第11話・アスカとの手合わせ
夕方、日が沈み始めた頃に二人は店を出た。
訓練場に着くと、まだ数人が残って体を動かしていた。夕暮れの中で木剣が風を切る音がした。
端の方に、一人で素振りをしている人影があった。
昨日と同じ場所に、同じように立っていた。
恐らくシャルドの言っていたアスカだろう。
近づくとソラたちに気付いたようで、素振りを止めてこちらを見た。
背はソラより少し高く目元に鋭さがあり、こちらを見極めているようなそんな表情だった。
「お前らがシャルド教授の言ってたソラとリゼアか」
「はい、ソラです」
「リゼアです」
アスカはソラをじろじろと見た。
「独学だと聞いたが」
「そうです」
「そうか」
興味を持っていないような、そっけなく短い反応だった。
アスカは壁に立てかけてあった木剣を手に取り、ソラに向かって投げた。ソラは受け取った。
「まず動いてみろ。どんな癖があるか見てやる」
言い方が気になったが、ソラは何も言わなかった。
そして木剣を構えた。
アスカも構えた。木剣を頭上に構え、刃先をソラの方に向けた。
ーーザッ。
ソラが踏み込んだ。アスカが受けた。鈍い音がした。もう一度。また受けられた。三度目、角度を変えて打ったがアスカはビクともしなかった。
ーーーソラが四度目の斬撃を与えようとした瞬間
アスカが力強くソラの木剣をはじいた。ソラは衝撃で足が浮き、そのまま後方へ吹き飛ばされる。
顔をあげるとアスカの木剣が目の前にあった。
「ここまでだ」
アスカが木剣を下ろした。腕を組んで、ソラを見た。
「悪くはない。筋はある」
それから間を置いた。
「ただ踏み込みが早すぎる。体よりも早く足が出ている。それと重心が高い。少し押せばすぐ崩れる」
「……わかりました」
「気付いていたか?自分で」
「なんとなくは」
「なんとなくでは駄目だ」
アスカが鋭く言った。声が低くなった。
「自分の弱点くらいちゃんと言語化できるように把握しておけ。なんとなくで戦っていたら勝てる勝負も勝てない」
ソラは黙った。
アスカはしばらくソラを見てから、また構えた。
「次は俺が打つ。受けるだけでいい。倒れても続けろ」
一撃目。重かった。二撃目、三撃目と続いた。受けるたびに腕が痺れた。四撃目で体勢が崩れた。五撃目を受けたところで木剣が吹き飛ばされ、膝をついた。
「ここまで」
アスカが木剣を下ろした。少し間があった。
「思ったより受け方は悪くない。粘れる」
褒めているのか貶しているのかわからない言い方だった。
アスカはリゼアに視線を移した。
「お前は…見たところ魔法か」
「そうです」
アスカは木剣を構えた。
「少しだけ付き合え」
リゼアは軽く頷くと、目を細めた。
ーーザッ。
アスカが踏み込んだ。速かった。
間合いに入り、剣先がリゼアを捉えようとした次の瞬間、アスカの足が沈んだ。
まるで地面が重くなったように、踏み込みが止まった。その隙にリゼアが半歩退いた。
——今のは、まさか…?
アスカは構えを崩さないまま、足元を一瞬だけ見た。地面は何も変わっていない。ただ、確かに体が重くなったように感じた。
もう一度踏み込んだ。今度は重さはなかった。しかしリゼアはすでに動いていた。
両手を広げた。
ーーウインドマジック・ベガーー
リゼアが呟くと三方向から凄まじく速く、そして鋭く、風魔法であるベガが放たれた。アスカは一つ目を体を捻って避け、二つ目を木剣で払い、三つ目は頭を下げてやり過ごした。それでも袖が裂けた。
——本物だな。
アスカは迷うことなく一瞬で間合いを詰めた。リゼアが次の魔法を出すよりも早く、懐に入った。
剣先がリゼアの顔の前で止まった。
リゼアは動かなかった。目だけがアスカの剣先を見ていた。
アスカはゆっくりと木剣を下ろした。しばらく、何も言わなかった。
「……魔法使いに俺が教えることはない」
一度目と同じ言葉だったが、声のトーンは違った。
ソラはその一部始終を黙って見ていた。
「魔法の腕はある。だが体がついてきていないな」
リゼアは何も言わなかった。ただ、頷いた。
日はほとんど沈み、訓練場に残っていた人影もほとんどいなくなっていた。
「明日も来るか」
「来ます」
アスカはソラをもう一度見た。何かを確かめるような目だった。
「お前、本気で強くなりたいんだな?」
「はい」
「そうか、ならいい」
アスカはそれだけ言うと木剣を片付けて、振り返らずに歩き出した。
ソラは腕の痺れを感じながらその背中を見ていた。
「なんか、感じ悪い人ね」
リゼアが隣で言った。
「でも、強さは間違いなく本物だよ」
「両立するものなのよ、そういうのは」
ソラは何も返さなかった。ただ、先程手合わせした時に感じた手に残る感覚を思い出していた。
そっと、剣の柄を強く握りしめた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
今回は先輩のアスカと手合わせ?するお話でした。
初めての戦闘描写、書いてて楽しかったですw次回以降の数話もちょいちょい書く予定です!
次回は6月13日土曜日6:00更新予定です!
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