第17話 オープン戦初戦(2)
先制してもらった先発の今井瑠星は
マウンド上でギアを全開に入れた。
「キャッチボールから飛ばしていけ!」
俺の指示通り、今井の右腕から放たれるストレートは自己最速クラスの155km/hを連発。
キャッチャー後藤のミットに「バシィン!」と恐ろしい音が響く。
今井の課題はコントロールだ。
だが、この日は後藤の強気なリードが光った。
細かくコースを狙わせるのではなく、ストライクゾーンの中に力強く投げ込ませる。
投球が自然と荒れることで、相手打者は球筋が絞れず、コースが勝手に分断されていく。
落差のあるフォーク、手元で動くツーシームも効果的に決まり、今井は3回までノーヒットピッチング。圧巻の立ち上がりを見せた。
勢いに乗る打線は4回表
先頭の4番ゲイリーからだった。
相手の甘く入ったスライダーを完璧に捉えると、打球は美しい放物線を描いてライトスタンド中段へ。
「行ったぞ! ホームランだ!」
オープン戦初アーチとなるソロ本塁打で3点目。
さらに動揺した相手投手から5番小芦が四球で出塁。
6番の後藤が打席に入る。
後藤は甘い直球を逃さず、フルスイング。
高く上がった打球はぐんぐん伸び、そのままライトスタンドの芝生席へ飛び込んだ。
2ランホームラン! スコアは【 5 - 0 】!
「やったな、後藤!」
ベンチに戻ってきた後藤と力強いハイタッチを交わす。
その後、若狭と津田は倒れたものの、9番のドラ2ルーキー平山がしぶとくショートへの内野安打で出塁。
盗塁死でチェンジとなったものの、
足を使う姿勢は終始崩さなかった。
ノーヒットを続ける今井は4回裏もマウンドへ。
先頭打者にこの日初めての四球を与え、続く打者に待望の初安打となるライト前ヒットを許してノーアウト1、2塁のピンチを迎える。
だが、ここからが今日の今井と後藤の真骨頂だった。
焦る今井に後藤が間を取り、打ち気にはやる相手打者の足元へ低めのフォークを投げ込ませる。
——カンッ!
狙い通りの引っ掛けたサードゴロ!
米丸から「5-4-3」の鮮やかなダブルプレー!
2アウト3塁となると、最後の打者を154km/hの直球で空振り三振に切って取った。
「よしっ!今井、ナイスピッチング!」
4回を投げて被安打1、無失点。課題の制球に苦しみながらも、自分のパワーと捕手のリードでねじ伏せた見事な内容だった。
グラウンドから戻ってきた今井の頭を、俺はガシガシと撫で回した。
「よく投げたな、今井!ピンチでも腕が振れてたぞ。今日の収穫はデカい」
「ありがとうございます、監督!後藤さんのリードのおかげで思い切って投げ込めました!」
汗をぐっしょりかいた今井が、最高の笑顔を見せる。
「ガタさん、5回からは予定通り継投に入るぞ。この最高の流れ、最後まで渡さずにいくぞ!」
「おうよ! 5-0か、初陣にしては上出来すぎる展開だな!」
5回表
先頭の1番・米丸は相手の変幻自在な変化球を打ち上げてしまい、あっけなくキャッチャーフライに倒れた。
ベンチに戻った米丸が「すんません、ひっかけました!」と頭をかく。
「気にすんな、1打席目に素晴らしい足を見せてくれたんだ。十分だ」
俺はネクストバッターズサークルに視線を向けた。本来なら2番のドラ4ルーキー・鎌倉の打席だが、
ここで俺はベンチ裏で素振りをしていた若手に声をかけた。
「遠藤! 行くぞ、代打だ」
「……えっ!? 俺っすか!?」
指名されたのは、高卒3年目の若手外野手・遠藤彬。
1軍枠に滑り込んだものの、実戦でのアピールを喉から手が出るほど欲している男だ。
目が一瞬で血走り、力強く「しゃああっ!」と声を張った。
「鎌倉、一回ベンチで見学だ。遠藤、初球から自分のスイングしてこい!」
「はいっ! 行ってきます!」
打席に入った遠藤は、ガチガチに緊張しながらも力強いスイングを披露。カウント1-2からの4球目、外角の直球を泥臭く合わせると、打球はライトの手前にポトリと落ちた。
「落ちた! ナイスバッティング、遠藤!」
代打起用に見事応えるシングルヒット。
1塁上で遠藤は「よっしゃあ!」と何度もガッツポーズを作ってみせた。ベンチも一気に盛り上がる。
……だったが、続く3番のベテラン西橋が相手投手の巧みなチェンジアップに引っ掛けてしまい、無念の「6-4-3」のダブルプレー。
せっかく作ったチャンスだったが、追加点は奪えずにチェンジとなった。
5回裏
マウンドには2番手としてプロ12年目のベテラン右腕・中村翔平が上がった。
昨年途中まで守護神まで務め上げた男だ。
4回まで無失点と完璧だった今井の後を受けたマウンド。
だが、オープン戦初登板の固さが出たか、中村は制球を乱す。不運なポテンヒットと連続四球が重なり、あっという間にノーアウト満塁の大ピンチを背負ってしまった。
球場全体に重苦しい空気が漂う。
絶体絶命のピンチにも、キャッチャーの後藤は落ち着いて低めにミットを構え続けた。
開き直った中村は、得意のシュートで内角をゴリゴリと突き始める。
打者を詰まらせてホーム封殺のピッチャーゴロ。
次の打者も内角攻めでサードゴロに打ち取り、本塁封殺。
そして最後の打者を、この日一番のキレを見せたスライダーで空振り三振!
ノーアウト満塁を、なんと無失点で切り抜けた!
「よしっ!! ナイスピッチング、中村!」
ベンチへ戻ってくる中村を、全員がハイタッチで迎える。
ドッと汗を吹き出させた中村が「はぁー……寿命が縮まりましたよ監督!」と苦笑いを見せた。




