第188話 帰還報告~魔王国編 ③
◇ ◇ ◇
その後。
ユージたちは鉄道に乗り、魔王国最大の石炭鉱山へ向かった。
ガタン。
ゴトン。
ガタン。
ゴトン。
「おお……」
ユージは窓の外を眺める。
「こうして乗ってみると、ちゃんと汽車だな」
「リシュン様が聞いたら怒ると思います」
「なんで?」
「ちゃんと作ったのに、と」
「ああ」
確かに。
言いそうだ。
ユージは笑った。
窓の外を景色が流れていく。
「でも、便利だな」
「はい」
リリスが頷く。
「荷馬車とは、一度に運べる量が違います」
「速いしな」
「はい」
「これだけ線路があれば、物の流れが変わるわ」
「実際、変わりました」
リリスが答えた。
「以前は、掘っても運べないことがありましたから」
「石炭を?」
「はい」
「今は?」
「掘った分だけ運べます」
「なるほどねえ」
ユージは感心して頷いた。
そして。
列車は鉱山へ到着した。
◇ ◇ ◇
「……すげえな」
山が。
削られていた。
以前は木々に覆われていたはずの斜面。
そこに。
巨大な採掘場が広がっている。
多くの人間が働き。
掘り出された石炭が次々と運ばれていく。
ガラガラガラ――。
石炭が貨車へ落とされる。
黒い粉塵が舞った。
「ゴホッ」
ユージが咳き込む。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
手で口元を覆う。
「すげえ埃だな」
周囲を見る。
作業員たちの顔は黒い。
服も黒い。
鼻や口元を布で覆っている者もいる。
それでも。
作業は止まらない。
掘る。
運ぶ。
積む。
そして。
列車が運び出す。
「ずいぶん採掘量が増えたんだな」
「はい」
リリスが答える。
「鉄道を整備してから、かなり増えました」
「運べるようになったから?」
「それもあります」
リリスは頷いた。
「それ以上に、各国からの需要が増えています」
「鉄を作るから?」
「それだけではありません」
指を折る。
「製鉄所」
「発電所」
「工場」
そして。
少し離れたところに停まっている蒸気機関車を見る。
「鉄道にも石炭が必要です」
「ああ……」
ユージは頷いた。
そして。
少し考えた。
「汽車を走らせるためにも石炭がいる」
「はい」
「その石炭を大量に運ぶために、汽車を走らせる」
「はい」
「で、たくさん運べるから、もっと石炭を使えるようになる」
「はい」
「…………」
ユージは鉱山を見渡した。
次々と掘り出される石炭。
舞い上がる黒い粉塵。
ひっきりなしに出入りする貨物列車。
以前なら。
掘っても運べなかった。
だから。
掘る量にも限界があった。
今は違う。
掘れば運べる。
運べば売れる。
売れるから。
また掘る。
「まあ……」
ユージは頭を掻いた。
「それだけ世の中が便利になったってことか」
「はい」
リリスは嬉しそうに頷いた。
ユージも笑った。
だが。
ふと。
山の向こうへ目をやる。
「あれ?」
「どうされました?」
「いや……」
目を細める。
「この辺って、もっと木がなかったっけ?」
「ありました」
リリスは普通に答えた。
「鉄道の敷設と、採掘場の拡張で伐採しました」
「ああ」
「今後、さらに採掘場を広げる予定です」
「そっか」
ユージはもう一度。
山を見た。
緑の中に。
大きく抉られた茶色い山肌。
その手前では。
黒い粉塵が舞っている。
遠くでは。
蒸気機関車が黒い煙を吐きながら走っていた。
昨日見た。
王国の製鉄所。
何本もの煙突。
そして今日。
魔王国の鉄道。
石炭。
鉱山。
「…………」
何かが。
ほんの少しだけ引っ掛かった。
しかし。
「ユージ様!」
ロクローマルの大声で、思考が途切れた。
「なんだよ」
「次は鉄鉱石の採掘場をご覧になりますか!」
「まだあるの?」
「もちろんです!」
「元気だなあ、お前」
ユージは苦笑した。
そして。
もう一度だけ、振り返る。
黒い煙を吐きながら。
長い貨物列車が走っていく。
便利になった。
豊かになった。
それは。
間違いない。
だから、この時のユージは。
胸の奥に引っ掛かった小さな違和感が何なのか。
まだ、分かっていなかった。




