第38話 捕手3人体制へ
試合後の重苦しい空気が漂う監督室。トレーナーからの診断結果が伝えられた。
「監督、後藤ですが病院での検査の結果、脳震盪の診断が出ました。大事を取って脳震盪特例措置での登録抹消となります」
「……そうか。まずは後藤の身体が最優先だ。焦らずしっかり治させよう」
俺がそう言うと、険しい表情でホワイトボードを見つめた。
「問題は明日の捕手体制です。湯浅は抹消したばかりで、最短10日間の再登録制限に引っかかるため一軍に戻せません。現在一軍で動ける捕手は中北一人だけです」
「今日みたいに『キャッチャー俺』を連発するわけにもいかないからな。捕手は常に3人手元に置いておきたい。入れ替えの手続きを進めてくれ」
出場選手登録抹消
後藤紀之(背番号 33 / 捕手 / 脳震盪特例措置による抹消)
平田武史(背番号 47 / 投手 / 先発登板を終え、再調整のため抹消)
出場選手登録
白石翔太/背番号 61(27歳 / 5年目 / 右投右打 / 捕手)
現役ドラフトで今年から加入。
特にこれと言った特徴はないが、欠点も見当たらない捕手。移籍後初の一軍昇格で即戦力としての期待がかかる。
高憧洋介/背番号 65(18歳 / 1年目 / 右投両打 / 捕手)
捕手としては珍しい両打ちのドラフト新人。
投手としてひそかに育成する予定が今回の緊急事態により初の一軍昇格となった。
翌日。
監督室のデスクの上でスマートフォンが震えた。
画面には娘の「四季」の名前が表示された。
大の野球好きで、クリッパーズの試合はもちろん公示情報も欠かさずチェックしている四季。
電話に出るなり、弾んだ声が耳に飛び込んできた。
「お父さん! 洋介くんを上げたの!? 後藤さんがケガしたから、白石さんを上げるのはわかったけど、鈴木さんじゃなくて洋介くんなのはびっくりした!」
高憧洋介と四季は高校時代の同級生。娘にとっても身近な存在のサプライズ昇格だった。
「鈴木はケガがまだ万全じゃないから、今回の昇格は見送ったんだ。ファームの試合も湯浅と育成捕手でどうにか回さなきゃいけないから、下もやりくりが厳しいんだけどな」
事情を説明すると、四季は少し声を潜め、冷静な口調で返してきた。
「まあ、後藤さんがすぐ戻れればいいけど……洋介くん、ファームでは肩の強さを買われてサードばかり守ってるから、キャッチャーやるとなると試合勘とか厳しいかもね」
「……よく見てるな。相変わらず鋭いよ」
我が娘ながら的確すぎる分析に、思わず苦笑いが漏れる。
高憧には投手として育成しつつ、プロの球に慣れるため内野手として試合に出場させているので、一軍の緊迫した場面でいきなりマスクを被らせるには、ブランクと経験不足というリスクが確かに潜んでいた。
「とにかく、洋介くんにプレッシャーかけすぎないであげてね! 応援してるから!」
通話を終えてスマートフォンを置くと、ガタさんが苦笑いしながらこちらを見ていた。
「四季ちゃんからですか? 的を射た意見だったようですね」
「ああ。高憧のサード起用が多いことまで把握してたよ。だが、どんな事情があろうと今動ける戦力で戦い抜くしかない。中北を中心に白石、そして高憧をどう組み込むか……知恵の絞りどころだな」
予期せぬアクシデントに見舞われながらも、チームは前を向く。
本拠地3連戦の勝ち越しをかけた第3戦へ向け、新たな布陣の検討が始まる。




