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星脈と位相の狭間で  作者:
旅立ち編
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13/18

第12話・五つの型

 

 翌朝、ソラが訓練場に着いた時にはアスカは端の柵の前に立ち、昨日と変わらない姿勢で木剣を振っていた。

  ソラが来たことに気は付いていたようだが振り返らなかった。


 ソラは置いてあった木剣を一本手に取り、少し距離を置いて素振りを始めた。


 ーーザッ。


 一振り目。昨日言われた重心が高いという声が頭の中で鳴り響いた。意識して腰を落とした。

  二振り目、踏み込みが前に出すぎる。

  三振り目、少し抑えた。

  四振り目、少しましになった気がした。

  毎回、一振り人一振りを意識して素振りをする。


 リゼアが来たのはそれから少し後だった。


 特に何も言わず、ソラの隣を素通りして端の方のひらけた場所に陣取ったかと思いきや、体操をし始めた。アスカに言われた通り、走り込みから始めるらしかった。


 ソラはそれをちらりと見てから、また前を向いた。


 ーーザッ。ザッ。ザッ。


 振り続けた。腕が温まってきた頃、アスカが素振りを止めてこちらに歩いてきた。ソラも振る手を止めた。

「腰はさっきよりましだ」


「そうですか」


「だが、まだ姿勢が高い」


 ソラは何も言わなかった。アスカもそれ以上は続けなかった。また自分の場所へ戻って、素振りを再開した。


  ひたすらに言われたことを反復して体に覚えさせた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 三日が過ぎた。


 初日に比べて、訓練場の空気が少し変わった。

  ——というよりも、ソラが慣れただけかもしれなかった。場所の感じ、周りで特訓に励んでいる人たち、日の当たり方。木剣の重さも、最初より手に馴染んできた。


 アスカとの間に会話が増えたわけではなかった。相変わらず必要なことしか言わなかったし、言い方も特に柔らかくなったわけでもなかった。ただ、一方的に指摘されるだけだった最初の日とは、少しづつだが何かが変わっているような気がした。何が違うのかはうまく言葉にできなかった。




 四日目の夕方。


 ソラがいつものように素振りをしていると、アスカが向こうから歩いてきて、珍しく「止まれ」と話しかけてきた。


 振りかけた木剣を止めて、振り返った。


「あそこに座れ」


 アスカは少し離れた場所にある机と椅子のある場所を指さした。促されるまま歩いて向かい、椅子に腰を下ろした。アスカも木剣を机に立てかけて、向かいに座った。


 少し間があった。


「初めに見た頃に比べてまだ見れるレベルにはなった」


「…はい」

  まさか少しとはいえ褒めてくれるとは思っていなかったので驚いたが、小さく返事だけをして続きを待った。


「このまま素振りだけをしていても仕方ない。学院で教えている剣術の型について少しだけ教える」


  ソラは嬉しくなり少し顔が明るくなる。


「まず、剣術には五つの型がある」


「学院で正式に教えているのはその五つだ」


「五つの型、ですか」


 アスカは指を折りながら続ける。

 

  一つ。


「第一の型、真。全ての型の土台になる。広範囲を相手取ることに適した戦闘の基本形になる型で、もし入学できたら1年ではこれから学ぶことになる」


 二つ。


「第二の型、剛。相手の攻撃を受けた後のカウンターの一撃に全てを乗せる。当たれば大きいが、素早くはない上に外した時のリスクも高い」


 三つ。


「第三の型、静。防御と受け流すことを目的にする最も守ることに適した型だ。消耗が少ない代わりに、それだけで相手を崩すのは難しい」


 四つ。


「第四の型、迅。速さで押す連続攻撃だ。多数の相手とやり合う時には有効だが体力を食う。長くは続かない」


 五つ。


「第五の型、捌。相手の動きを読んで先手を取る。使い手の中には魔法で牽制したりして自分の間合いに引き込んで戦うヤツなんかもいる。五つの中では一番玄人向けだ」



「全部使えるようになるのが理想、ということですか」とソラは聞いた。


「いや違う。普通は自分に合う型を決めて型を選ぶ。全部を中途半端にやるより、一つを突き詰めるのが理想的だ」


 ソラは五本の指をぼんやりと眺めた。真、静、迅、剛、捌。声に出さずに繰り返した。


「アスカさんの型は」


「俺のは剛だ」


 ソラはアスカと最初に手合わせした時のことを思い返した。速くはなかった。ただ一撃一撃が異様に重かった。受け止めるたびに腕に衝撃が走って、五撃目で木剣が吹き飛ばされた。あの力は確かに、一撃に全てを乗せるような——。


「お前も似たような型だ」


「俺が、ですか?」


 アスカはソラをまっすぐ見た。


「最初の手合わせの時、お前は踏み込みの一発目から全部の力を乗せようとしていた。速さやテクニックで揺さぶる気がなかった。重さ、いや、それこそ力で押し切ろうとする。自分でそのつもりはなかっただろうが」


 ソラは少し考えた。


 言われてみれば、そうかもしれなかった。剣を振る時、無意識に「一撃で決める」と思っていた気がした。連続で攻め続けることよりも、一撃を当てることの方に意識が向いていた。


「自分の型を自覚した方が強くなる。向いてない型を無理に使おうとするより、自分の芯になるものを知っておく方がいい」


「じゃあ、剛を軸にやっていけばいいんですか」


「そういうことだ」


 アスカは立ち上がって、木剣を手に取った。


「ただし」

「剛は土台がない奴がやれば、ただの力任せで振り回すだけのいい的だ。相手の攻撃を見極め、カウンターがちゃんとできないうちは話にならない。しばらくは受けることを徹底的にやれ」


 ソラも腰を上げた。


「わかりました」


 アスカは短く鼻を鳴らした。それから木剣を構えた。


「来い。受けるだけでいい」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜になると何故か訓練場に人が増えてきた。


 剣を振る音や掛け声、地を踏む足音が重なって、喧騒が騒がしくなってきていた。ソラは砂の上に座って、腕の痺れが引くのを待っていた。手のひらに木剣の感触が残っていた。


 リゼアが水筒を持ってきて、ソラの隣に腰を下ろした。


「なんでこんなに人がいるの?」


「わからない、なんでだろう」

  奥でアスカが話しているが、流石に割り込んで聞きに行こうとは思えなかった。


「これ、飲む?」


「ありがとう」


 一口飲んで、違和感に気付く。

「ぶふっ!!!!!!」


「ちょっと!!!なに吹き出してんのよ!」


「リゼア!これ何!」


「何って…ミオに冷たいお水入れてもらったけど…」

  しかしソラが吹き出した水はどうみても黒かった。


「ミオめ…これ珈琲と紅茶混ぜたようなめちゃくちゃ苦いよく分からない味するぞ…」

  頭の中でミオがニヤニヤと笑っているような顔が思い浮かんでソラは唇を噛み締めた。

  リゼアも恐る恐る一口飲んだ。酷く苦かった。




 少し離れたところで、アスカが先程話していた学院生らしき男と手合わせしていた。相手は背が高く体格も良かった。

  初めは相手が押しているように見えたが、アスカはすかさずカウンターを繰り出し、一撃が当たるたびに相手は後退していた。三発目で相手がよろめいた。四発目で木剣を落とした。アスカはその場で手を止めた。何かを言った。相手が頷いた。


「アスカさんのあの闘い方、剛っていう型なんだって」

 ソラは独り言のように言った。


「剛?」


「俺も似たような型らしい。自分では気づいてなかったけど」


 リゼアがアスカを見ていた。それからソラを見た。

  何かを言いたそうにしていたが結局、何も言わなかった。


 アスカが次の相手と向き合っていた。構えた瞬間、ソラと手合わせした時とおなじ、木剣を頭上に構えて刃先を相手に向けている。場の空気が変わった。ソラはそれを眺めながら、さっき言われた言葉を頭の中で繰り返した。


 ——自分の芯になるものを知っておく方がいい。


 知っている、と思った。知っていたのかもしれない。ただ、誰かに言葉にしてもらったのは初めてだった。


 ーーカンッ。


 木剣の音が響いた。アスカの一撃が相手の木剣をはじいた。今回は一発目での勝負ありだった。


 ソラは立ち上がった。腕の痺れはまだ残っていたが、木剣を拾い上げた。


 構えて、踏み込む。


 ーーザッ。


 木剣を頭上に構えて刃先を前へ向け、腰を落として一振り。今度は少し、いい筋だった気がした。


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