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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第62話  静かな祈り

 その人垣は、騒がしくはなかった。


 しかしそれが、逆に目立っていた。


 ユージは少しだけ眉をひそめる。


「あれか……」


「……もう少し近くに行ってみるか?」


「いえ、ここから見ましょう」


 ナーチャンの判断は早かった。


 不用意に近づかない。


 あれは、ただの見世物ではない。


 下手に近寄ると、かえって実態が見えなくなる可能性がある。


 人々は静かに集まり、静かに耳を傾けていた。


 その人垣の中央には、白装束の男が一人立っていた。


 何を言っているのかは、ここからでは聞き取れない。


 結構な人数が集まっている。


 男は、大声を出している訳ではない。


 だが、その言葉には不思議と人を引き留める何かがありそうだった。


「……なんだあれ」


 ユージが呟く。


「変ですね。皆、何かに取りつかれたような目をしています」


 ナーチャンが静かに答えた。


 その時だった。


 白装束の男が、ゆっくりと胸の前で手を組んだ。


 祈るように。


 すると、一番前で熱心に聞き入っていた男が、同じように手を組んだ。


 そしてもう一人。


 さらにもう一人。


 同じ動きが、少しずつ広がっていく。


「……おい」


 ユージの声が低くなる。


 命令された様子はない。


 合図もない。


 それなのに、


 同じ動きが、波のように連なっていく。


「……気持ち悪っ」


 思ったまま口に出た。


 ナーチャンは答えない。


 ただ、じっと観察している。


「ナーチャン」


「……はい」


「これ、普通じゃないよな?」


「はい。明らかに不自然です」


 その声は冷静だが、わずかに緊張を含んでいる。


 人々は祈っている。


 だが、熱狂ではない。


 穏やかすぎる。


 あまりにも、整いすぎている。


 やがて、男の話が終わったのか、人垣がゆっくり解けていく。


 人々はそれぞれの持ち場へ戻っていく。


 笑いも、騒ぎもない。


 ただ、何事もなかったかのように。


「……なんだったんだ、あれ?」


 ユージが呟く。


「分かりません」


 ナーチャンは短く答えた。


「ですが——」


 言いかけて、止める。


「……いえ。まだ材料が足りません」


「調べるか?」


「はい。ハミータさんに依頼してあります」


 カセーフ・ハミータ。


 神楽耶のもとで諜報活動を担っている潜入捜査の専門家だ。


 日常に溶け込みながら情報を集めることを得意としている。


「そうだな」


 ユージは軽く頷く。


 だが、視線はまだ人垣のあった場所に向いていた。


 もう誰もいない。


 ただの広場に戻っている。


 それなのに、


 そこだけ空気が違うような気がした。


「……なんかさ」


「はい」


「うまく言えないけど」


 ユージは少し考えて、


「なんか嫌な予感がするな」


 理由は分からない。


 理屈も浮かばない。


 だが——


 違和感だけが残った。


 ユージは一拍おいてから言った。


「間違いなく、このあと事件が起きるぞ」


「これは、ラノベでよくある伏線ってやつだ」


「らのべ? なんでしょうか」


 何が起きているのかは、まだ分からない。


 何が広がっているのかも分からない。


 ただ一つ確かなのは、


 得体の知れない何かが、しかし確実に、


 この国の中に入り込んでいるということだった。


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