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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第78話 再会

第78話 再会


 部屋の中は、静まり返っていた。


 外界から切り離されたような空間。


 音が吸い込まれていく。


 まるで、ここだけ時間の流れが違うようだった。


 白い衣装の少女が、静かにリコを見ている。


 背筋はまっすぐ。


 視線もぶれない。


 整いすぎた姿勢。


 整いすぎた所作。


 まさに「巫女」という記号そのものだった。


「……お久しぶりですね」


 先ほどの言葉を、そのままなぞるように、


 少女は穏やかに続けた。


「本日は、どのようなご用件でしょうか」


 丁寧で、淀みのない声。


 用意された文面を読み上げているような響きだった。


 再会という状況すら、


 想定された手順の中に組み込まれているかのようだった。


 リコは、ほんのわずかに目を細めた。


「ずいぶん、よそよそしいのね」


 穏やかな声だった。


 責めるような響きはない。


 だが、少しだけ寂しそうだった。


 巫女は、わずかに首を傾げる。


「申し訳ありません」


「公の立場上、私的な感情を優先することは許されておりませんので」


 模範的な回答。


 隙のない言葉。


 だが、


 ほんのわずかに、


 言葉の間が空いた。


 リコは一歩、距離を詰める。


「相変わらず、真面目ね」


 懐かしむような声。


 少女の視線が、一瞬だけ揺れた。


 ほんの一瞬。


 だが確かに。


「……あなたが、ここに来る理由はありません」


 巫女としての言葉。


 正しい距離を保とうとする声。


 リコは小さく笑った。


「理由がないと、会いに来ちゃいけないの?」


 少女は沈黙した。


 想定外の質問だったのだろう。


 答えを探している。


 正しい返答を。


 だが、見つからない。


 その時だった。


「おいおい」


 ユージが、空気を壊さない程度の声で言った。


「せっかくの姉妹の再会なんだから、そんなに堅くならなくてもいいんじゃないか?」


 少女の視線が、わずかにユージへ向く。


 警戒というより、


 戸惑いに近い反応だった。


「久しぶりに会えて嬉しいんだろ、二人とも」


 あまりにも当たり前のことを言っただけだった。


 だが、


 その一言で、


 部屋の空気が少しだけ変わった。


 リコが小さく息をつく。


「……そうね」


 少女の視線が揺れる。


 どう振る舞えばいいのか分からない。


 巫女としてか。


 妹としてか。


 答えが見つからない。


 リコが、もう一歩だけ近づいた。


「元気にしてた?」


 あまりにも普通の言葉だった。


 だからこそ、


 想定されていなかった。


 少女の目が、わずかに見開かれる。


「……問題ありません」


 少し遅れて出てきた答え。


 だが、その声はほんの少しだけ小さかった。


「ちゃんと食べてる?」


「……規定に基づいた食事をいただいています」


「そっか」


 リコはそれ以上言わなかった。


 ただ、少しだけ微笑んだ。


 その表情に、


 少女の呼吸がわずかに乱れる。


 昔と同じ聞き方。


 昔と同じ距離。


 昔と同じ空気。


 それが、


 今の立場と噛み合わない。


 少女の指先が、わずかに動いた。


 何かを押さえ込むように。


「……お変わり、ありませんか」


 形式的な言葉。


 だが、


 ほんの少しだけ、


 言い方が柔らかかった。


 リコが答える。


「ええ。なんとかやってるわ」


「ちょっと遠回りしちゃったけどね」


 少女の手が、


 ほんの少しだけ握られる。


 迷っている。


 巫女としての振る舞いと、


 個人としての感情の間で。


「……どうして」


 小さな声。


 気づかないうちに漏れた言葉。


「どうして、ここに……」


 リコが答える。


「会いたかったから」


 それだけだった。


 余計な理由は言わない。


 言い訳もしない。


 ただ、


 本心だけを置く。


 少女の表情が、


 わずかに崩れた。


 ほんの一瞬。


 巫女ではなく、


 一人の少女の顔になる。


 戻そうとする。


 整えようとする。


 だが、


 間に合わない。


「……本当に?」


 声が揺れていた。


 ほんの少しだけ。


 リコが頷く。


「ええ」


 静かな肯定。


 少女の視線が、わずかに下がる。


 そして、


 とても小さな声で、


 ぽつりと言った。


「……お姉ちゃん」


 その瞬間。


 部屋の空気が変わった。


 神託でもない。


 役割でもない。


 用意された言葉でもない。


 ただの、


 家族を呼ぶ声だった。


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