第34話 ホーム開幕戦(4)
6回表
5回まで素晴らしい投球を見せていた五反田だったが、急激にその指先から球威が失われ始めていた。
1死から連打とストレートの四球を与え、1死満塁。続く打者に外角のストレートをライト前へ弾き返され、1点を返され3-2。
「タイム!」
後藤が素早くマウンドへ走り、若狭、平山、米丸、ゲイリーの内野陣が集まってきた。
「竜太、大丈夫だ! 踏ん張りどころだぞ!」
「すんません、急に腕が振れなくなって……」
息を荒らげる五反田。
球数はまだ80球台、100球にも達していない。
ベンチから見守る俺は、ガタさんと視線を交わした。
「ガタさん、どうする?」
「ここは竜太に乗り越えさせましょう。本拠地のファンも、アイツの背中を押してます」
俺は続投を決断し、マウンドへ拍手を送った。
続く打者に対し、五反田は死力で腕を振り、サードへのボテボテの内野ゴロに打ち取る!
「ホームへ送球! アウト!」
米丸がセカンドへ送球して2アウト。
しかし平山から一塁への転送は間一髪セーフとなり、その間に三塁走者が生還。
3-3の同点に追いつかれてしまう。
「くそっ……!」
悔しがる五反田だったが、崩れかける自分を必死に繋ぎ止め、続く打者をライトフライに仕留めて勝ち越しだけは阻止した。
6回を投げ切り、マウンドを降りるルーキーに、スタンドから温かい「竜太コール」が送られる。
6回裏
追いつかれた直後のクリッパーズの攻撃。
先頭の2番・鎌倉がセンターフライに倒れた後、打席には打撃不振に苦しんでいる3番・西橋。
相手投手のチェンジアップに泳がされながらも、西橋はバットの先端でボールを残した。
——ポトンッ……。
打球はセカンドとライトの間にポトリと落ちる意地のポテンヒット!
「西橋さん! ナイスバッティング!」
ベテランの意地の出塁にベンチが沸き立つ。続く4番・ゲイリーに対し、相手バッテリーは長打を警戒してあからさまな敬遠気味の四球。
2死1・2塁の勝ち越しチャンスで、打席には指名打者の5番・スチュワート!
「ヘンリー!一発頼むぞ!」
スタンドからの大歓声の中、スチュワートは初球のインコースのストレートを力強く振り抜いた!
——ボコッ……!!
しかし、完璧に捉えたかに思えた打球は、詰まらされてサード正面へのゴロ。
「サード捕球、セカンドへ! 一塁転送——アウトッ、ダブルプレー!」
「ああーっ……!」
快音は響かず、痛恨の併殺打でチェンジ。
勝ち越しの絶好機を逃し、グラウンドを引き揚げるスチュワートはガックリと頭を垂れた。
7回表
五反田は「まだ投げられます!」と続投を志願してきた。
だが、シーズンはまだ始まったばかり。ここで無理をさせる場面ではない。
「竜太、よく投げた。あとは任せろ!」
俺はマウンドにドラフト5位ルーキーの堀之内を送った。
五反田の熱い思いを受け取った堀之内は、鋭いスライダーを武器に相手打線をまったく寄せ付けず、見事な三者凡退! 同期の絆でピンチの芽を摘み取ってみせた。
7回裏
勝ち越したいクリッパーズは先頭の6番・後藤に代えて代打・津田を送り込む。
津田はその期待に見事に応え、ライト前へ綺麗に弾き返すヒットで出塁!
続く7番・若狭。打撃不振で苦しむ男は、ベンチのサイン通りに初球から一発できっちりと送りバントを成功させる!
「ナイスバント若狭!」
続く8番・平山も内野ゴロの間に走者を進め、2死3塁。ここで9番・恵良に打席が回るが、相手投手の渾身のボールに痛恨の空振り三振。あと一本が出ず、チャンスを生かしきれない。
8回表
連日の中継ぎ陣の酷使を考慮し、俺は自ら告げた。
「ピッチャー、俺!」
「リリーフ俺」の発動だ。
最速135km/hのストレートと、長年の経験で培った老獪な変化球の組み立て。
相手打線の打ち気を徹底的に外す術で、面白いように打ち取っていく。
「ピッチャーゴロ! 一塁送球アウト!」
自らのグローブで打球をさばき、見事な三者凡退! ベンチに戻る俺に、まさかのホールドが記録された。
8回裏
1番・米丸、2番・鎌倉、3番・西橋の上位打線だったが、相手投手の好投の前に三者凡退に倒れ、
試合は3-3の同点のまま最終回へ。
9回表
同点の場面で、守護神・川井をマウンドへ送り込む。
「絶対に失点は許さん……!」
川井の投じる重厚なストレートが冴え渡る。
相手打線をまったく寄せ付けず、三振、外野フライ、三振の三者凡退
9回裏
打席には4番・ゲイリー。
相手バッテリーは申告敬遠こそ選択しなかったものの、ゲイリーの長打を警戒してボールゾーンへ逃げる投球。
ストライクをまったく投げてこない。
だが、カウント2-1からの4球目だった。
相手投手が投げ損じた1球——内角高めへ甘く入った146km/hの失投。
それを見逃す4番打者ではなかった。
——カッキィィィンッッッ!!!!
スタジアム全体に響き渡る、今日一番の打撃音。
打った瞬間、ゲイリーは走り出すことすら止めた。バットを大きく放り投げ、胸を張ってゆっくりと歩き出す「確信歩き」。
「行ったあああぁぁぁーーーっ!!」
「サヨナラだあぁぁぁぁ!!」
白球は夜空へ高く高く舞い上がり、ライトスタンド最上段へと突き刺さる
第4号サヨナラソロホームラン!
「ゲイリー! ゲイリー!!」
ダイヤモンドを一周してホームインしたゲイリーを、俺を筆頭にベンチから飛び出したナインが全員でもみくちゃにする。
超満員の本拠地ファンが揺らすスタジアムで掴み取った、あまりにも劇的なホーム開幕戦の勝利。
これでチームは破竹の開幕4連勝を飾った。




