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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第69話 整い過ぎた街

 転移の光が収まると、そこには石造りの街並みが広がっていた。


 白い壁。


 整った道路。


 遠くに見える尖塔。


「……思ったより普通だな」


 ユージが周囲を見回しながら言った。


「もっとこう……いかにも宗教国家って感じかと思ってた」


「荘厳な建物が立ち並び、常に祈りの声が響いている、みたいな?」


 タケシトが適当なことを言う。


「むしろ静かですね」


 ナーチャンが観察していた。


 人通りは多い。


 市場も開かれている。


 子供たちもいる。


 日常は確かに存在している。


 だが――


 どこか落ち着きすぎている。


「皆、ちゃんとしてるな」


 ユージが呟いた。


 通りを歩く人々は、姿勢がよく、服装も整っている。


 歩く速さも、ばらつきが少ない。


 店先での会話も穏やかだ。


 値段交渉で声を荒げる者もいない。


「規律が徹底されていますね」


 ナーチャンが小さく頷く。


「教育水準が高い可能性があります」


「いいことなんじゃないか?」


「ええ」


 ナーチャンは肯定した。


「ただ」


 一拍置く。


「少し、揃い過ぎています」


 広場に出ると、数人が会話をしていた。


「今日の神託は午後でしたよね」


「ええ、南地区の件について触れられるそうです」


「では、そろそろ準備を」


 自然な会話だった。


 だが、その内容が妙に統一されている。


「予定を共有してるのか?」


 ユージが聞く。


「情報伝達が速いようですね」


 ナーチャンが答える。


「教会組織が機能しているのでしょう」


 市場では、商人たちが穏やかに商売をしている。


「本日のおすすめはこちらです」


「品質は保証されています」


「神託でも推奨されている作物です」


「神託って、そんな細かいとこまで言うのか?」


「生活指針として提示されている可能性があります」


「便利だな」


「便利ですね」


 便利すぎるようにも見える。


 道を歩く人々の表情は穏やかだ。


 不満も、焦りも、見えない。


 誰も迷っていないように見える。


「リコ、大丈夫か?」


 ユージが小さく聞く。


 変装したリコは、周囲をゆっくり見ていた。


「ええ」


 短く答える。


「相変わらずね」


「何が?」


「皆、安心してる顔をしてる」


「安心してるならいいことじゃないか?」


「そうね」


 リコは少しだけ考えてから言った。


「普通なら、ね」


 その言い方が少しだけ引っかかった。


 大通りを歩いていると、自然と人の流れが一方向に向かっていることに気づく。


「なんだ?」


「神託の時間が近いのでしょう」


 ナーチャンが周囲を見ながら言った。


「定期的に行われているようです」


 人々は急ぐでもなく、焦るでもなく、同じ方向へ歩いていく。


 誰も声を荒げない。


 誰も逆らわない。


 ただ、当たり前のように向かっていく。


「すごいな」


 ユージは感心したように言った。


「統率が取れてる」


「ええ」


 ナーチャンの視線は冷静だった。


「とても効率的です」


 だが――


 少しだけ、整い過ぎている。


 そんな印象が残った。


 遠くに見える大聖堂の鐘が鳴る。


 澄んだ音が街に広がる。


 人々は足を止めない。


 慌てもせず、急ぎもせず。


 ただ、当然のことのように歩き続ける。


「……なんかさ」


 ユージが小さく呟いた。


「はい」


「うまく言えないけど」


 少し考えてから続ける。


「優等生ばっかりって感じだな」


「ええ」


 ナーチャンも同意した。


「とても優秀な社会です」


 だからこそ――


 ほんのわずかな違和感が残る。


 間違っているようには見えない。


 問題があるようにも見えない。


 だが。


 なぜか、落ち着かない。


 その理由は、まだ分からなかった。


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