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ー7ー


 場所は切り替わって、前作で世界を救った主人公ラクトが、炎の国ガムドラの国王と謁見するところだ。


「わるいな英雄、足労を払わせた」


 国王のガウドが言った。前作で先代である父が亡くなったので、若干二八歳にして国の舵取りをすることになった。


 上半身には丸い胸当てだけ、下半身には幅の広いサルエルを履いている。国の象徴ともいえる真紅色に染まった髪は、ライオンのたてがみみたいなスタイル。


「親父が死んでから、この国も荒れちまった。街道を往来する商人を、盗賊団がおそう事件も増えてきやがった。——しかしおまえを呼んだのは、盗賊の件じゃねぇ」

「おまえが、人間相手に手こずるわけない」ラクトが言った。「わかってるさ」

「ダタンタ村にほど近い炭鉱で異変が起きた」


 国王ガウドは玉座を立って数歩歩いた。

 ラクトから見ると、横を向いている。


「一週間で帰るはずだった採掘隊が、一〇日経ってももどってこなかった。不審に思ったわしは調査隊を派遣した。すると鉱夫が全員、石化していた」

「なるほどな……」ラクトはうつむいた。「メデューサでも出たってことか?」

「——そうだとして、メデューサが現れたことよりも、考えいたる深刻な可能性があると思わねぇか?」


 ここでガウドはラクトを見た。


「魔王の復活……」

「そうだ。おまえらが世界を救った手前、五大陸ではモンスターを見なくなった。だが、ここにきての石化騒動だ」

「ゴブリンの連中は?」

「あいつらの古巣を文字どおり掃除している最中だが、やつらのぶっとい骨以外、なにもありゃしねぇ」

「うーん……」ラクトは立ち上がって首をすくめた。ドット絵がよく動いている。「まずは石化現象の調査だな」

「おまえひとりで行くつもりか?」

「冗談。もうすぐ来るはずだ」


 ラクトが言うと、国王の間の扉が開かれた。ひとりの兵士が駆け足で近づいてきて、ガウドに耳打ちをする。


「答えるまでもない。通せ」


 ガウドが言うと、兵士はまた駆け足でもどっていく。画面は下方向にずれていった。国王の間、その入り口付近に三人の男女が肩を並べて立っている。


「いやぁぁぁぁああ!」


 わたしは叫んだ。 国王の間に入ってきたのは、黒髪ストレートに、白のブラウスと白のロングスカートのティクル・ルッケンプルツ。金色のツインテールに、淡いピンクのショートドレスはわが最愛の人の妹君であられる、エリニナ嬢だろう。そして彼女たちのあいだに立っているのは——


「エルさまああああああああああ!」


 腰には剣を、背中には盾をかつぎ。

 輝く銀色の鎧がまぶしい。

 金色の髪は前作よりもすこし伸びているが、ショートには変わりない。


「またせた」エルさまが言った。「エリニナの職業試験《ジョブテスト》がようやく終わったところだ」

「あたしをだれだと思っているのよ!」高飛車な口調だ。「騎士学校長であるカイウス・ヴァンクロウズの子女であり、大教会の司教を勤めるアイデール・ヴァンクロウズを母にもつ、最強遺伝子を継いだ美少女——」


 エリニナのドット絵がくるっと回転して、かわいらしい効果音が鳴った。前作では踊り子のNPCがよくこの動きをしていた。


「エリニナ・ヴァンクロウズよ!」


 わたしは画面の字を読んだ。そのむかし、セーラー服を着たヒーローの決めセリフをまねて、友達がぽかんとしたことがあった。そのとき感じたのとおなじ羞恥心が湧いてきた。


「んん……」


 ノドを鳴らしてごまかす。

 勇輝には聞こえただろうが、開きなおるに徹するのみ。


「すまん、口はまだ半人前だ」エルさまが言った。「だが基本の回復魔法なら十分にあつかえる。魔王の根城にいますぐ向かうのでもなければ、不足はないはずだ」

「ふふっ」ティクルが笑った。「大丈夫だよ、エリニナはもう中級の回復魔法を使えるもの」

「いまに見てなさい!」


 エリニナは、左に躰を向けてぴょんぴょん跳ねた。頭からは湯気のようなドットが出ている。


「ティクルの回復なんかいらない、ってくらいになってやるんだから!」


 三人はラクトのそばに進んだ。四人が肩を並べると、最初のパーティが完成した。


「で、なにがあった?」エルさまが言う。「炎の国ガムドラが解決できなくて、おれたちが解決できる問題とはなんだ?」

「炭鉱で石化の死体が見つかったとかでさ」ラクトが答える。「メデューサなんじゃねぇかって」

「となると、魔王の復活を意味するのではないか?」


 むしろそっちの懸念が重い——そんな空気が数秒流れる。


「ほんとにメデューサかな……」ティクルが言った。


 効果音とともに、ガウドが頭の上にハテナマークを浮かべた。


「それ以外——か」

「石化させるだけなら、別のやり口はあるよ。たとえば呪いの禁具といわれている石蛇の杖。相手を石化させるのに十分だよ。ただ、そんなものをつくれるのは、風の国リュンカインの錬金術師くらいなのものだと思う」


 てくてく、とガウドは玉座の前で右往左往した。

 考えをまとめている様子がわかる。


「風の国とは友好関係を結べている。こちらからは鉱材を、あちらからは主に木材を提供しあう関係だ。もし、これが外交に関わる一大事となれば……」


 不安そうな国王に呼応するように、まわりの衛兵もざわざわと話しはじめる。——ガウドは片手を上げた。ムチを打たれたように衛兵たちはしずかになる。


「まだわからねぇだろ?」ラクトが言った。「ただのわりぃ錬金術師がたったひとりで起こした騒ぎかもしれねぇし」

「そうだな……」ガウドは玉座に座った。「おれとしたことが、獅子王らしくもない。小石の輝きを求むなら、大岩山の腹をひた進め——ここは、わが父の言葉にしたがおう」


 ガウドは天を仰いで吠えた。ライオンの雄叫びとおなじ効果音が一発、大きく鳴った。それは衛兵にも呼応して、より重厚な雄叫びが重なる。


「世界を揺るがす有事から、それほど間も経っていないこの当節。ふたたびおまえたちの手を借りることになった。ここに詫びよう」


 さきほどまでの雄々しい態度を一変させ、礼儀正しく頭を下げた国王。それにつづく衛兵たち。


「やめてくれ、おれたちの仲だろ」ラクトが言った。

「友人を助けるのは、当然のはからいだ」エルさまは腰の剣を抜いて、きっさきを真上に向けた。刃に祈りをこめる。「騎士のほこりにかけて」

「ま、あたしもちょうど、実戦ってやつを踏んでみたかったし」エリニナが言った。「でも魔物はいやよ、戦わないから。相手が人間だったらあたしはよろこんで前に出るわ」

「そこは心配しないで」ティクルが答える。「魔物だったら、ラクトがちゃちゃっとやっちゃうから」


 それからも、なにか話している様子だったが、画面にはスタッフクレジットが控えめに表示されはじめた。メインテーマが流れはじめ、パーティは城の外へ出る。


 まだら模様の石畳の道が、まっすぐにつづく。左右には家々が立ち並ぶ。赤い屋根と、石づくりの外壁の建物がこの国では基本だ。椰子の木に似た植物が、建物を囲むように植えられている。


 宿屋の看板をかかげた建物や、武器の看板が立つところもあるが、いまは操作できない。フルーツを並べる露天の人々や、カラフルなじゅうたんの上で踊りを披露する女性が、主人公たちに手を振っている。顔は知られているようだ。


「一九回世界を救っている英雄だもの、当然よね」


 わたしはひとりごとを言った。

 すると——画面にノイズが走った。

 例によって、一瞬のことだった。

 かなり気になる。


「もう、なに……。次世代ってもろいの? 初期不良とか?」


 ともあれオープニングは自動で進行している。音楽がちょうどよく終わるタイミングで、パーティが街の外に行こうとすると、門番が呼び止めた。


「すいません、炭鉱への道が、いま使えないんです」門番のひとりが言った。

「どうしたんだ?」エルさまが訊く。

「ここからしばらく行ったところにある、盗賊の根城をご存知でしょうか。やつら、どこからそんな技術を盗んだのか、投石機を持ってしまったようで。根城のほうから、街道に石が飛んでくるんです。そのせいで、行商人や鉱夫の仕事に影響が出てしまって……」


 早速のおつかいだ。

 こっちの準備は万端。

 待ってました、といわんばかり。

 しかし急に目的地に行くのは、好きじゃない。


 しばらく道を右往左往して、敵との戦闘を重ねてレベルを上げる。パーティが疲弊したら、宿屋で休む。武器防具屋もチェックして、買える物があればなるべくそろえる。そんなわたしのプレイスタイルを、紗奈は「石橋たたき女」と呼んでいた。


 門番との会話が終わり——ついに自由の時間がおとずれた。

 胸の高鳴りがピークになる。

 いよいよ、待ち焦がれた冒険の日々がはじまる。


 十字キーを動かすと、足並みをそろえた四人が連なって歩きだした。四角ボタンを押すと、パーティメニューが画面を占領した。


 わたしの視線は、もちろん一点だ。


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