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勅命

呂布軍が酸棗(さんそう)砦に到着すると、兵糧がうず高く運び込まれており、幕舎では張邈、張超の兄弟が臣下の礼を取り待ち受けていた。

「大将軍。投降を御許し頂き、感謝に絶えませぬ。」

「両将軍。遠い道のりを大儀である。過去の罪は問わぬよう朝廷には上申するつもりだ。漢朝の為に力を貸してくれ」

「勿体ないお言葉、痛み入りまする」

俺は張邈、張超の兄弟に伴われ陳留城に入場した。

「さすが天下の名城にございまするな。ここに籠られたら10万の兵があれど落とすのは難しいでしょう」

陳宮は感心して言う。

「大将軍、この城を基盤に天下に号令をかけなされ。中原は商業も農業も栄え、陳留は交通の要衝です。大将軍がここから四方に睨みを効かせれば、天下は磐石、太平の世が築かれるでしょう」

陳宮の見通し通りになるかどうかはさておき、俺は軍事拠点として陳留城の防備を固め、再遠征の準備を整えることにした。反乱軍の首領格の袁紹、曹操は未だに投降する気配はない。となれば決戦は避けられまい。天下の帰趨を決めるような一大決戦が行われる。呂布の陣営にはそんな緊張感が一兵に至るまで漲っていた。

そんなおり、長安から勅使がやってきた。


陳留城の大広間にて幕僚一同、威儀を正して勅命を聞く。

「呂布奉先。その方の大将軍職を解任し、長安への出頭を命じる。」

俺は耳を疑った。城内がざわめきたつ。

「勅使よ、一体どう言うことに御座いますか?」

「呂布殿。貴方には反乱の嫌疑がかかっております。直ちに出廷し帝の前で釈明なされませ。」

「ワシに謀叛の容疑ですと?」

軍師の盧植が代弁する。

「ご使者。我が軍は大将軍共々、ひたすら反乱軍征伐の大義の為に精勤して参った。謀反などあり得ませぬ。これは何かの間違いです」

「そうじゃ。呂将軍に限って二心を抱くなどありえんわい!」

樊調も同調する。

「釈明は長安にてなされよ。私は勅令を伝えに参ったまで。」勅使はそう言うと一礼し退出した。

陳宮が言う。

「大将軍。これは何かの陰謀です。長安に行ってはなりませぬ」

高順も同意する。「左様。これは天子さまの意ではありますまい。宮中の何者かの策謀に相違ありませぬ!」

再び陳宮が言う「呂将軍なしでは、中原は再び反乱の地に逆戻りしてしまいます。将は現場にあっては必ずしも君命を聞かずと申します。天下の為に、このまま駐屯すべきです」

俺は悩んだが、結論を一晩引き伸ばす事にした。


呂布は満天の星空を見上げた。

アリストテレスの『形而上学』と言う書によると、この広大なる星空の背後に、自らは動かずして、一切の自然や人間の運命を操作する「不動の動者」がいると言う。同様に、我が国の『孟子』にも人間世界の細やかな人事にすら天の意志が介在していると説かれている。

あともう一息で、袁紹、曹操を征伐出来たのだが・・彼らにも人智では分からぬような天命があるのだろうか、そして天は一体、私に何を望んでおられるのだろうか・・

深淵に散りばめられた符牒のような星空から心を地上に移すと


ふと《私が長安に戻らねば、あの貂蝉に再会する日はもはや無いのだろう》そんな想いがわき上がってきた。

王允と董卓の関係はいつまでも安定しているはずがない、このままではいずれ破綻する日がやってこよう。

その時は必ず息女の貂蝉の身にも害が及ぶ。

戦乱で家族を失い、家を焼かれ再び戦乱で全てを失う。貂蝉の健気な笑顔を思うと呂布の両目からは涙が零れ落ちてきた。

中庸(メソテース)の本質とは幸福の実現である」再び呂布の心にアリストテレスの言葉が鳴り響いた。


呂布は決断した。翌日の朝議にて群臣一同の前でこう宣言した。

「ワシは長安に行こう。大将軍が勅命を無視しては天下はさらに乱れる。ワシの留守の間、他国の挑発に乗らず、陳留をしっかり護ってもらいたい。」

このようにして私の長安行きは決まった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 全く異なるストーリー展開でうまい具合に史実をなぞっていますね。 本作の董卓や李儒はそこまで優秀な人物ではないようですね。 武将の董卓はともかく軍師の李儒がまんまと策にかかるとは。 賈詡や蔡邕…
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