第8話 助っ人
今シーズンから、プロ野球のルールが大きく塗り替えられることになった。
これまでセ・リーグにはなかった「全試合DH(指名打者)制」が正式導入されたのだ。
投手の打席が消え、打撃専門のスペシャリストが9人目の野手としてラインナップに名を連ねる。
DHといえば、やはり打線を牽引するパワー自慢の助っ人外国人がその座を担うイメージが強い。
弱小脱出を図るクリッパーズにとっても、最も喉から手が出るほど欲しい「主砲」の枠だった。
そんな中、親会社となったライマル社が莫大な資金力を活かし、電撃的に引っ張ってきた男がいた。
——ゲイリー・アーンハート(38)。
内野手
38歳と全盛期は過ぎているものの、昨シーズンもメジャーで30本塁打を放っている現役バリバリの大砲だ。
1月下旬、羽田空港の到着ロビー。
俺は帽子を深くかぶり、彼が出迎えるゲートの前で待っていた。人混みの向こうから、2メートル近い巨体と陽気な笑顔が近づいてくる。
「ゲイリー!」
「Oh! カミヒラサン!オヒサシブリデース!」
巨漢のゲイリーが俺を見つけるやいなや、大声を上げて駆け寄り、骨が鳴るほどの力で俺を抱きしめてきた。
「グハッ……相変わらず力が強いな、お前は……!」
俺がメジャーリーグに在籍していた5年間。
言葉も文化も違う環境で孤立しかけた俺に、一番最初に気さくに声をかけてくれ、いつも隣でジョークを言って笑わせてくれたのがゲイリーだった。
10年前、俺がメジャーでの挑戦を終え、日本へ戻ることが決まった最後の夜。
ロッカールームで寂しそうに肩を落としていた彼が、俺の手を強く握りしめて言った言葉を、俺は今でもはっきりと覚えている。
『コンドハ、ニホンデ チームメイト! サンキュー!』
(まさか、あの時の社交辞令みたいな約束が、10年越しに現実になるなんてな……)
「カミヒラサン、ホントウニ カントク ニ ナッタノネ! スゴイヨ!」
ゲイリーは眩しい笑顔で俺の肩をバシバシと叩く。相変わらずの手加減のなさだ。
「ああ、監督だ。……だけどゲイリー、俺は今年『選手兼任』なんだよ」
「マジデ!? ユー、マダ ナゲテ ウツノ!? カミヒラサン、アタマ オカシイヨ!」
大爆笑するゲイリーに、俺も思わず吹き出した。
空港からの移動の車中、俺は新しい緑と黄色のユニフォームのデザインと、チームの現状をゲイリーに説明した。
「今年から日本は両リーグでDH制になる。お前には『指名打者』として、うちの4番に座ってもらうつもりだ。30本……いや、40本打ってもらうぞ」
「オーケー、カントク! 30本ハ アサメシマエヨ! デモ、カミヒラサンガ ピーチデ ナゲル トキハ、ボクガ タタカッテ カミヒラサン ニ カチ ト リリーフヲ アゲルヨ!」
「頼もしいねぇ。サンキュー、ゲイリー」
10年前は「助け合ってきたチームメイト」だった。
そして今、彼は「指揮官・上平健二」がもっとも信頼を寄せる主砲として、同じユニフォームを着て戦う。
DH制という新ルールの追い風。
頼もしすぎる『4番・DH』。ゲイリー・アーンハートの加入。
勝利のためのピースが徐々に揃いつつある。




