第82話 綺麗すぎる街
今頃になって、第二部の82話が抜けていることに気が付いたので、慌てて投稿します(;^_^A
翌朝。
ユージたちは、聖王国の街を歩いていた。
「……やっぱ変だよな」
ユージが、ぽつりと呟く。
「何がです?」
隣を歩いていたナーチャンが尋ねた。
「いやさ」
ユージは周囲を見回す。
「綺麗すぎるんだよ、この国」
石畳にはゴミ一つ落ちていない。
露店は決められた区画に整然と並び、客引きの声すら控えめだった。
道を行く人々の服装も清潔だ。
酔っ払いもいない。
喧嘩もない。
怒鳴り声すら聞こえない。
「良いことではないですか?」
「まあ、そうなんだけどさ」
ユージは頭を掻く。
「なんつーか……遊びがねえんだよな」
「遊び?」
「ほら、ユージア国なんか酷いだろ?」
「道端で商売始める奴がいるわ、勝手に屋台増やす奴がいるわ」
「この前なんか、広場で酔っ払いが寝てましたね」
「そうそう」
「褒められた話ではありませんが」
「でも、人間なんてそんなもんじゃね?」
ナーチャンは少し考える。
その時。
「いたぞ!」
突然、タケシトが声を上げた。
何事かと思って振り向けば、道の向こうで酒場を指差している。
「酒場だ!」
「朝から飲む気ですか?」
「情報収集だよ、情報収集!」
「絶対嘘だろ」
三人が店の前を通り過ぎようとすると、店主らしき男が丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。酒類の提供は夕刻からとなっております」
「なん……だと……」
タケシトが愕然とする。
「健康的ですね」
「健康的すぎんだろ!」
そんなやり取りをしながら歩いていく。
やがて、大きな広場へ出た。
中央には神像。
その周囲では、人々が静かに祈りを捧げている。
誰かに命じられている様子はない。
皆、自分から祈っていた。
ユージは少しだけ目を細める。
「別に、不幸そうじゃないんだよな」
「ええ」
ナーチャンも頷いた。
「治安も良好です。食糧事情も安定しているようですし、生活水準も決して低くありません」
「だったら、これでいいんじゃねーの?」
ユージが何気なく言った。
ナーチャンがユージを見る。
「良いのですか?」
「本人たちが幸せならな」
ユージは肩をすくめた。
「俺たちの価値観を押しつけても仕方ないだろ」
「ただまあ」
広場を見渡す。
「ヨーコちゃんが幸せかどうかは、別の話だけどな」
ナーチャンは何も言わなかった。
静かな街。
整った暮らし。
迷わなくていい社会。
それを求める者もいるのだろう。
だが。
その中で、一人だけ苦しんでいる人間がいるのなら。
「そこだけは、なんとかしてやりたいよな」
「はい」
ナーチャンが静かに答えた。
その時。
「おい、リーダー!」
いつの間にか少し離れた場所にいたタケシトが戻って来た。
妙に真剣な顔をしている。
「俺、ちょっと調べたいことができた」
「なんだよ」
「この国の夜についてだ」
「……なんで急に嫌な予感がするんだろうな」
「気のせいだ!」
そう言い残すと、タケシトは人混みの中へ消えていった。
ユージは、その背中を見送る。
「ろくでもないことにならなきゃいいけど」
「タケシトさんですからね」
「だよなぁ」
二人は顔を見合わせ、小さく息を吐いた。
聖王国。
正しく。
安全で。
穏やかな国。
だからこそ。
ユージには、もう少しだけこの国を見てみる必要があるように思えた。




