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異世界 推シ 消えヌ 死のセンコク  作者: 燈海 空
雫歴658年 ニッドバッガ大陸
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13/21

ー4ー

 

 占い師は水晶から顔を離して、ティクルを凝視した。わたし本人の口より、世界を救った英雄の口を信じる——という目だ。


「いろいろ、あって」えへへ、とティクルは微笑み、両手をあわせた。「おねがい、事情があるんだ。深掘りしないでもらえると助かるよ」

「オッケーわかったみゃ、そんじゃ本題を占うみゃ」


 めっちゃあっさり了承してるじゃないか。


「めっちゃあっさり了承していいのですみゃ? 師匠」

「だって関係ないみゃんもん」

「それもそうですみゃ。すいみゃせん、過ぎた口を」

「はい、それじゃ、なにを占うみゃ?」


 わたしが異世界から来た問題は秒で解決してしまった。このあっさり感が、なんとも猫らしいというか。


「適職を知りたいのです」わたしは言った。

「涙の色みゃ?」占い師が答える。

「は、はい……」

「そんじゃ、保護者の方は席を外してほしいみゃ。ディープな質問があるかもしれんみゃんで」

「わかった」ティクルは言った。「それじゃ、スズ、がんばってね」

「あ、ありがとう、いろいろ……」


 カーテンをくぐって、彼女はいなくなった。助手の子も関係者専用と刺繍ではっきり書かれたカーテンをくぐって、いなくなった。四畳弱あろうかというせまい空間は、わたしと占い師のふたりきりになった。


「そんじゃ最初の質問いくみゃ」


 肉球のある両手を水晶にまとわりつかせる。


「はい……」ごくり、とつばを飲んだ。


 世界を暗黒たらしめる魔王

 歩いて三〇分の場所にいる盗賊団

 さきに滅ぼすなら、どっちみゃ?


「歩いて三〇分……」わたしは考えて、「それなら盗賊団がさきです」

「わかったみゃ。次の質問——」


 甘いパン

 しょっぱいパン

 一年間どちらかしか食べられないなら、どっちみゃ?


「えぇ……」ものすごい変化球が来た感覚だ。「うーん……。パンは生地に糖質があるはずだから、しょっぱいほうかな」

「はい。次みゃ」


 明らかにわるい顔をした殺人鬼

 いい人の皮をかぶった大詐欺師

 牢獄に入れるなら、どっちみゃ?


「ぬっ……」なんだそれ、どっちもさいあくじゃないか。「わたしが決めていいなら、大詐欺師のほう……、ですかね」


 答えると、水晶の内側に黒い光がふわっと見えた。答えを誤ったのだろうか。


「なぜ、そう思うみゃ?」

「明らかにわるい顔をした殺人鬼は、ほかのだれかが怪しんでくれると思いました。職務質問——」


 この世界に警察はいないから、いまの単語はたぶん通じない。


「おまえなにものだ! って、衛兵の人が声をかける可能性があると思うんです。でも大詐欺師のほうは、わるい人だとわからないところがこわい。わたしひとりがそれに気づけているなら、そっちを牢獄に入れたいです」

「おみゃあが、怪しまれることになったとしてもみゃ?」


 そうか、大詐欺師は周囲からいい人だと思われている。そんな人を断罪するわたしこそが、悪人になる可能性もあるのか。


「——だとしても、です」


 水晶から黒い光が抜けて、さっきとおなじほぼ無色透明にもどった。


「わかったみゃ。次の質問」


 目の前に氷漬けの魔物がいるみゃ

 ハンマーで粉々にする

 爆発魔法で粉砕する

 どっちみゃ?


「うーん……。爆発、かな?」

「はいみゃ。そんじゃ、最後の質問みゃ」


 父親か、弟

 どちらかの命しか助けられない

 どっちを助けるみゃ?


 心臓をぐっとつかまれたような心地がした。占い師は、わかってて質問をしたのだろうか。わたしの家族構成を——。


「……どちらも見捨てません」


 答えると、水晶の内側から溢れんばかりの虹色の光が。


「虹みゃ!?」

「え?」

「なんとみゃあ……」


 しかし虹色の光はだんだんと一色に収束していく。一瞬だけ青色の光に寄ったかと思ったが、最後には水晶全体がはっきりとした緑色の染まっていった。


「うみゃぁ」占い師はすこし悩んで、「なんか、見たことない色が見えたけんどもみゃ。気にせず、最終結果を発表するみゃ」

「は、はい」

「あ、そうだみゃ、その前《みゃえ》に」


 ホエエエエエエイ!


 思い出したように叫んで両手をばんざいさせる。そして占い師は言った。


「おみゃの適職は白魔術士みゃ」



「ふ、ざ、けんじゃないわよ!」


 テントの外に出て、パーティに結果を知らせたとたん、エリニナマシンガンが火を吹いた。


「よりによって白魔なの? あたしとかぶってるし! ティクルも入れたら回復役が三人もいるじゃない! 物理がふたり、回復が三人! 聞いたことないわよ、こんなアンバランスなパーティ構成!」

「これなら、ケガを気にせず戦えるな」ラクトが言った。

「いっそのこと、エリニナが戦士に転職するのはどうだ」エルさまが微笑する。

「や、だ、わ、よ! なんでこの可憐な美少女が血を浴びる前線に立つのよ! あんたが立ちなさいよ!」


 指をさされてしまったが、わたしこそ前線など向いてない。体育の授業では、バレーはリベロ、サッカーはスイーパーというポジションしか経験がない。とにかく後衛気質の顔をしているんだよな、と体育会系の先生が言っていた。


「ともあれスズの適職はわかったんだ。ジョブが決まったなら、行くべきはひとぉつ!」


 人差し指で真上の空を指して、ラクトは満開のやる気を浮かべる。


「武器屋でしょ」


 ぷりぷりと怒った背中を見せながら、エリニナは歩きだした。



「で、あるからして。なに買う?」


 頭にターバンを巻いた武器屋が、カウンター越しに言った。


「いやあああ!」わたしは両手で口を覆って叫んだ。

「どうした! また倒れるのか!?」エルさまがあわてた。

「いえ、ちがうんです、ごめんなさい」


 武器、防具屋の口癖といえば、レディラファンのなかでは有名だ。で、あるからして——これをまさか実際に聞けるとは。どうしよ、日本に帰ったら自慢してもいいだろうか。わたし武器屋の口癖をこの耳で聞いたのよ! って。


 帰れる保証はいまのところゼロだけども。


「壁じゅうにいろんな武器があって、こんなにしあわせな空間ない……! と思って」


 苦笑でごまかそうとする。


「なんでもいいから、さっさと決めちゃいなさいよ」エリニナ嬢はそう言ってから、色っぽい上目づかいで兄を見た。「ねぇ、おにいちぃゃぁん。わたし、いまの杖、好きなんだけどぉ。せっかくジョブテストに受かったしぃ、もーちょっとぉ、いいやつに、したいなぁ、なんて」


 両手を下腹部の前で組んで、もじもじ……。

 あからさまな、おねだりポーズだ。


「ぬ!」エルさまは顔をゆがめた。効いてるじゃねぇか!「ど、どうする、ラクト」

「なんでおれにふるんだよ」


 ラクトは壁の短剣を手に取って、ジャグリングをはじめた。


「財布はティクルが握ってるからさ」

「うーん、買い替えるにはまだ早いと思う」ティクルはきっぱりと言った。「エリニナの杖は、いいやつだから」

「ちぇっ」エリニナはうらめしい目を返した。「けち」


 わたしは杖のコーナーに近づいた。展示場みたいに陳列された壁の杖を一本いっぽん観察していく——。なにがどういいのか、まったくわからん。


「壁のいちばん上にあるやつは、黒魔法用の杖だね」ティクルがそばに来て言った。「ほら、杖の先端に付いている魔玉が青いでしょう? 攻撃魔法派生のジョブが流す涙は青いから、その流れみたいだよ」


 それなら、わたしが探すべきは緑の魔玉が装着された杖だ。


「えーと」


 壁に並んでいる杖を上から数えて、三番目にその杖があった。川に流れる流木みたいなうねりのある、細身の杖だ。白い木材でつくられている。


「あれなんかどうだろう」わたしは指差してから、目を丸くした。値札を見てしまった。「七〇〇〇〇ラキーて——」


 中盤に買う値段のやつじゃねぇか。レベル0のわたしが持っていい杖じゃねぇよ。


「じゃ、それにしよ」ティクルは言った。

「はっ!?」マシンガンが黙っているわけがない。「まだ魔法のひとつも唱えられてないのに、なーんでそんな高い杖を買い与えるのよっ! それこそまだ早いわよ!」

「あれ、エリニナの杖っていくらだったっけ?」


 ラクトが言った。ジャグリングの短剣が二本から六本に増えている。


「職業試験《ジョブテスト》への合格祈願として、父上が買った杖だったが」エルさまが答える。「ざっと五〇〇〇〇〇ラキーだったな」


 お嬢が新しい杖の購入を却下された理由——よくわかった。


「というわけで、これを買って次に行こう」ティクルはお店の主人にお会計を頼んだ。

「い、いいのですか」どうしても恐縮しかない。

「お金の心配はしないで。何回も買い替えるくらいなら、最初からいいのを持っていたほうがお得だよ」

「か、かならず返します……。街の外に出て、魔物を何度も倒して、疲れたら宿屋に泊まって、お金を貯めて……」

「魔物がほんとうに出たら、ね」


 優しい笑みを見せてから、ティクルはお金を支払った。





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