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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第77話 正面からの潜入

 回廊の角で、ハミータが足を止めた。


「ここで変更」


 小さく言う。


 次の瞬間。


 空気が揺れた。


 衣装が変わる。


 姿勢が変わる。


 雰囲気が変わる。


 そこに立っていたのは、


 大司教だった。


「……相変わらず見事だな」


 思わず呟く。


 顔だけではない。


 立ち方。


 重心の位置。


 視線の高さ。


 すべてが先ほど見た大司教と同じだった。


「同行者は三名」


 ハミータが言う。


「司教という設定にします」


 俺たちの服装も変わっていた。


 白い法衣。


 装飾は控えめだが、質は高い。


 いかにも“それっぽい”。


「司教って、そんな簡単になれるのか?」


「外見だけです」


 ナーチャンが答えた。


「内部の階級構造は厳格ですが、

 現場で全員の顔を把握している者はいません」


「なるほどな」


「会社の本部みたいなもんか」


「部署が違うと誰が誰だか分からない」


「近いです」


 ナーチャンはあっさり頷いた。


「特に上位階層ほど、

 直接顔を合わせる機会は限られます」


 リコも静かに頷く。


 変装しているとはいえ、


 この国の服を着ている姿はどこか馴染んで見えた。


「知り合いに会うと面倒って言ってたが、

 これなら問題なさそうだな」


「ええ」


 リコは小さく答えた。


「むしろ自然なくらい」


 ハミータが歩き出す。


 迷いがない。


 堂々としている。


 それだけで周囲の空気が変わる。


 すれ違う聖職者が足を止める。


 深く頭を下げる。


「大司教様」


 誰も顔を確認しない。


 必要がないからだ。


 そこに“大司教がいる”。


 それが正しい。


 それで十分だった。


 回廊を進む。


 足音が静かに響く。


 誰も声をかけない。


 誰も止めない。


 当然の光景のように道が開いていく。


「すごいな」


 小声で言う。


「完全にフリーパスだ」


「役職が身分証になっています」


 ナーチャンが分析する。


「権威が強い社会ほど、

 確認行為は省略されます」


「効率は良いですが、

 なりすましへの耐性は低い」


「産廃の許可証みたいなもんか」


「紙一枚で通れる」


「中身は見ない」


 リコが少しだけ苦笑した。


 やがて巫女区画の入口に着く。


 護衛が立っている。


 槍を持っているが、


 緊張感はない。


 大司教の姿を見るなり、


 すぐに頭を下げた。


「大司教様」


 ハミータは軽く頷くだけ。


 言葉は発しない。


 その方がそれらしく見える。


 護衛はすぐに道を開けた。


 疑う様子はない。


 同行している俺たちにも視線すら向けない。


 司教が同行していることは、


 珍しくないのだろう。


 むしろ自然な光景。


 扉の前に立つ。


 重厚な扉。


 装飾は控えめだが、


 素材は明らかに高級だ。


 一人の人間の部屋にしては、


 少し立派すぎる。


 ハミータが扉に手をかける。


 躊躇はない。


 当然の動作。


 ここに入る権利がある者の動きだった。


 ゆっくりと扉が開く。


 中は静かだった。


 机に向かう少女の背中が見える。


 白い衣装。


 伸びた背筋。


 紙を手にしている。


 何かを読み上げている途中だった。


 その声が止まる。


 こちらに気づいたのだろう。


 ゆっくりと振り向く。


 表情は整っている。


 訓練された微笑。


 だが。


 ほんの一瞬だけ、


 視線が揺れた。


 リコの方へ向いた。


 わずかな時間。


 すぐに元の表情に戻る。


 何もなかったかのように。


 だが。


 確かに分かる変化だった。


 ハミータが扉を閉める。


 外の気配が遮断される。


 完全に隔離された空間。


 ここから先は、


 誰にも聞かれない。


「……お久しぶりですね」


 巫女は静かに言った。


 用意された言葉のように。


 しかし。


 その声の奥に、


 わずかな揺らぎがあった。


前夜の投稿で「辺境ギルド」が第一部完結しました。


読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

こちらも引き続き進んでいきますので、よろしくお願いします。

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