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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第64話 繋がり始めた線

 頭が痛い。


 というか、割れそうだ。


 ついでに、少し気持ち悪い。


 世界がゆっくり回っている気がする。


 いや、回っているのは昨日の酒だ。


「飲みすぎです」


 ナーチャンの声が、やけに鮮明に響いた。


「反省してる……もう酒はやめた……」


 ユージは机に突っ伏したまま答える。


「昨日も同じことを言っていました」


「昨日は昨日だ……今日は新しい反省の日だ……」


「反省の質が低すぎます」


「どうぞ」


 冷たい言葉と共に、湯気ののぼるお椀が机の上に置かれる。


「お、シジミの味噌汁じゃないか!」


 ユージは一気に飲み干した。


「ありがとう、少し生き返った……」


「以前、ユージさまが言っておられたので、再現してみました」


「さすがナーチャン、出来る女は違うね」


「あからさまにおだてても無駄です」


「サーセン……」


 平和な国というのは、こういう問題が増える。


 戦争の時は、酒を飲む余裕などなかった。


 今は違う。


 平和だからこそ、飲みすぎる。


 そして翌朝後悔する。


 後悔はするが、進歩はしない。


「しかしなんだな。昨日のリコちゃんは可愛かったな」


「イテッ!」


 ナーチャンの肘鉄がユージの脇腹に食い込んだ。


「それで、例の宗教の件ですが」


 ナーチャンは何事もなかったかのように仕事の話に入る。


「痛いなぁ、もう」


「昨日の時点では“違和感”でしたが、本日になっておぼろげながら“傾向”が見えてきました」


「傾向……?」


 ユージは頭を押さえながら椅子に座り直す。


 ナーチャンの机の上には、数枚の報告書が並んでいた。


「祈りの形式に共通点があります」


「形式?」


「はい。手の組み方、言葉の順序、終わり方。細部に差異はありますが、骨子が同一です」


「流行りじゃないのか?」


「流行でここまで一致することはありません」


 ナーチャンは一枚の紙を差し出した。


 そこには、いくつかの文章が書き写されている。


 似ている、というより。


 ほぼ同じだった。


「複数地点で確認されています」


「そんなに広がってるのか」


「はい。まだ小規模ですが、増加速度が異常です」


 ユージは紙を眺める。


 文字が多いと頭が痛くなる。


 すでに痛いが。


「昨日の白装束の男だけではありません」


 ナーチャンは続けた。


「似た人物が、各地で確認されています」


「似た?」


「同様の服装、同様の話し方、同様の祈り」


「コピペか?」


「こぴぺ、とは?」


「同じものをそのまま使い回すことだ」


「……近い概念です」


 ナーチャンは少し考えてから頷いた。


「さらに」


 別の報告書を取り出す。


「それらの人物の多くが、西方から来ています」


「西……」


 頭の中で、昨夜の会話がぼんやり浮かぶ。


 聖王国。


 リコの言葉。


 “息がしやすい場所じゃなかった”。


「偶然にしては偏りすぎています」


 ナーチャンは淡々と言った。


「自然発生した信仰が、短期間で同じ形を取りながら広がる。さらに、その起点が同一地域に集中している」


「つまり?」


「意図的に持ち込まれている可能性があります」


「宗教を?」


「はい」


 ユージは椅子の背にもたれた。


 頭はまだ少し重い。


 だが、話の流れはなんとなく理解できる。


「宗教って、そんな簡単に広まるもんなのか?」


「通常は、時間がかかります」


 ナーチャンは即答した。


「価値観、文化、生活習慣。それらと結びつきながら定着していくものです」


「一週間で広がるもんじゃない?」


「はい」


 断言だった。


「……ふーん」


 ユージはぼんやり天井を見る。


「なんかテンプレっぽいな」


「てんぷれ?」


「こういうのってさ」


 頭の奥で、昔見たアニメや漫画の記憶がゆっくり動く。


「だいたい裏で偉いやつが指示出してるんだよ」


「指示?」


「信者増やすと得する人がいるとかさ。アニメとかだとよくある」


 ナーチャンの手が止まった。


「……なるほど」


「いや、知らんけど」


「ハミータさんからも報告が届いています」


 ナーチャンは新しい紙を取り出した。


「白装束の人物は、旅人として各地に入り込んでいます」


「普通の旅人じゃないのか」


「はい。接触した住民の証言によると」


 紙を読み上げる。


「“話を聞いていると、なぜか安心する”」


「“言葉は覚えていないが、祈り方だけは覚えている”」


「“正しいことをしている気分になる”」


「洗脳っぽいな」


「断定はできませんが、誘導の可能性はあります」


 ナーチャンは紙を机に置いた。


「さらに興味深い点があります」


「まだあるのか……」


「彼らは布教という言葉を使いません」


「じゃあ何て言ってるんだ」


「“伝えているだけ”だそうです」


「何を?」


 ナーチャンは一瞬だけ言葉を選んだ。


「“神の言葉を”」


 少しだけ、部屋の空気が静かになる。


「神様ねえ」


 ユージはぼんやり呟いた。


「神様って、そんな営業みたいなことするのか?」


「聞いたことはありません」


「だよな」


 しばらく沈黙が続く。


 ナーチャンは資料を整理しながら言った。


「まだ断定はできません。ただ、放置していい問題ではなさそうです」


「先方の目的も今のところ不明ですからね」


「まあな。いずれにせよ、広まりすぎると面倒そうだな」


 ユージは頭を軽く振った。


 少しだけ、酒が抜けてきた気がする。


「宗教って揉め事の原因になりやすいし」


「はい」


「せっかく戦争が終わったのに、また揉めるのは嫌だな」


「同感です」


 ナーチャンは小さく頷いた。


「引き続き調査を進めます」


「頼む」


 ユージは立ち上がった。


 まだ少しふらつく。


「今日は飲まない方がいいですよ」


「善処する」


「信用できません」


「俺もだ」


 窓の外では、今日も人々が忙しそうに働いている。


 畑。


 市場。


 建設現場。


 すべては、平和の中にある。


 だからこそ、


 小さな変化が目につく。


「……なんかさ」


「はい」


「こういうのって」


 ユージは少し考えて、


「気づいた時には、もう広がってるんだよな」


 理由は分からない。


 経験があるわけでもない。


 ただ、なんとなくそう思った。


「だからまあ、今のうちに気づけたならマシってことだろ」


 楽観的なのか。


 無責任なのか。


 判断は難しい。


 だが、


 違和感は、確かに存在していた。


 まだ小さい。


 まだ曖昧だ。


 しかし、


 それは確実に、


 形を持ち始めていた。


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