盟友交歓
亥の刻、王允の屋敷にて酒宴が開かれている。
王允は呂布の杯に酒を継ぎながら言う。
「しかし呂将軍がこの大将軍推薦の話を改めて受けて下さるとはおもいませなんだ。」
呂布も恐縮しつつ応える。
「国難のこの時勢に微力なれど我が力を天下の役に立てられればと思いましてな。」
「それはもう!・・呂将軍が立てば、天下の賊は全て鳴りを潜めようというものです。この王允、礼を言いますぞ」
董卓派だろうと王允派だろうと、呂布が加勢した側に、朝廷の権力は大いに傾く。
丁度、この庭先の鼎が三本の足によって起立しているように、呂布は董卓の勢力とは独立して第三勢力を打ち立てる事を決意したのであった。
この事により、朝廷のパワーバランスを保持し、政治的安定を実現する。
これはアリストテレスの言う中庸の思想の具現化でもあった。
個人の人生がそうであるように、政治の究極的な目的も幸福にある。
そして幸福を実現する為には政治的安定の実現こそが、さしあたっては重要なのだ。
呂布はそんなことを思いながらも恭しく酒を継いで回る侍女たちの中で一際輝く貂蝉の姿を目で追っていた。
月が青葉を照らし、鈴虫の音が響く、宴も酣となり
王允は続けて言う「ときに呂将軍、この男は陳宮と申しまして、当代一の知謀の持ち主です。必ずや将軍の役に立つ男。どうかお側に使えさせて頂けぬか?」
そう王允に紹介されて黒衣の男が背後から現れた。「陳宮と申します。この度、将軍の知遇を得られ恐悦至極に御座ります。」
俺はこの男を見た瞬間、電撃に撃たれたような衝撃を受けた。それは陳宮に置いても同様らしかった。巷で流行っている仏陀なるものの教えによると、前世と言うものがあり、人は何度も同じ人間と出会いを重ねているらしい。果たして、この陳宮とも前世の因縁でもあったのではないか、俺は自然に涙が溢れてきた。
「将軍、いかがされたのですか?」王允が不思議そうに訊ねる。
「いやなに、この陳宮どのの顔を見たら不思議に《懐かしい》感じがしましてな。失礼いたした。」
それから陳宮と私は夜半まで語り明かした。
陳宮は王允派とのパイプ役と言うだけではなく、その知謀、知略には目を見張るものがあり、今後長らく呂布軍の参謀として才能を発揮していくのであった。




