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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第92話 権威への挑戦状

 しんた君1号改良版の精度は、誰の目にも明らかだった。


 神託は絶対ではない。


 少なくとも、完全に不可解なものではない。


 その事実は、静かに、しかし確実に前提を揺るがしていた。


 ナーチャンが机の上に資料を並べる。


 神託の写本。


 しんた君の出力。


 比較表。


 整然と並んだそれらは、まるで何かの証明書のようにも見えた。


「結論から申し上げます」


 ナーチャンが言った。


「神託は、再現可能です」


 淡々とした口調。


 だが、その意味は大きい。


「完全一致ではありませんが」


「意思決定支援モデルとしては十分な精度です」


 アルノルトが頷く。


「誤差範囲内です」


 リシュンが椅子にもたれた。


「正直、ここまで寄るとは思わなかった」


「俺たち、ちょっと神様に近づいちゃったかもしれないな」


「不敬です」


「怒られるかな」


「再現可能なら問題ありません」


 問題なのか問題じゃないのか分からない。


 だが、確実に一つ。


 前提が崩れ始めていた。


 ユージが腕を組む。


「で?」


「これをどう使う?」


 ナーチャンが資料を一枚めくる。


「神託の影響力の源泉は」


「内容ではありません」


「唯一性です」


 リコが小さく首を傾げた。


「唯一性?」


「はい」


 ナーチャンは続ける。


「神託は“唯一の正解”として提示されます」


「比較対象が存在しない」


「反証も困難」


「ゆえに、絶対性を持つ」


 リシュンが指を鳴らした。


「なるほどな」


「セカンドオピニオンが存在しない医者みたいなもんか」


「不安でも従うしかない」


 アルノルトが補足する。


「情報の独占が権威を生みます」


 ユージが頷いた。


「独占企業ってやつだな」


「競合がいないから強い」


「はい」


 ナーチャンが言う。


「つまり」


「比較可能になった瞬間」


「絶対ではなくなります」


 リコが小さく息を呑んだ。


「……それって」


「神託と同じ答えを、別の方法で出せば」


「はい」


 ナーチャンが頷く。


「神託は唯一ではなくなります」


 沈黙が落ちた。


 意味は理解できる。


 だが、その影響の大きさも同時に感じていた。


「それって」


 リコが言う。


「聖王国に喧嘩を売るってことよね」


「はい」


 ナーチャンは迷わなかった。


「明確に」


 ユージが肩をすくめる。


「挑戦状ってやつか」


 リシュンが笑う。


「いいね」


「分かりやすい」


 アルノルトが冷静に確認する。


「問題は」


「公開方法です」


「密室では意味がない」


「民衆が認識する必要があります」


 ナーチャンが頷く。


「神託の権威は」


「社会的合意によって成立しています」


「ゆえに」


「社会の前で示す必要があります」


 ユージが考える。


「でも、どうやって比較させるんだ?」


「同時通訳みたいな感じで、ナーチャンに読み上げてもらうか?」


「バカなことを言わないでください」


 ナーチャンが即座に切り捨てた。


「私が読み上げた場合」


「今度は私が“巫女”と見なされてしまいます」


「それでは」


「ヨーコさんと私の対決構図になってしまいます」


「作戦の趣旨から外れます」


 ユージが小さく頷いた。


「なるほど」


「巫女を倒したいわけじゃないもんな」


「はい」


 ナーチャンは続ける。


「問題は人物ではありません」


「構造です」


「あはは」


 リシュンが笑った。


「そこはちゃんと考えてある」


「なあ、アルノルト」


「はい」


 アルノルトが静かに答える。


「こんなこともあろうかと」


「立体投影システムを用意しておきました」


「用意してたのかよ」


 ユージが呆れる。


「リシュン殿が作られた、立体魔導投影装置の応用です」


「今回は、持ち運び可能なコンパクトサイズにするのに苦労しましたが」


 アルノルトは淡々としている。


「巫女の背後に、不可視状態の投影装置を配置します」


「そして、神託の発話と同時に」


「しんた君1号の出力を表示します」


「表示って……どこに?」


「空間投影です」


 アルノルトがさらりと言う。


「巫女の背後に、巨大な表示領域を展開します」


 リシュンが補足する。


「イメージとしては」


「透明なホワイトボードだな」


「そこに、しんた君1号のセリフがリアルタイムで出る」


「しかも」


「ちょっとデフォルメしたマスコット付き」


「なんでマスコットなんだ」


「分かりやすさ重視」


「あと可愛い方がウケがいい」


「真面目にやれ」


「真面目だよ」


 ユージが想像する。


「つまり」


「巫女が神託を話す」


「その後ろに」


「同じ内容が、ほぼ同時に表示される」


「そういうことか」


「はい」


 アルノルトが頷く。


「巫女本人からは見えません」


「ですが」


「民衆からは明確に視認できます」


 ナーチャンが静かに補足する。


「視覚情報は強力です」


「言葉よりも直感的に理解されます」


 ユージが小さく笑った。


「なるほどな」


「“なんだこれ?”ってなるわけだ」


「はい」


 リシュンがニヤリとする。


「混乱はする」


「だが」


「同時に考え始める」


 リコが少し不安そうに言った。


「……ヨーコに危険はない?」


「ありません」


 アルノルトが即答した。


「干渉は一切行いません」


「あくまで情報提示のみです」


 ナーチャンが続ける。


「神託の否定ではありません」


「比較対象の提示です」


 ユージが肩をすくめた。


「なるほど」


「ケンカは売るが、殴りはしないってことか」


「挑戦状ですから」


 ナーチャンが言った。


 リシュンが端末を軽く叩く。


「しんた君」


「いよいよ表舞台だぞ」


 神の言葉の隣に。


 人の言葉を並べる。


 それがどんな波紋を生むのか。


 まだ誰にも分からない。


 だが。


 確実に一つ言えることがある。


 民衆は初めて。


 比較することになる。

昨夜、スピンオフ短編「産廃屋のおっさん、魔獣肉を食って少しセンチになる」を投稿しました。

お時間あればぜひご一読ください。

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