラは足を止めた。


 心臓が、バクバクと音を立てている。


「……行かないの?」


 リゼアが横で言った。涼しい顔をしている。本当に自分の結果が気にならないんだろうか、とソラは思ったが、口には出さなかった。


 ミオが背中をぐいと押した。


「ほらほら、見なきゃ始まらないでしょ!」


 人をかき分けて、掲示板の前に出た。


 受付番号が、ずらりと並んでいた。合格者の番号だ。


「ソラは何番?」


「58番」


 ソラは自分の番号を探した。視線を上から下へとうつす。心臓の音がうるさい。一つ、二つーー。


 ……ない?


 一瞬、頭の中が真っ白になった。


 もう一度、上から見直した。今度は、ゆっくり。


 ーーあった


 一番下から数えて、六つ目。確かに、自分の番号があった。


「ソラよかったね~!合格!おめ!おめっ!!」

 ミオがソラの肩をガクガクと揺さぶる。

 ソラは長く息を吐いた。膝から力が抜けそうになった。


「リゼア、あったよ。俺ーー」


 振り返ると、リゼアはソラとは違う掲示板を見ていた。


「ソラの番号、そんなとこなの。私のはここ」


 リゼアが指したのは、一番上の方だった。


「えっ、リゼア一番上じゃん!すごっ!」


 ミオが声を上げた。リゼアは何も言わず、少しだけ得意げな顔をしてから視線を逸らした。


 少し離れたところで、ローライトが掲示板を見上げていた。両隣には前に見かけた二人もいる。ローライトはちらりとこちらを見て、口の端を上げた。


「へえ。受かったんだ、村の人間が」


「あぁ」


「まぁせいぜい目障りなことはしないでおくれよ」


 それだけ言ってローライトは背を向けた。二人の女性もその後に続いていく。

 ソラは何も言い返さなかった。言い返す必要も感じなかった。


 受かった。今はそれで十分だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 にゃごすちんに戻ると、ネロと猫たちが出迎えてくれた。


「おかえりなさい。どうでした?」


 ミオが両手を上げて丸を作った。

「二人とも合格〜!!リゼアなんて、一番上だったんだよ!」


 ネロは目を細めた。

「それはおめでとうございます。今夜はごちそうにしましょうか」


「やったー!」


「ミオは手伝ってくださいね」


「えっ」


「えっ、ではありませんよ」


 ネロの口元は笑っていたが、目はそうでもなかった。ミオが「はーい……」と肩を落とした。


 リゼアは奥の椅子に腰を下ろして、湯呑みを手に取った。合格を喜ぶでもなく、いつもと同じ顔で茶をすすっている。


 ソラは、そんな三人を眺めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方、ソラは訓練場へ向かった。アスカに伝えておきたかった。


 アスカはいつも通り、端の方で素振りをしていた。ソラが近づくと、手を止めずに言った。


「受かったのか」


「えっ、はい。なんで分かるんですか」


「顔がな」


 ソラは思わず自分の頬に手をやった。

「顔に…出てましたか?」


「誰でもわかるさ」


 アスカは素振りを続けた。


 ーーザッ。


 しばらく、剣が風を切る音だけが続いた。


「入学したら、しばらくは基礎だけをやらされる。退屈だろうが、土台だ。サボるなよ」


「はい」


「……まあ、よくやった」

 ぼそりとした一言だった。ソラは思わず笑った。


「ありがとうございます!」


「うるせぇな…」

アスカがぽりぽりと頭をかいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ~入学の日~


 学院の門は、外から見上げていた時よりもなお高く見えた。


 新入生がぞろぞろと門をくぐっていく。ソラとリゼアも混じり、歩いて行った。ミオは入り口まで一緒に来ていたが、途中入学のソラたちと違ってもう既に在籍している身だ。


「がんばってね!」と手を振ってそのまま自分のクラスの方へ消えていった。


 武術科の新入生は、中庭に面した広間に集められた。リゼアは魔法科なので、ここで一度別れることになる。

「じゃあ、また後で」


「えぇ」

 短く返事をするとリゼアは向かい側に見える人だかりの方へ歩いて行った。相変わらずどういう心境なのかイマイチわからなかった。

 

 ソラが広間の隅に立っていると、横から声がかかった。


「あっ、お前あの時の」


 振り返ると、体格のいい少年が立っていた。ソラより頭半分ほど背が高く、肩幅が広い。試験の時、試験官と五回打ち合っていた、あの受験生だった。


「あの時の?」


「試験だよ試験!俺の少し後に試験官とやってたろ。村から来たって噂のやつ、お前だろ?」


「……あぁ、そうだけど」

 またローライトのパターンかとソラは身構えた。


「やっぱり!いやー、あの試験官キツかったよなあ。俺なんか五回打ち合って、最後ぶっ飛ばされたもんな!」


 少年は豪快に笑った。さっきまで広間に張りつめていた緊張が、その笑い声でどこかへ行ってしまった。

 どうやらローライトのような性格ではないのは間違いないらしい。


「俺はエルダー。みんなエルって呼んでる。アレシスの道場の出でさ。お前は?」


「ソラだ」


「ソラか。同じ武術科だし、これからよろしく頼むぜ」


 エルダーが手を差し出した。ソラはその手を握った。大きく、手のひらには肉刺(まめ)がいくつもあるごつごつした手だった。

 広間の反対側に、見覚えのある明るい茶色の髪が見えた。ローライトだった。武術科ということは、これから同じ場所で学ぶことになる。ローライトはこちらに気づいた様子もなく、腕組みをして退屈そうに前を見ていた。やがて、教授らしき人物が広間の前に立った。ざわめきが少しずつ静まっていく。


 ソラは前を向いた。

 ーーーここから始まるんだ。


 そう思った時、隣でエルダーが小声で言った。

「なあ〜、この後メシ出るのかな」


「……知らないよ」


 マイペースなエルダーの発言にソラは小さく笑って、前を向き直した。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


今回は試験に合格したお話でした!

ここからは2章がスタート、学園生活がスタートします!

個性の強い色んなキャラクターも登場する予定ですので、今後も読んでくださるととても嬉しいです!


よければアクションやTwitterのフォローとかお願いします! @kuronekomaru015


未完成ですが一応作品HPあります→https://hasuki-kuro.github.io/seimyaku/


次回投稿予定は7月4日6時の予定です。

何卒よろしくお願いします!

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