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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第91話 天才たちは俯瞰する

 三日後。


 部屋の扉が勢いよく開いた。


「出来たぞ!」


 リシュンだった。


 髪は少し乱れ、目の下にはうっすらと隈。


 だが表情はやけに晴れやかだ。


 後ろから、いつも通り無表情のアルノルトが入ってくる。


「寝てないだろ」


 ユージが言う。


「三日は寝てないな」


 リシュンがあっさり答えた。


「やっぱりか」


「天才はショートスリーパーってやつだ」


「違う」


 アルノルトが即座に否定する。


「ただの締切です」


 ナーチャンが静かに席を勧める。


「進捗を報告してください」


「相変わらず容赦ねえな」


 リシュンが椅子に座り、端末を机に置いた。


「しんた君1号、改良完了だ」


「もう1号じゃないだろ」


 ユージが言う。


「バージョン1.5ってとこだな」


 画面が起動する。


 新しい解析画面。


 前回よりも整理されている。


 ナーチャンが覗き込む。


「変更点は?」


「判断重みの再調整」


 アルノルトが答えた。


「倫理優先モデルから」


「現実最適モデルへシフト」


 リシュンが続ける。


「初期モデルだと、ちょっとズレてたんだよ」


「理想論に寄りすぎてた」


「神様、そんなに綺麗事ばっか言わないってことか」


 ユージが言う。


「むしろ逆だな」


 リシュンが肩をすくめる。


「教会のエゴと独占欲っていうスパイスを加えたら、効果覿面」


「一致率がハネ上がったぜ」


 ナーチャンが静かに頷いた。


「組織の自己保存バイアスです」


「権威の維持を目的とした補正が入っている可能性は高いでしょう」


「神様も大変だな」


 ユージが苦笑する。


「広報戦略まで考えないといけないのか」


「宗教は社会システムですから」


 ナーチャンが淡々と答える。


「純粋な理念だけでは維持できません」


 リコは少し複雑な表情で画面を見ていた。


「……つまり」


「神託は、状況を見て調整されてるってこと?」


「その可能性が高い」


 アルノルトが答える。


「完全な未来予知ではない」


「意思決定支援モデルに近い」


 ユージが腕を組む。


「相談役ってことか」


「だいたいそんなところだな」


 リシュンが言った。


「じゃあ試してみるか」


 端末に条件を入力していく。


 社会情勢。


 現在の布教状況。


 聖王国の内部構造。


 民衆の心理傾向。


 数秒。


 文章が生成される。


 リシュンが画面を回した。


「これが次の神託の予測」


 ナーチャンが読み上げる。


「秩序の維持」


「役割の尊重」


「迷いを捨て、正しき道を歩め」


「……いかにも言いそうね」


 リコが呟いた。


 そこへ。


 再び扉がノックされた。


 三回。


 ナーチャンが開ける。


 ハミータだった。


「最新」


 差し出された紙。


 ナーチャンが受け取り、読み上げる。


「人は迷いの中にあって、己の役割を見失う」


「されど、与えられし務めを全うする時」


「道は自ずと開かれる」


 沈黙。


 リシュンとアルノルトが同時に頷いた。


「方向性一致」


 アルノルトが言う。


「構造一致」


「やっぱりな」


 リシュンが笑った。


「未来予知じゃない」


「状況分析だ」


 ユージが小さく息を吐く。


「神様、ずいぶん現実的だな」


「あるいは」


 ナーチャンが言う。


「現実が、神の言葉を必要としているのかもしれません」


 リコが静かに言った。


「……これなら」


「ヨーコ、一人で悩まなくていい」


 その声には、少しだけ光があった。


 ユージが椅子にもたれた。


「さて」


「道具は揃ってきたな」


「次はどう使うか、だ」


 リシュンがニヤリと笑う。


「見せてやるのか?」


「神様の考え方ってやつを」


 ナーチャンが静かに頷いた。


「唯一でなくなった瞬間」


「権威は揺らぎます」


 アルノルトが続ける。


「比較可能性は、思考を生みます」


 ユージが立ち上がった。


「いいじゃないか」


「考える余地があるってのは」


「悪くない」


 迷いのない国に。


 迷いの種が、ひとつ落ちた。


 それは小さい。


 だが確実に。


 形を持ち始めていた。

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