第66話 神託の巫女
数日後。
ハミータからの報告は、予想以上に早かった。
「発信源が特定できました」
ナーチャンが紙を差し出す。
「早いな」
「はい。隠している様子がありません」
「隠してない?」
「むしろ、公表しています」
ユージは紙を受け取った。
そこには、一人の人物についての情報がまとめられていた。
「巫女……?」
「はい」
ナーチャンは頷いた。
「聖王国において、“神の言葉”を伝える存在です」
「神の言葉ねえ」
紙には簡単な説明が書かれている。
神託は、必ずこの人物を通じて発表される。
国家の重要な判断にも影響を与える。
宗教的象徴であり、政治的象徴でもある。
「ずいぶん便利な役職だな」
「はい」
ナーチャンも否定しない。
「聖王国では、この人物の言葉が絶対的な正しさとして扱われています」
「本人が言ってるのか?」
「形式上は」
ナーチャンは少し言葉を選んだ。
「神の声を聞く、とされています」
「されています?」
「はい」
微妙な言い回しだった。
「姿を見た者は多くありません」
「引きこもりか」
「儀式の際にのみ姿を現すようです」
別の紙をめくる。
そこには、絵が描かれていた。
おそらく想像図だ。
白い衣装。
長い髪。
年若い女性。
表情は、はっきりとは描かれていない。
「若いな」
「はい」
「この人物が言ったことが、全部“神の言葉”になるのか」
「はい」
「責任重すぎだろ」
「はい」
ナーチャンは静かに頷いた。
「神託の内容は、国内政策だけでなく、対外関係にも影響を与えます」
「外交まで?」
「はい」
ユージは椅子にもたれた。
「つまり」
「はい」
「その巫女が何か言えば、国が動く?」
「その通りです」
「便利すぎない?」
「はい」
ナーチャンも同じ感想だった。
「さらに興味深い点があります」
「まだあるのか」
「はい」
ナーチャンは別の紙を差し出した。
「最近発表された神託の一部です」
短い文章だった。
『人は導きを必要としています』
『迷いは、人を誤らせます』
『正しい道は、すでに示されています』
「……」
ユージは黙って読んだ。
「それっぽいな」
「はい」
「それっぽすぎる」
もう一枚。
『人の未来を、心なきものに委ねてはなりません』
見覚えのある文だった。
「これか」
「はい」
「つまり」
ユージは紙を机に戻した。
「この巫女が言ったことになってるのか」
「はい」
しばらく沈黙が続く。
「なあ」
「はい」
「神様って、そんな頻繁に喋るもんなのか?」
「聞いたことはありません」
「だよな」
ユージは軽く頭をかいた。
「なんかさ」
「はい」
「設定として便利すぎない?」
「設定?」
「物語的に」
「……」
ナーチャンは少し考えた。
「否定はできません」
「だいたいこういうのって」
ユージはぼんやり言った。
「裏で偉い人が調整してるんだよな」
「調整?」
「言わせたいこと言わせるやつ」
「アニメとかでよくある」
ナーチャンは何も言わなかった。
だが、
完全に否定もできなかった。
「まあ」
ユージは肩をすくめた。
「まだ分からんけど」
窓の外では、いつも通り人々が働いている。
平和な光景。
穏やかな日常。
だが、
遠くの国では、
“正しさ”が作られている。
そしてそれが、
少しずつ、
こちらに届き始めていた。




