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碧眼の花と緋の刃  作者: 伊太利ひなぎく
第1章

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第22話 後編《生まれ直しの日②》


ユリウスが大部屋の扉を開けると、ギルベルトたち5人は相変わらずワイワイとプレゼント談義の真っ最中だった。

木造の天井に笑い声が反響し、ついさっきまで電話越しに聞いていたルーファスの低い声音とは、まるで別世界のように感じてしまう。


ユリウスの姿に気付いたギルベルトが、真っ先に声をかけてきた。


「お、戻ってきたな。大丈夫だったか?」


その問いかけに、ユリウスは小さく頷く。


「ああ。戻りが遅れることは伝えておいた」

「よし、それなら向こうで騒ぎにはなんねぇな。とりあえずは一安心か」


そう言うギルベルトに、アンナは口を尖らせた。


「全然一安心じゃありませんよ……ソニアへのプレゼント、いい加減決めません?」

「俺は、アクセサリーが良いと思うんだけどなぁ。毎回ウケはかなり良いぜ?」

「いやー、ローデ少尉のそれは、あんまり参考にならなさそうなんですけど……」


少し呆れ気味なシュテファンに、横のギルベルトもうんうんと同意する。


「同感だ。それに、嬢ちゃんってあんましそういうの興味ねぇだろ?」

「そういえば、いつぞやそんな話をしていたな……」


ユリウスは顎に手を当て、ふとソニアのバングルを選んだ時のことを思い出す。

その様子に気付いたギルベルトが、ニヤリと笑ってからかうように言った。


「へぇ、大尉が覚えてるなんてな。意外だ」

「……そうか?」


そう首を傾げるユリウスの隣で、ラルフが腕を組んでアンナに視線を向ける。


「アンナちゃんは、ソニアちゃんの好きそうなもの知らないの?」

「うーん、ソニアの好きなもの……」


頭を悩ませるアンナを横目に、考え込んでいたヴェルナーが「よし!」と顔を上げた。


「とりあえず、店見に行きません?色々見た方が良い案出るかもっすよ」

「ヴェルナーにしちゃ、悪くねぇ案だな」

「ちょ、ベルクマン准尉……!酷くないっすか!?」

「あはは!まあでも、そろそろお店も開き始める時間ですよね」


アンナはそう言って椅子から立ち上がる。


「ほら、皆さん行きますよー」

「了解です」


そう言ったシュテファンはすぐにアンナの後を追い、他の4人も後に続く。

それぞれに思案顔をしながらも、どこか楽しげな足取りで宿を後にし、朝の光が差し込む通りを歩く6人。

ソニアの喜ぶ顔を思い描きながら、町の中心部へと向かっていくのだった。



───────

────

──


6人揃って1時間ほど大通りを歩いていると、ふと先頭のアンナが足を止めた。


「あっ、ここ雑貨屋さんみたいですよ。色々置いてるかも……」

「そうですね。とりあえず入ってみましょうか」


そんな話をしながら店に入っていくアンナとシュテファンに、ユリウスたち4人も続く。

店内には日用品や装飾品、家具等の様々な商品が、新品中古問わず所狭しと並んでいた。


(雑貨屋というよりは、『何でも屋』といったところか)


ぐるりと辺りを見回したユリウスはそう判断する。

同じく店内を観察していたラルフは、頭を掻きながら口を開く。


「確かに色々あるけど……これだけあると、逆に悩みますね」

「サヴォイア曹長の言う通りっすね。あっ、これはどーっすか?」


ヴェルナーはそう言うと、小型の折り畳みナイフを手に取った。

そんな彼をギルベルトは呆れたように見つめる。


「お前な、んなもんが誕生日プレゼントになるかよ!」

「いやでも、装飾品とかがダメなら、こういう物の方が良いのかなーって……」

「……浅はかですね、ローデ少尉」


シュテファンの辛辣な言葉に、ユリウスも小さく頷いて同意する。

そんな彼らの様子に、ヴェルナーはムッとした様子で口を開いた。


「それなら、大尉は何が良いと思うんすか?」

「そうだな……」


じっくりと店内の商品を順に眺めていくユリウス。

ふと店の一角に目を止め、指を差す。


「17なら……あれはどうだ?」


ヴェルナーはユリウスの指差す方に目を向けた。

その一角には、可愛らしいぬいぐるみが10体ほど並んでいる。


「えっ?ぬいぐるみ……っすか?」


唖然とするヴェルナーの横で、シュテファンがブンブンと首を横に振った。


「いやいやいや……流石にそんな歳じゃないですって。僕の妹も、もうぬいぐるみなんて興味なさそうですよ?」

「流石に子供扱いが過ぎると思いますよ?」


そう苦笑いするラルフ。

一方で、アンナは腕を組んで「うーん……」と唸っている。

そんな彼女にシュテファンは声をかけた。


「ベーゼさん?」

「いや、案外良い案だなーと思って。可愛いソニアに可愛いぬいぐるみって、何か萌えません?」

「た、確かに……むしろギャップ萌え──」


そう言いかけたヴェルナーの頭をギルベルトが軽く小突く。


「痛っ……!何するんすか、准尉!?」

「嬢ちゃんを変な目で見ようとしてんじゃねぇよ。まあでも、案としてはアリなんじゃねぇか?」

「じゃあ、部隊長の推薦ってことで、ぬいぐるみに決まりですね!どれが良いかなぁ……」


アンナは陳列されたぬいぐるみをじっと眺め、品定めし始める。

少し悩んでから、やや躊躇いがちにそのうちの1体を手に取った。

隣のシュテファンは、そのぬいぐるみに一瞬ギョッとした表情を浮かべる。


挿絵(By みてみん)


「えっ!?()ですか……?」

「このモフモフ感とデフォルメ感、すっごく可愛いなーと思って。でも、流石に熊はマズいですかね?」


苦笑いでそう告げるアンナ。

シュテファンは、彼女の抱える80センチほどある大きな熊のぬいぐるみをじっと見つめた。


(確かにフォルムは可愛いし、ふわふわで抱き心地良さそうだけど……)


少し考え込みながら口を開く。


「ソニアさん、熊のせいでああなったわけですし……微妙なところじゃありません?」

「やっぱりそうですか?でも、『それを乗り越えた証』みたいなのにもなるかなぁと思って」

「乗り越えた証……」


ヴェルナーはポツリと呟くと、軽く腕を組んで続ける。


「むしろ、ソニアちゃんなら『討伐記念』みたいな感じで、普通に受け入れてくれるんじゃねーの?」

「それもそうだな……んじゃ、そいつで決まりってことにするか」


ギルベルトがニッと笑ってそう言うと、アンナはピラっと値札をひっくり返して値段を確認する。


「えっ!?」


顔を青くするアンナの横から、シュテファンも値札を覗き込む。


「うわっ、12,000マルクですか。大きい分、結構なお値段しますね……」

「あたし、訓練だからと思って……そんなにお金持ってきてないです」


そう話す2人に、後ろからギルベルトが声をかけた。


「6人で割りゃ良いだろ?2,000マルクなら、アンナも持ってんじゃねぇか?」

「あ、確かに……ちょいギリですけど、どうにか出せますね」


そう判断したアンナは、そのまま熊のぬいぐるみを抱いてレジへと向かう。

6人揃って会計を終えると、アンナは店員に包装を頼む。


「この子、プレゼント用なんで包んでもらえますか?」

「かしこまりました。少しお時間かかりますので、店内ご覧になってお待ちください」


店員は器用にぬいぐるみを包み始め、6人はそれぞれ店内をうろつきながら待つ。


ユリウスは1人、店内の奥まったスペースの方に足を運んでみる。

壁一面に本棚が置かれており、そこには古めの書籍が隙間なく並んでいた。


(古本も扱っているのか……ん?)


ふと1冊の本の背表紙がユリウスの目に止まる。


(『魔術理論の応用と発展』──確か、これは……)


ユリウスは、すぐに数ヶ月前の個別訓練のことを思い出した。



───────

────

──


──数ヶ月前 軍大学訓練所


いつもの個別指導の時間、休憩がてらソニアとユリウスは床に並んで座りつつ、話をしていた。


「そろそろ魔術も応用に入って良い頃だが……その辺りの理論は、座学で修得済みか?」

「はい。ですが、応用はあくまでも補足レベルでしたので、あまり詳しくは……」


ソニアは苦笑いしつつ続ける。


「勉強しようと思って魔術応用書を探しているのですが、古い本なので希少らしくて…未だに見つけられていないんです」

「なるほどな、応用書のタイトルは?」

「『魔術理論の応用と発展』です」


その書籍名を、ユリウスは心の中で反復した。


(『魔術理論の応用と発展』か……)



───────

────

──


当時のことを思い返しながら、ユリウスは目の前の書籍を本棚から引き抜く。

そのまま分厚い表紙を開くと、パラパラと中身を一通り確認した。


(確かに、魔術応用書としてはかなり有用だな)


そう判断したユリウスは、書籍片手にそのままレジへと直行して店員に声をかける。


「すまない、これも別に包んでもらえるか?」


ぬいぐるみを包んでいた店員は一旦手を止め、素早くユリウスに向き直った。


「はい、かしこまりました。こちら、書籍1点で20,000マルク頂戴します」

「ああ、これで頼む」


ユリウスは財布から数枚紙幣を取り出し、店員に手渡す。

店員は紙幣をレジにしまうと、先に書籍を手早く包装し、ユリウスに差し出した。


「先にこちらお渡ししておきますね。ぬいぐるみの方は、もう少しだけお待ちください」

「わかった」


ユリウスは書籍を受け取ると、店内の壁にもたれかかりつつ、ぬいぐるみが包装されるのを待つのだった。



───────

────

──


しばらくの後、機嫌良さそうなアンナは綺麗に包まれたぬいぐるみを抱いて、他の5人と共に宿に戻って来ていた。


(ソニア、喜ぶかなぁ♪)


そんな彼女の様子に、隣のシュテファンが微笑ましそうにフッと笑う。


「ベーゼさん、本当にソニアさんのことを大切に思ってらっしゃるんですね」

「当たり前じゃないですかー!これでも、親友なわけですし」


そう答えながら、アンナは宿の扉を開けようとする。

シュテファンは素早くドアノブに手を伸ばし、代わりに扉を開いた。


「せっかくのプレゼント、落としちゃったら大変ですよ?」

「あ、ありがとうございます……」


何となく照れ臭く思いつつ礼を述べるアンナ。

中に入ってそのままソニアの待つ2階へ登ろうとすると、ギルベルトに止められる。


「アンナ、ちょい待ち」

「へっ……?」


振り返ったアンナは、何事かと思いながら1階の大部屋を指差すギルベルトの後に続く。


「えっと……准尉、何ですか?」

「いや、ちょいと仕上げをしねぇとだろ?」


ギルベルトの言葉に他の5人は揃って首を傾げる。

そんな彼らを余所に、ギルベルトは荷物の中から小さな木片と小型のナイフを取り出した。


「ギルベルト、何をするつもりだ?」

「まあ見てなって」


窓際に置かれたテーブルに着くと、器用にナイフで木片を削り始める。

状況がよくわからないまま、部屋の中で待機するユリウスたち。


それから30分ほど経った頃、作業をしていたギルベルトがやっと顔を上げた。


「ほれ、できたぞ」


そう言って、ギルベルトは削った木片をアンナに差し出す。

それは、オルデン軍の記念章を模した木製の小さなメダルだった。

中央には簡略化された軍章が彫られ、その下に『聖暦5607年8月 熊討伐記念』の文字が細かく刻まれている。


「わぁっ!准尉、すごいですね!」


アンナは思わず声を上げる。

そのそばで、ユリウスは腕を組みながら口を開いた。


「そういえば……昔、遠征演習の野営でも似たようなことをしていたな」

「いや、野営中って結構暇だろ?時間潰しにはもってこいなんだよ」


そんな話をするギルベルトの横で、ラルフはメダルに彫られた文字に目を凝らす。


「いや、熊討伐記念って……」

「乗り越えた証なんだろ?熊の首にかけときゃ、それっぽい雰囲気出るんじゃねぇの?」


ニッと笑ってそう答えるギルベルトの言葉に、ヴェルナーは納得したような表情を浮かべる。


「確かにそうっすね。アンナちゃん、その包装一旦開けられるか?俺、結べそうなリボンなら持ってるからよ」

「やってみます!」


アンナはシュテファンと2人がかりでそっとぬいぐるみの包装を解く。

ヴェルナーから受け取った赤いリボンで木製メダルを首にかけた瞬間、不思議とぬいぐるみの表情が誇らしげに見えた。

アンナは満足げにぬいぐるみを見つめた後、丁寧に再び包み直す。


「これでよし。じゃ、行きますか?」


アンナの言葉に5人はコクリと頷く。

揃ってそっと階段を登り、エリーザベトの部屋にたどり着くと、ユリウスは軽く扉を叩いた。

少しの間の後に、そっと扉が開いてエリーザベトが顔を覗かせる。


「クロイツァー大尉……他の皆さんも」

「クラウゼ先生、ソニアは起きているか?」

「ええ、5分ほど前に。どうぞ」


エリーザベトに促され、ユリウスたちは室内に足を踏み入れた。

ベッドの上のソニアはそれに気付いて身体を起こし、アンナは彼女のすぐそばに歩み寄る。

彼女の後ろ手に抱えられたものに気付いたソニアは、首を傾げた。


「アンナ、それは何?」

「ふっふーん、これはねぇ──」


そこまで言うと、アンナはプレゼントをずいっとソニアの目の前に差し出す。


「ソニアへの、誕生日プレゼントだよっ!」

「えっ……?え?私に?」

「そうだよ?皆で選んだんだから!」


ニコニコとそう言うアンナから、狼狽えつつも包みを受け取るソニア。

他の5人もベッドの周りに集まり、開けるように彼女に促す。


「嬢ちゃん、ビビると思うぜ?」

「あー……まあ、色んな意味で驚きそうですね」


ギルベルトとラルフの言葉に再び首を傾げながら、そっと、壊れ物に触れるかのようにソニアは包装を解いていく。

中から出てきたぬいぐるみに、思わず目を丸くした。


「ぬいぐるみ、ですか……?熊の?」


そう言ったソニアは、ぬいぐるみの首元の木製メダルに気付く。

彫られた文字に目を通すと、クスクスと笑った。


「ふふっ、討伐記念って……」

「事実だろ?熊の討伐記念と、ソニアちゃんの誕生日のダブル祝いってとこだな!」

「……そうですね」


ポツリと呟いたソニアの目から涙が溢れ、シュテファンは慌てて彼女に声をかける。


「ソ、ソニアさん!?」

「大丈夫か?すまない、やはり熊は──」


そう言いかけたユリウスを遮るように、ソニアは涙を拭いつつフルフルと首を横に振った。


「すみません、そうじゃなくて。ただ、嬉しくて……」


ソニアの言葉に、ユリウスたちは顔を見合わせるとフッと笑う。


「なーんだ、そういうことか」


アンナはそう言うと、ベッド脇に腰掛けてソニアの頭をポンポンと撫でる。

ソニアは撫でられながら、おずおずと6人に声をかけた。


「えっと……皆さん、お気遣いいただきありがとうございました」

「気にすんなって。嬢ちゃんが喜んでくれたんなら何よりだ」

「はい。私、とっても嬉しいです」


満面の笑みでそう答えるソニア。

初めて見る彼女の表情に、6人は思わず目を奪われてしまう。

唖然とする彼らの様子に、ソニアはオロオロと焦り始める。


「あ、あれ……?すみません。私、何か変なこと言いました?」

「いえ、そういうわけではないんですけど……」


言い淀むシュテファンに同意するように、コクコクと頷くヴェルナー。


「何つーか、美人が笑うと破壊力が段違いってのはマジ──」

「いい加減にしろ、ヴェルナー」


ギルベルトに再び頭を小突かれるヴェルナーを眺めつつ、ラルフは口を開く。


「いやー、あの笑顔はなかなか反則だよねぇ」

「あたしもそう思います……ん?」


すぐ隣のユリウスを見上げたアンナ。

僅かに惚けたような彼の表情に思わず目を丸くしていると、ふとユリウスの小脇に抱えられた小さな包みに気が付いた。


(あの包みって……さっきのお店の?)


アンナは少し考え込んでから、部屋の隅で様子を見守っていたエリーザベトにこっそりと声をかける。


「先生、ちょっと……」


アンナの耳打ちに、エリーザベトは頷いて口を開く。


「さて……そろそろお昼の時間ですし、皆さん下の食堂まで行きませんか?」


その言葉に、シュテファンは壁の時計に目を向ける。


「あっ、もうこんな時間だったんですね。気付きませんでした」

「あれ?でも嬢ちゃんは?」

「ソニアちゃんの分は、別で作ってもらうようにお願いしに行きます」


エリーザベトはそこまで言うとユリウスに向き直った。


「私は少し外しますので、大尉はその間ソニアちゃんをお願いできますか?」

「ああ、そのくらい構わないが……先生もついでに昼飯を済ませて来たらどうだ?」

「あら、よろしいんですか?ではお言葉に甘えさせてもらいますね。何かあれば呼びに来てください」


エリーザベトはペコリと頭を下げると、アンナたち5人を連れてそそくさと部屋の外へと姿を消す。

そんな彼女の様子を少し不思議に思いつつも、ユリウスはベッド横の椅子に腰掛けた。

そんな彼に、ソニアは申し訳なさそうに声をかける。


「すみません、大尉もお腹空いてますよね?」

「いや、大丈夫だから気にするな」


そう言いながら、ぬいぐるみを嬉しそうにギュッと抱きしめるソニアをじっと見つめた。


「……改めて見ると、相当デカいな」

「そうですよね。帰り、車に乗せられるでしょうか?」

「かなりのスペースを取るとは思うが……まあ問題ないだろう」


それを聞いたソニアはホッとした表情を浮かべる。

そんな彼女に、ユリウスは思い出したように口を開く。


「そういえば……中将もお前の誕生日を祝っていたぞ。とりあえず、ソニアが無事なことは伝えておいた」

「ありがとうございます。すみません、お手数をおかけしてしまって……」

「これが俺の仕事だからな」


そう言いつつ、ユリウスは小脇に抱えていた包みを差し出す。

それを受け取りながら、ソニアは首を傾げた。


「えっと、これは……?」

「とりあえず開けてみろ」


そう促され、包みを開けるソニア。

中から出てきた応用書に目を丸くする。


「えっ!?な、何で……?」

「前に探していると言っていただろう?偶然見つけてな、買っておいた」

「……覚えていてくださったんですか?」

「そのくらい、覚えているに決まっているだろうが……」


そう言ってやれやれと小さく息をつくユリウス。

ソニアは、自分が何気なく言った言葉をユリウスが覚えてくれていたことが嬉しく、思わず微笑んでしまう。

が、すぐに書籍の相場を思い出して顔を青くした。


「す、すみません……これ、結構良いお値段しましたよね?本部に戻ったらすぐにお返し──」

「必要ない」


ユリウスはそう言うと、そっとソニアの頭を撫でる。


「大尉?」

「さっきは言いそびれたが──」


そう言いながら、ソニアの碧い瞳をまっすぐに見つめた。


「ソニア。生きていてくれて、ありがとう」


思いもよらぬユリウスからの言葉に、ソニアは再び目を見開く。


「その応用書は、ソニアを危険な目に遭わせた詫びと……誕生日祝いだ。誕生日は生きていないと祝えないしな。お前が無事で、本当に良かった」

「クロイツァー大尉……」


そう呟くソニアの目から再びポロリと涙が溢れ、ユリウスは無言でそれを指で拭った。


「ありがとうございます。どちらも大切にしますね」

「ああ、そうしてくれ」

「ふふっ……今日は、絶対に忘れられない誕生日になりました」


幸せそうにそう告げたソニアの表情に、ユリウスは胸の奥がじんわりと温かくなる。


(……俺にとっても、忘れられない日になりそうだな)


無意識にそんなことを頭の片隅で考えながら、ユリウスはソニアをじっと見つめるのだった。

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