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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第93話 エネルギー問題

 問題は、動力だった。


 しんた君1号の演算そのものは、すでに完成している。


 過去の神託。


 聖王国の政治状況。


 布教の傾向。


 枢機卿の思想パターン。


 そこに教会という組織特有のエゴと独占欲という補正を加えることで、予測精度はさらに向上した。


 だが。


 問題は、その結果をどうやって民衆に示すかだった。


「理論上は可能だ」


 アルノルトが言った。


「問題は出力です」


「巨大な立体投影を維持するには、相当量の魔力が必要になります」


「まあ、そうなるよな」


 リシュンが腕を組む。


「今回は屋外だ」


「しかも大聖堂前の広場」


「後方の信徒からも視認できるサイズが必要になる」


「象徴性を維持するなら、かなり派手にやらないと意味がない」


「視認距離、角度、光量」


 ナーチャンが淡々と補足する。


「すべてを考慮すると、要求出力はさらに増大します」


「つまり」


 リシュンが言った。


「かなり強力な動力源が必要ってことだ」


「動力源か……」


 アルノルトが小さく呟く。


「そう」


「例えば」


「巨大な魔力とか」


「巨大な魔力か」


 リシュンが考え込む。


「そんなもん、そう簡単に用意できるか?」


「高位魔術師を複数人動員すれば理論上は可能です」


 アルノルトが答える。


「ですが制御が難しくなります」


「人数が増えるほど誤差も増大します」


「しかも目立ちます」


「魔力炉を持ち込む案もありますが」


「聖王国の中心部では現実的ではありません」


 沈黙が落ちた。


 方法はある。


 だが、どれも決定打に欠ける。


 その時だった。


 部屋の扉が開いた。


「ご苦労さん」


 ユージが入って来た。


 なぜか両手に焼き鳥を持っている。


 湯気が立っている。


 いい匂いだ。


「ツマミ買って来たから休憩しようぜ」


「どこで買って来たのですか」


 ナーチャンが聞く。


「普通に屋台で売ってたぞ」


「この国、酒はあんまり見かけないけど、焼き鳥はあるんだな」


「しかも妙に上品な味だった」


 ユージは串を一本掲げた。


「ただな」


「妙に“整いすぎてる”焼き鳥だった」


「整いすぎている、とは?」


「肉の大きさが全部同じなんだ」


「本来はな」


「串の根元は少し大きめ」


「先の方は少し小さめにする」


「火の通りを均一にするためだ」


「どこを食っても同じ焼き加減になるように」


「職人はそうやって調整する」


「だが、この焼き鳥は全部同じサイズ」


「見た目の揃い方を優先してる感じだった」


 リシュンが串を覗き込む。


「ほんとだ」


「やたら均一だな」


 アルノルトも頷いた。


「機能合理性よりも視覚的秩序を優先している」


「この国らしい設計思想です」


「焼き鳥まで正しいのかよ」


 ユージが苦笑する。


「味は悪くないんだけどな」


「なんか優等生すぎる」


 そして、ふと思い出したように続けた。


「そういやさ」


「仲間内で焼き鳥シェアしようって、串から外すことあるだろ?」


「ありますね」


 リコが答える。


「あれな」


「熟練の職人からすると、とんでもないことらしいぞ」


「肉の大きさ」


「脂の付き方」


「焼き加減」


「串から直接食べやすい順番まで」


「全部計算して刺してある」


「それを途中でバラされると」


「完成した構造が崩れる」


 ナーチャンが小さく頷く。


「合理的です」


「最適化を破壊する行為です」


「まあ、気持ちは分かるけどな」


 ユージは肩をすくめた。


「人数いると分けたくなるし」


「色んな種類も食いたいし」


「焼き鳥の食い方なんて好きにすりゃいいと思う」


「決まった作法とか」


「正しい手順とか」


「そういうのも大事だけどさ」


 一口かじる。


「整いすぎてると」


「なんか気が休まらないんだよな」


「失敗する余地がないというか」


「崩したら怒られそうというか」


「飯くらい」


「もうちょっと適当でもいいだろ」


 リコが小さく笑った。


「……ユージさんらしいわね」


「そうか?」


「理屈は通ってるのに」


「結論がすごく人間的」


「褒めてるのかそれ」


「褒めています」


 ナーチャンが即答した。


 リシュンとアルノルトの動きが止まっていた。


 二人の視線が、ゆっくりとユージへ向く。


「あっ」


 リシュンが声を上げた。


「え?」


 ユージが立ち止まる。


「なるほど!」


 アルノルトが頷く。


「えっ?」


「あるじゃん」


 リシュンが言った。


「膨大な魔力」


「え?」


「これで解決だな」


 アルノルトが即断する。


「よし」


 リシュンが焼き鳥を一本取る。


「飲もう!」


「待て」


 ユージがツッコむ。


「なんで俺が電源扱いなんだ」


「違うのか?」


「違うわ」


 リコが小さく首をかしげた。


「……どういうこと?」


 ナーチャンが説明する。


「ユージさまは、極めて特異な魔力特性を持っています」


「通常、人の魔力量には上限があります」


「魔術師であっても、一定量以上の出力を維持することは困難です」


「ですが」


「ユージさまの場合」


「測定限界を超えています」


「以前、測定器が停止しました」


「停止って言うな」


「壊れました」


「言い直すな」


「参考値になりますが」


「通常の上級魔術師の平均出力の」


「約二十七倍です」


 リシュンが、にやりと笑った。


「リーダーの魔力量は桁外れだからな」


「何しろ、時空間転送装置を動かせるくらいだし」


「まあ、あれは失敗したけどな」


 ユージが苦笑する。


「いやいや」


 リシュンは首を振った。


「あれは特別な意思が働いた結果、転送できなかっただけだ」


「実験としては成功したも同然だ」


 わざとらしく間を置いて、


「なぁ、ナーチャン」


「……は?」


 ナーチャンの反応が、わずかに遅れた。


「なぜ私に同意を求めるのですか?」


「それはなんだ」


 リシュンが肩をすくめる。


「そういうことだろう?」


「……はて」


 ナーチャンは一瞬だけ視線を逸らした。


「なんのことやら」


「それよりも」


 すぐに表情を戻す。


「今度の装置は失敗は許されません」


「確実性を最優先します」


 やけに早口だった。


 ほんの少しだけ、頬が赤い。


 リシュンは、ニヤニヤした顔でナーチャンを見ている。


 明らかに、何かを知っている顔だ。


「……何の話だ?」


 ユージが首をかしげる。


「気にするな」


 リシュンが笑う。


「リーダーの魔力が規格外って話だ」


「それは分かったけど」


「なんでナーチャンが動揺してるんだ?」


「動揺などしていません」


 即答だった。


「気のせいです」


「絶対なんかあるだろ」


「ありません」


「ありませんったらありません」


「二回言ったな」


 リコが思わず吹き出した。


 張り詰めていた空気が、ほんの少し緩む。


「まあいいけどさ」


 ユージは串を取った。


「役に立つなら使ってくれ」


「頼もしいねえ」


 リシュンが笑う。


「本人が一番自覚してないのが面白い」


「一応聞くけど」


 ユージが言う。


「体に悪影響とかないよな?」


「ありません」


 アルノルトが即答した。


「むしろ余剰分の有効活用になります」


「余剰ってなんだ」


「普段ほとんど使われていませんので」


「使えよ」


「用途がありませんでした」


「悲しい言い方するな」


 リコの表情が、少しだけ柔らいだ。


 張り詰めていた空気が、わずかに軽くなる。


「よし」


 リシュンが串を掲げた。


「電源も確保できたことだし」


「景気づけといこう」


「まだ仕事中だぞ」


「こういう時の一杯は必要なんだよ」


「串焼きしかないけどな」


「雰囲気だ」


「雑だな」


 こうして。


 聖王国の均衡を揺るがすための最後の部品は、


 焼き鳥と共に、


 あっさりと揃ったのだった。

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