第193話 帰還報告~ネバランド帝国編③
「俺がやったことって」
ジンは。
ユージを見る。
「本当に、正しかったんでしょうか?」
「…………」
ユージは。
しばらく何も答えなかった。
目の前には。
大量に積み上げられた物。
壊れた家具。
古い服。
鍋。
食器。
玩具。
その中には。
まだ十分使えそうな物もある。
「正しいか間違ってるかなんて」
ようやく。
ユージが口を開いた。
「どこかの誰かが決めることだ」
「…………」
「お前には関係ない」
「え?」
ジンが顔を上げる。
「ただな」
ユージは。
足元に落ちていた鍋を拾った。
少し汚れている。
だが。
まだ使える。
「具合が悪いと思ったら、直せばいいじゃねえか」
「…………」
「違う?」
「でも……」
ジンは俯いた。
「俺、どうしたらいいか分からなくて」
「うん」
「人々は豊かになりました」
「うん」
「仕事も増えたし」
「欲しいものも買えるようになった」
「うん」
「もう、昔の暮らしに戻るなんて、誰も考えられないと思います」
「そうだろうな」
ユージも。
それは分かる。
便利になった生活を。
わざわざ不便な生活へ戻したいと思う人間など。
そうはいない。
「でも」
ジンは。
ユージが持っている鍋を見る。
「まだ使えるものを、捨てていいのかなって」
「…………」
「新しいものを作って」
「買って」
「古くなったら捨てて」
「また、新しいものを買う」
「…………」
「それが本当の豊かさなのかなって思ったら……」
ジンは首を振った。
「分からなくなって」
「そうだな」
ユージは。
手にしていた鍋を見る。
「やっぱり、物は大切にしなきゃなんない」
「それは確かだ」
「…………」
「俺がいた世界でもさ」
「はい?」
「同じ問題が起きてたんだ」
「えっ!」
ジンが顔を上げる。
「ユージさんの世界でも?」
「ああ」
「それじゃ」
ジンが身を乗り出した。
「ユージさんの世界は、今どうなってるの?」
「そうだなあ」
ユージは頭を掻いた。
どう説明したものか。
少し考える。
「大量生産、大量消費の社会から」
一度。
言葉を切った。
「循環型社会に変わろうとしている」
「じゅんかんがた……?」
「循環型社会」
「なんですか、それ?」
「簡単に言えば」
ユージは。
手にした鍋を持ち上げた。
「作って、使って、捨てる」
「それだけじゃなくて」
「できるだけ長く使う」
「壊れたら直す」
「まだ使えるものなら、他の人に使ってもらう」
「それでも使えなくなったら」
鍋を軽く叩く。
「使える材料を取り出して、また別の物を作る」
「なるほど……」
ジンが頷く。
「物を、ぐるぐる回すんですね」
「まあ、そんな感じ」
「すごい!」
ジンの顔が。
少しだけ明るくなった。
「じゃあ!」
「ん?」
「ユージさんの世界では、問題は解決したんですね!」
「いや」
ユージは即答した。
「そんな簡単な話じゃないんだ」
「え?」
「全部が全部、再利用できるわけじゃない」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ」
ユージは。
目の前に積み上げられた物を見る。
木。
鉄。
布。
陶器。
様々な物が混ざっている。
「物によって、処理の仕方も違う」
「分けなきゃなんないし」
「再利用するにも、金がかかる」
「人も必要だ」
「それに」
少し考える。
「再利用するために、別の資源やエネルギーを使うことだってある」
「…………」
「だから」
ユージは笑った。
「俺の世界だって、まだ途中だよ」
「途中……」
「ああ」
「いろんな人が」
「いろんな方法を考えてる」
「それでも」
「全部の問題が解決したわけじゃない」
「…………」
ジンは。
再び俯いた。
「じゃあ……」
小さな声で。
「どうすればいいんでしょう」
「さあな」
「え?」
「俺にだって分かんねえよ」
「ユージさんにも?」
「当たり前だろ」
ユージは笑った。
「俺は神様でも、未来から来た猫型ロボットでもないんだぞ」
「猫型……ロボット?」
「…………」
ジンが首を傾げる。
「なんですか、それ?」
「いや」
ユージは首を振った。
「忘れてくれ」
「はあ……」
「とにかく」
ユージは頭を掻いた。
「俺は、ただの産廃屋のおっさんだ」
「でも!」
ジンが顔を上げる。
「ユージさんが分からないなら、俺たちには……」
「だからさ」
ユージは。
ジンの言葉を遮った。
「次は、それを実現できるように」
笑う。
「みんなで力を合わせようや」
「みんなで……?」
「ああ」
ユージは頷いた。
「俺たちには、めちゃくちゃ優秀で頼もしくて、気のいい仲間たちがたくさんいるじゃないか」
「でも……」
ジンは少し考えた。
「ガイルも、リリスも、セシルも優秀ですけど」
「うん」
「さすがに、あいつらにも手に余るかなって思って……」
「何言ってるんだ!」
「え?」
「リシュンも、ナーチャンも、神楽耶も、アルノルトもいるんだぜ」
「…………」
「それにさ」
ユージは。
にやりと笑った。
「なんたって、皇帝に魔王までいるんだぞ」
「…………」
ジンが目を丸くする。
そして。
「ふふっ」
小さく笑った。
「なんだよ」
「いえ」
ジンは笑いながら。
首を振る。
「改めて考えると、本当にすごい仲間ですよね」
「だろ?」
ユージも笑った。
「技術が必要なら、技術が分かる奴に頼めばいい」
「国を動かす必要があるなら、国を動かせる奴に頼めばいい」
「俺たちだけじゃどうにもならないなら、みんな巻き込んじまえばいいんだよ」
「…………」
「あいつらを巻き込めば、不可能なんてことはないさ」
「……はい!」
ジンが。
大きく頷いた。
その顔から。
ずっと抱えていた迷いが。
少しだけ消えていた。
◇ ◇ ◇
帰り道。
二人は。
再び賑やかな街を歩いていた。
「ユージさん」
「ん?」
「俺、もう一度考えてみます」
「何を?」
「どうすれば」
ジンは。
街を見回した。
「豊かになった暮らしを捨てないで」
「物も大切にできるのか」
「そっか」
「はい」
ユージは笑った。
「市場の声を聞くんだろ?」
「え?」
「困ってる人がいる」
「だったら、何に困ってるのか聞いてみればいいじゃん」
「…………」
ジンが。
目を見開く。
そして。
笑った。
「はい!」
かつて。
鍋を売ることができず。
市場で立ち尽くしていた少年に。
ユージは言った。
市場の声を聞け。
人が何に困っているのか。
何を欲しがっているのか。
そこから。
すべてが始まる。
「やっぱり」
ジンが呟いた。
「ユージさんに会えて良かった」
「そう?」
「はい!」
「そりゃ良かった」
ユージは笑う。
その横で。
ジンも笑っていた。
だが。
ユージはまだ知らなかった。
ジンが見せてくれた。
大量の廃棄物。
それは。
この世界で起き始めている問題の。
ほんの一つに過ぎなかった。




