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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第四部 環境対策編

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第192話 帰還報告~ネバランド帝国編②

「ユージさん!」


部屋へ入った瞬間。


懐かしい声が聞こえた。


「おう」


ユージは片手を上げる。


「久しぶり、ジン」


「本当にユージさんだ!」


ジンが駆け寄ってくる。


「本当に帰ってきたんですね!」


「ああ」


「良かったぁ……」


満面の笑みだった。


第一学校で学んでいた頃より。


少し背が伸びただろうか。


服装も変わっている。


以前は。


どこにでもいる少年だった。


今は。


それなりに上等な服を着ている。


「なんか、偉そうになったな」


「えっ?」


「服」


「ああ、これですか」


ジンが苦笑する。


「皇帝陛下が、もう少しまともな格好をしろって」


「ペーターが?」


「はい」


「あいつにに言われたくねえよな」


「ユージさん!」


「ははは」


一年ぶり。


とはいえ。


ユージにとっては。


一か月ほど前まで一緒にいた生徒である。


あまり久しぶりという感じもしない。


それでも。


元気そうな顔を見れば。


やはり嬉しい。


「街、見てきたよ」


「え?」


「すげえじゃん」


「…………」


ジンの表情が。


ほんの少しだけ変わった。


だが。


ユージは気付かない。


「店も増えてたし、商品もいっぱいあった」


「はい」


「鉄道も港も、すげえことになってたぞ」


「はい」


「ペーターも喜んでた」


「……そうですね」


「税収も増えたって、自慢してたぞ」


「はい」


ユージは笑った。


そして。


ジンの肩を叩いた。


「よくやったな」


「…………」


「俺の教えたこと、ちゃんと使ってんじゃん」


「…………」


「ジン?」


少年は。


俯いていた。


「どうした?」


「ユージさん」


「ん?」


ゆっくり。


顔を上げる。


「……本当に、そう思いますか?」


「何が?」


「俺」


ジンは少し迷ってから。


口を開いた。


「ユージさんに、見てもらいたいものがあります」


◇ ◇ ◇


二人は。


帝城を出た。


ナーチャンたちには残ってもらった。


久しぶりに。


先生と生徒。


二人だけで歩く。


「どこ行くんだ?」


「少し遠いです」


「そうなの?」


「はい」


「馬車使う?」


「いえ」


ジンは首を振った。


「歩いて行きたいんです」


「そっか」


それ以上。


ユージは聞かなかった。


街を歩く。


相変わらず。


活気に満ちていた。


「新しい靴だよ!」


「こっちの服、今日だけ安いよ!」


「新しい鍋が入ったぞ!」


商人の声。


客の声。


子供たちの笑い声。


一軒の店から。


女性が出てきた。


両手には。


いくつもの荷物。


その隣では。


子供が新しい玩具を抱えている。


「いい街になったな」


ユージが言う。


「……はい」


ジンが答える。


「前より、みんな豊かになりました」


「だろうな」


「欲しいものが買えるようになった」


「うん」


「仕事も増えました」


「うん」


「給料も上がった」


「いいことじゃん」


「はい」


ジンは。


それ以上何も言わなかった。


しばらく歩く。


中心街を抜け。


人通りが少なくなる。


さらに。


歩く。


やがて。


建物も少なくなった。


「まだ?」


「もう少しです」


「結構歩くな」


「すみません」


「いいよ」


そして。


街外れまで来たところで。


ジンが立ち止まった。


「ここです」


「ん?」


ユージは。


ジンの視線の先を見る。


「…………」


そこには。


山があった。


いや。


山ではない。


壊れた家具。


穴の開いた鍋。


欠けた食器。


古い服。


木箱。


樽。


玩具。


そして。


まだ使えそうな物まで。


様々な物が。


大量に積み上げられていた。


「……ゴミか?」


「はい」


ユージの顔から。


笑みが消えた。


「これ、全部?」


「はい」


「いつから?」


「少し前からです」


「…………」


ユージは近づく。


一つの鍋を手に取った。


少し焦げている。


だが。


穴が開いているわけでもない。


取っ手も付いている。


「これ」


「はい」


「まだ使えるじゃん」


「そうなんです」


ジンが。


小さく答えた。


「新しい鍋が売られると、古い鍋を捨てる人が出てきました」


「…………」


「もっと軽いもの」


「もっと使いやすいもの」


「もっときれいなもの」


「もっと便利なもの」


「そういう商品を、俺たちは作りました」


ユージは黙って聞く。


「市場の声を聞け」


ジンが呟いた。


「ユージさんに教えてもらった通りです」


「人が何に困っているのか」


「何を欲しがっているのか」


「それを調べました」


「そして」


積み上げられた物を見る。


「欲しがっているものを作りました」


「売れました」


「すごく売れたんです」


「だから、もっと作りました」


「他の商人も真似しました」


「もっと便利なものを作った」


「もっと安いものを作った」


「もっときれいなものを作った」


「そうしたら」


ジンは。


目の前の山を見た。


「こうなりました」


「…………」


風が吹いた。


古い布が。


ぱたぱたと音を立てる。


「最初は」


ジンが続ける。


「いいことだと思ってたんです」


「帝国は豊かになりました」


「商人は儲かった」


「職人の仕事も増えた」


「働く人の給料も上がった」


「みんなが、前よりたくさん物を買えるようになった」


「皇帝陛下も喜んでくれました」


「…………」


「俺も」


少しだけ。


声が震えた。


「成功したと思ってました」


ユージは。


何も言わない。


「でも」


ジンは俯いた。


「学校で、愛ちゃん先生に教わったことを思い出したんです」


「愛ちゃん?」


「はい」


「市場は、人を豊かにする」


「でも」


ジンは。


ゆっくりと言葉を選んだ。


「一人ひとりにとって正しいことでも」


「みんなが同じことをすれば、社会全体にとって悪い結果になることがあるって」


「…………」


ユージは。


積み上げられた物を見る。


王国で見た。


製鉄所の煙。


魔王国で見た。


削られた山。


舞い上がる石炭の粉。


聖王国で。


セシルから聞いた。


変わり始めた雨の降り方。


そして。


目の前にある。


大量の廃棄物。


「ユージさん」


ジンが。


ユージを見る。


「俺」


その顔は。


第一学校で答えを求めていた頃の。


少年の顔に戻っていた。


「ずっと、聞きたかったんです」


「うん」


「帝国のためにやりました」


「うん」


「みんなに、豊かになってほしかった」


「うん」


「でも……」


ジンは。


もう一度。


ゴミの山を見た。


「俺がやったことって」


そして。


ユージを見る。


「本当に、正しかったんでしょうか?」

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