番外編:ナーチャンの独り言――あの日のこと
※第一部ラスト直後、ナーチャン視点の番外編です。
……やってしまった。
ベッドの上で、ナーチャンは枕に顔を押しつけたまま、足をばたつかせる。
どうしよう。
あれ、どう考えても――バレてるよね?
帰還に失敗した、あの瞬間。
ユージは、ほんの一瞬だけ、ほっとした顔をした。
そして。
こちらを見た。
あの視線。
――絶対、気づいてる。
……いや、でも。
あれだけで断定するのは――
無理がある?
いや、でも、どう考えても……。
……。
布団の上で一回転して、それでも顔は枕に埋めたまま、もう一度足をばたつかせる。
気づいてた?
全部?
あの細工も?
それで、何も言わないで――そのまま残った?
……そんなの。
ずるい。
こっちは、ちゃんと覚悟してたのに。
嫌われてもいいって。
全部バレてもいいって。
……それでも、引き留めるって決めたのに。
一世一代の思い切りだったのに。
なのに、あの人は。
何も知らないみたいな顔して、
いつも通りに、そこにいる。
……。
――もしかして。
私の想いも、分かってる?
そこまで考えて、
ナーチャンは勢いよく布団に潜り込んだ。
無理。
無理無理無理。
それは、無理。
心臓がもたない。
……気づいてない。たぶん。きっと。
……たぶん。
……。
そのまま悶々としているうちに、夜が明けた。
⸻
翌朝。
「おはようございます」
「おはよう」
いつも通りの挨拶。
いつも通りの声。
いつも通りの顔。
――本当に、何も変わらない。
ナーチャンは、わずかに息を吐いた。
……ずるい。
そう思いながら、ユージの前に立つ。
「ユージさま、今日も予定が詰まっています」
「えーっ、今日も?」
「昨日も会議やパーティーやらで大変だったじゃないか」
「少しはゆっくりさせてくれよ」
「何を言っておられるのですか」
「働いて働いて働いてください」
「どっかの総理大臣じゃないんだから、勘弁してくれ」
「いえ、あなたに休む暇なんかありませんよ」
そう言うナーチャンの口元には、
ほんのわずかに、柔らかい笑みが浮かんでいた。
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
この物語の続きは――もうすぐ始まります。
引き続き、よろしくお願いします。




