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【第1章完結】碧眼の花と緋の刃  作者: 伊太利 ひなぎく
第1章

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第18話 後編《残された者たち②》


遠征訓練4日目、ソニアたちの捜索に出発した翌日。

ヴェルナーは地図を片手に、焦った様子で口を開いていた。


「クソッ、こっちのルートもダメなのかよ……!」


地図上にバツ印を追加するヴェルナー。


(他に迂回ルートは──)


そう考えながら、素早く周りの地形を確認する。


前日にプレハブ小屋を発ったヴェルナーたち5人は、予定ルート上に土砂崩れを発見。

その後迂回するも、そちらも大雨のせいで足場が悪くなっており進めず、更に別ルートを選ばざるを得ない状況に陥っていた。

その日は予定の半分も進めないまま夜を迎えてしまい、ヴェルナーは何とか遅れを取り戻そうと必死だったのだ。


地図と睨み合っている彼の肩を、ギルベルトはポンッと叩く。


挿絵(By みてみん)


「ヴェルナー、もうちょい落ち着け」

「いや、でも……!ただでさえ遅れてるのに、これ以上時間をかけるわけには──」

「あのな……」


ギルベルトはヴェルナーの言葉を遮ると、彼の目をじっと見つめて口を開く。


「大尉と嬢ちゃんの状況確認が最優先なのは確かだ。その部分はお前が正しい。けど、正しいだけじゃダメだってのはわかるか?」

「えっと?どういうことっすか……?」


ヴェルナーはそう言って怪訝な表情を浮かべた。

そんな彼の様子に、ギルベルトは小さく息を漏らす。


(こいつ、やっぱ周りをちゃんと見る余裕がねぇな……)


そう判断したギルベルトは、そのままちらりと後ろに視線を向けた。

ヴェルナーも首を傾げながらそれに倣う。


そんな彼の目に飛び込んできたは、少し疲れた様子のアンナと、彼女を軽く支えながら歩くシュテファン。

そして、アンナの荷物も抱えながら、最後尾で周りの警戒を続けるラルフの姿だった。


そこでヴェルナーはハッと気付いたように表情を変え、それを確認したギルベルトは口を開く。


「今度の遠征演習についてくんだろ?万が一嬢ちゃんに何かあったら、お前が今みたいに捜索に出る可能性だってある。そん時は、学生たちも同行させることになるんだ。周りのこともきっちり見てやらねぇと……お前、死傷者出すぞ」


ギルベルトの言葉に、ヴェルナーは少し顔を青ざめさせた。


(確かに、ベルクマン准尉の言う通りだ。クロイツァー大尉たちさえ見つければって思ってたけど……そっか、そうだよな……)


そう考えながら、申し訳なさそうに頭を掻く。


「すんません。大尉とソニアちゃんのことばっか考えてて……他の皆のこと、見えてなかったっす」

「理解したんならそれで良い。んで?この状況、どうするよ?」

「えっと……」


ヴェルナーは逸る気持ちを抑えながら、頭の中でやるべきことを整理し始める。


(今、優先度が高いのは迂回ルートの選定と──皆の休憩だな)


そう判断すると、再度地図を広げた。

彼は現在地の周りをザッと確認すると、1点を指差してギルベルトに声をかける。


「ここで一旦休憩する、ってのはどうっすかね?地形的にも雨の影響は少なそうな気ぃしますし、他の迂回ルートからも近いですし……」

「まあ、悪くないんじゃねぇの?お前がそう決めたんなら、俺らは従うのみだ」


ニッと笑ってそう言うギルベルトに、少し安心感を覚えるヴェルナー。

そのまま全員に声をかけると、休憩地点までゆっくりと進んでいくのだった。


20分ほど歩いた先で、5人は足を止める。


「よし、とりあえずここでちょっと休憩にするっす」


ヴェルナーの言葉に、アンナは即座にその場に座り込んだ。


「はぁ、はぁっ……つ、疲れた……山の中歩くのって、こんなにキツいんですね……」

「今日は足場も悪かったからね、そりゃ余計に疲れるよ」


そう言いながらラルフは荷物をアンナに手渡し、「すみません……」と彼女はそれを受け取る。


「とりあえず、皆さん水分補給忘れないようにしてくださいね」


シュテファンの声かけに、5人は揃って水のボトルに口を付けた。

20分ほどその場で休んだところで、ヴェルナーが立ち上がってギルベルトに声をかける。


「准尉、俺ちょっと迂回ルート確認してくるっす」


そう言って歩き出そうとした彼の首根っこを、ギルベルトは素早く掴んだ。


「おい、1人で行くんじゃねぇよ」

「いやでも、皆休憩した方が──」

「バカか。お前に何かあった時に気付けねぇだろうが……俺も付き合う」

「あっ、すんません……」


気まずそうに頭を掻くヴェルナーにため息をつきつつ、ギルベルトは立ち上がる。


「お前ら3人はここから動くなよ、良いな?」


アンナたち3人はコクコクと頷き、それを確認したギルベルトとヴェルナーは地図を持ってその場を離れた。


「迂回ルート、いくつかあんのな。どこから回るよ?」

「とりあえずは、近いところからじゃないすか?」


そう言って、2人は迂回ルートの候補を順に回り始める。

大雨の影響は思いのほか大きく、使えないルートもかなり多かった。

最後のルートを確認したヴェルナーは深く肩で息をつく。


「どのルートにするか、悩みどころっすね……」

「おー悩め悩め。どこを選ぶかで俺らの生存率も変わってくるからよ、しっかり考えな」

「ぐっ、めちゃくちゃ責任重大じゃないっすか……」


思わず表情を固くするヴェルナーに、ギルベルトは思わず苦笑いする。


「大尉は、お前の歳からずーっとそれを背負ってんだぞ?」


その言葉に、ヴェルナーはハッと表情を変えた。


「あっ……今まであんまり意識したことなかったっすけど、確かにそうなるんすね」


ヴェルナーはそう言いながら、ユリウスの経歴をざっくりと振り返る。


(あの人、3年目で大尉になって、他より1年早く指導教官資格も取って……しかも独立部隊まで持ったんだもんな。どれも異例のことだって、当時も本部内で騒がれてたっけ)


ユリウスの有能さを改めて実感しつつ、つい今の自分と比べてしまうヴェルナー。


「そう考えると、俺ってダメダメじゃないっすかね……?」


劣等感をあらわにするヴェルナーの言葉に、ギルベルトは小さくため息をつく。


「あのな……そもそも、大尉と比べんの自体が間違いだからな?俺も指導教官歴は長い方だけどよ。あんな優秀なやつ、そうそういねぇぞ」

「いやでも、ソニアちゃんだって凄い子じゃないっすか」

「そこは否定しねぇが……まあ、嬢ちゃんの場合は規格外だろ。別枠扱いしとけ」


そう言いながら、ギルベルトはヴェルナーの頭を軽く小突いた。


「大体、ヴェルナーだって士官養成課程をストレートでクリアできる実力はあるんだ。それだけでも()()()()()なんだし、あんま卑屈になんなよ」

「いや、そう言われても……」


自信無さ気なヴェルナーに、ギルベルトは少し考え込んでから口を開く。


「別に、誰かと比べる必要はねぇ。指導教官だって、指導方針は人それぞれだ。その辺は、大尉見てりゃわかんだろ?」

「まあ、確かにそうっすね……」


そう言いつつ苦笑いするヴェルナー。


(大尉の場合は、ちょーっと極端な気もするけどな)


そんなことを考える彼の背を、ギルベルトはバンバンと強めに叩いた。


「安全確保だの何だの、必要最低限を押さえるのは前提として……あんまし深く考えずに、お前はお前のスタイルでやってけば良いんじゃねぇか?」

「俺のスタイル……」


ヴェルナーはポツリとそう呟くと、ギルベルトの言葉を自分の中でもう一度しっかりと反芻する。

少し吹っ切れたような気持ちになった彼は、ニッと笑ってギルベルトに向き直った。


「そうっすね!よし……んじゃ、迂回ルートは皆の意見を聞いた上で、俺が決めるってことにします!」

「ったく、お前は相変わらずだな。ま、臨時隊長の方針には逆らわねぇよ」


そう言ったギルベルトたちは、休憩地点まで戻っていく。

3人と合流したヴェルナーは、各迂回ルートの状況や特徴を一通り説明した。


「──って感じなんすけど……何か意見とか質問とかあれば、遠慮なく」

「えっと……じゃあ、あたしから1つ質問良いですか?」


遠慮がちに手を上げたアンナに、ヴェルナーはコクリと頷く。


「もちろん!何なに?」

「行きと帰りって、同じルートを通るんですかね?」

「えーっと……そのはず、だけど……」


少し自信無さ気にそう言いつつ、ギルベルトに視線を送るヴェルナー。

その視線を受けたギルベルトは、やれやれと小さく息をつく。


「まあ、原則としてはそうだな。行きでそのルートの安全確認ができるからよ」


その言葉に、アンナは少し考え込んでから口を開いた。


「それなら、斜面の多い──特に、行きに登り坂の多いルートは避けるべきだと思います」


アンナの言葉にラルフは首を傾げる。


「でも、帰りは下りでしょ?それなら、そこまで大変じゃないような気が──」

「そこが問題なんです」


アンナはラルフの言葉を遮ってはっきりとそう告げると、姿勢を正して座り直す。


「良いですか?下りの方が、重心の関係でバランスを崩しやすいんです。落ちないように嫌でもブレーキをかけながら動く分、関節や筋肉にも負担がかかりますし……」


普段とは打って変わって真剣な表情で話すアンナに、他の4人はつい圧倒されてしまう。


「それに、大尉とソニアの状態も現状不明です。もし、どちらか……もしくは両者を支えながら歩く必要があるなら、下り道が続くとあたしたちの負傷のリスクも大幅に上がります」

「確かに、言われてみりゃそうだな」


ハッと気付いたようにギルベルトがそう言うと、アンナはコクリと頷いて続ける。


「仮に誰かが負傷したとして、薬にも限りがあります。なので、わざわざ高リスクを冒してまで、斜面の多いルートを選ぶ必要はないと思うんですよね」


そう言い切ったアンナに、シュテファンは感心したように声をかけた。


「ベーゼさん、看護学部なだけありますね。医療的観点は流石に盲点でしたよ」


その言葉に、ヴェルナーもうんうんと頷きつつ口を開く。


「シュテファンに同感だな。んじゃ、これと……後はこっちの2ルートも外しとくか」


そう言いながら、地図上の迂回ルートにバツ印を付けていくヴェルナー。

その様子を眺めていたシュテファンは、残りのルートをいくつか指差した。


「お2人の状態を考慮する、という点なら岩場の多いルートも外した方が良いかもですね」

「そうだね。後は、食料とか水の確保のしやすいルートにした方が安全なんじゃないかな?行って戻る分、時間もかかるだろうしさ」

「確かにそうだな。それなら──」


5人はあれこれと意見を言い合い、進むべきルートを模索していく。

しばらく話し合った結果、川に近い平地を中心に進むルートで意見が一致した。


「よし……これなら比較的歩きやすいし、いざって時に水も確保しやすいな」


ヴェルナーの言葉にラルフはコクリと頷く。


「そうだね。もう出発する?それとも、もうちょっと休んでく?」


彼はちらりとアンナに視線を向けつつ、ヴェルナーに伺いを立てる。

悩み始めたヴェルナーの様子に、アンナは慌てて口を開いた。


「あのっ……!あたし、もう十分休憩したんで!皆さんが大丈夫そうなら、早く出発しません?」

「ベーゼさん、本当に大丈夫です?」


シュテファンの念押しに、アンナはコクコクと首を縦に振る。

その様子に小さくため息をつきながら、ギルベルトはヴェルナーに向き直った。


「……だってよ。どうする?」

「うーん、それならとりあえず一旦出発ってことにしますけど……」


そこまで言うと、ヴェルナーはアンナにまっすぐ視線を向ける。


「アンナちゃん、キツくなったらすぐ声かけるって約束してくれるか?」

「わかりました」


アンナの言葉にヴェルナーは立ち上がり、他の4人もそれに倣う。

荷物を背負いながら、ソニアに思いを馳せるアンナ。


(あたしが1番体力無いのは自覚してるけど……でも、今は早くソニアたちと合流するのが最優先だもん。へばってらんないわよ)


そう気合を入れると、アンナは前に向き直った。

隣のシュテファンはそんな彼女を少し心配そうに見つめつつ、ヴェルナーたちの後に続く。


(この状況……早いとこ大尉たちを見つけないと、こっちもジリジリ削られてくなぁ。となると──)


そう判断したシュテファンは、前を歩くヴェルナーに声をかける。


「ローデ少尉」


その声にヴェルナーはくるりと振り返り、何事かと首を傾げた。


「シュテファン、どうした?」

「ある程度進んだら、探知魔術を展開しながら進んだ方が良いかと思いまして。大尉たちが近くにいれば、早めに気付けるかもしれません」


シュテファンからの提案に、ギルベルトは腕を組む。


(状況的に、なるべく魔力を温存しておくべきではあるが──)


そう考え込みながら、ヴェルナーに視線を向ける。


「確かに、目視だけで探すよりはマシだな。ヴェルナー、それで良いか?」

「もちろんっす」


そう言いつつ、ヴェルナーは地図を広げ直す。


「今この辺だから……この辺りまで進んでから展開するのが良さそうっすかね」


彼は現在地からルートの中間地点辺りまで指を滑らせ、それを覗き込むギルベルトはうんうんと頷く。


「ま、それが良いだろうよ。お前ら、大尉と嬢ちゃんの魔力は判別できるな?」


その言葉に、全員がコクリと首を縦に振る。

5人はまず、中間地点を目指して歩き始めるのだった。

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