英雄激突
我が軍が勝利に沸き立つ中、参軍の王方が幕舎へ入り急報を告げた。
「閣下。曹操が酸棗砦を棄て、北東の白馬に陣を敷いたようです。」
「あくまで抗戦致すか」
「閣下。この樊稠めに先陣をお申し付け下さい!」董卓小飼の猛将である樊稠が出陣を請う。「良かろう。しかし、曹操は策謀に長けておると聞く。副将として張遼を、軍師として陳宮を付ける」
「承知致しました!」
「良いか、例え勝利しても敵を追撃してはならぬぞ」
「ハッ!」
白馬では曹操が一万人の兵を率い、北に曹仁が八千、南に劉備が五千の兵を率いて呂布軍を迎撃しようと戦闘準備を整えていた。
曹操の客将である劉備はかつての盧植の弟子であり、呂布軍への寝返りを誘う手紙が届いていたが黙殺した。
劉備は大義の前では師弟の情は小事と考えてる。
「思いの外、硬骨漢で御座る」
盧植は苦笑した。劉備、関羽、張飛の三兄弟は董卓軍との戦いで再三名を売っている。
こと戦闘にかけては侮りがたい敵である。
「師に似たのでは御座いませぬか?」
呂布はからかうように言う。
劉備の硬骨漢、呂布は嫌いではなかった。
目先の利益よりも仁義に殉じる姿は、利権に囚われ足並みが揃わぬ連合軍の中で、際立って美しくもあった。
アリストテレスによると、勇気にせよ、節制や謙譲にせよ、あらゆる美徳の本質は美であるという。人生を美しく生きること。これが人間にとって真の幸福であり、即ち善なのである。
漢帝国の為に挙兵し、漢帝国の為に不利な戦いを挑む劉備は、たとえ漢と共に滅んでも正史に美しい一章を刻むであろう。
「敵ながらあっぱれじゃ」
呂布は心からそう思った。
この劉備と言う漢を自分はよく知っている。
曹操と劉備。細かくは分からないが、この二人によって自分は滅ぼされた。
不思議なことに、この二人と再びあいまみえる事になるとは・・
兵士たちが寝静まった夜、呂布は夜営しているテントから抜け出し、雲間から顔をだす月を眺めていた。
貂蝉は無事であろうか。帝は長安にたどり着けたのだろうか。
我が軍の存在理由の一つには長安遷都の為の時間稼ぎの面もある。
洛陽から長安への道程は険しく遠い。
何事も無ければよいが。




