表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/92

第61話  平和になったはずの国で

※ここから第二部です。


第一部を読んでくださった方、本当にありがとうございました。

そして、引き続き読んでくださる方、よろしくお願いします。


戦争が終わった世界で、今度は「信じるもの」の話になります。

 ユージア国は、今日も平和だった。


 城壁の外まで広がる畑は青く、収穫の手は止まらない。道には荷車が行き交い、積まれているのは武器ではなく、穀物と酒と日用品だ。


 広場では、人間も魔族も獣人も、同じ屋台の前に並んでいる。


「はいはーい! 本日の特別興行! ホワイトタイガーと綱引き体験会だ! 命の保証はしない!」


「戦闘機と綱引きなんかすんな!」


 サトータのツッコミに笑いが起きる。


「いや、元ネタの虎の方だから安心だぜ!」


「虎も危な過ぎるだろ!」


「こいつは普段は大人しいから大丈夫だって!」


 綱の向こうで、巨大なホワイトタイガーが面倒くさそうに欠伸をした。


 その牙は鋭く、まったく大丈夫じゃなさそうだった。


 しかし子供たちは、なぜか大喜びで列を作っている。


「平和だなあ……」


 広場の端、木椅子に座ったユージは茶をすすりながら呟いた。


「あなたが平和をもたらしたのです」


 隣のナーチャンが即答する。


「いや、俺はそんなことしてないさ」


「しました」


「勝手にそうなっただけだろ」


「いえ、勝手に起きる規模の変化ではありません。いい加減に自覚してください」


「自覚って言われてもなぁ……」


 いつものやり取りだった。


 中央広場は、今日も賑やかだ。魔族の青年が焼いた串肉を人間の娘が売り、獣人の老婆が香草茶を配る。路上ライブの歌に、子供たちが適当に合いの手を入れていた。


 昔なら考えられない光景だ。


「前はここで普通に争ってたんだよな」


「ええ。もう、遠い出来事のように感じている人も多いでしょう。少なくとも、“昨日のこと”としては扱われていません」


「そりゃいいことだ」


 ユージは肩をすくめる。


 戦争は終わった。王国と魔王国は手を引き、ユージア国はその間で静かに回っている。


 誰かが支配しているわけでもない。


 ただ、うまく回っている。


 それで十分だった。


「おーい、リーダー!」


 タケシトが妙な色の綿菓子を持って駆けてくる。


「新作だ! 虹色魔力綿あめ! 舌が七色になって楽しいぞ!」


「いらん」


「即答!?」


「七色の舌なんて、怖過ぎるだろ!」


 タケシトはチッと舌打ちしたが、すぐに別の客に売り込みに行った。


「……で、なんか用だったか?」


 ユージが聞くと、ナーチャンはほんの一瞬だけ言葉を選んだ。


「最近、国民の間に宗教が広まっているらしいです」


「宗教?」


 ユージは気の抜けた声を出す。


「まあ、人は何かに縋って生きた方が楽だからな。どこの世界でもそうだろ」


「ええ、それ自体は問題ありません」


「じゃあいいじゃん」


「問題は、その“速さ”です」


 一拍。


「ここ一週間で、目に見えて増えています」


「へえ」


「ユージア国は多種族国家です。特定の宗教が一気に浸透する土壌ではありません」


「まあ、寄せ集めだからな」


「はい。だからこそ、少し不自然です」


 ナーチャンは広場を見た。


 そこには何の変哲もない日常が広がっている。


 笑い声。食べ物の匂い。子供の喧嘩。


 何もおかしくない。


 ——だからこそ、少しだけ引っかかる。


「流行りじゃね?」


「その可能性もあります」


 ナーチャンはそう言いながら、わずかに視線を逸らした。


「ただ……いえ、まだ断定はできません」


「ふーん」


 ユージはそれ以上深く考えなかった。


「ちょっとハミータさんに調べてもらいます」


「そうだな」


 会話はそこで途切れる。


 広場は変わらず賑やかだ。


 誰もが、自分のやることに忙しい。


 ——その時だった。


 広場の一角に、小さな人だかりができているのに気づいた。


 騒がしくもなく、ただ静かに人が集まっている。


「なんだ、あれ」


 ユージが目を細める。


 ナーチャンは、すぐには答えなかった。


 ただ、その光景をじっと見ている。


「……分かりません」


 その声は、わずかに硬い。


 人々は、何かを聞いている。


 そして、静かに頷いている。


 理由は分からない。


 だが——


 妙に、気になる。


「……まあ」


 ユージは肩をすくめる。


「そのうち分かるだろ」


 そう言って視線を外す。


 だが、ほんの少しだけ引っかかりが残った。


 それが何なのかは、分からない。


 ただ——


 平和なはずのこの国に、


 何かが入り込んできている気がした。


 やっと手に入れた平和は、続いている。


 少なくとも、表面上は。


第二部スタートです。


今回は「宗教」「正しさ」「構造」をテーマにしつつ、

いつも通りユージはだいたい何もしていません。


しばらくは違和感の積み上げになりますが、

少しずつ全体像が見えてくると思います。


引き続き、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ