第187話 帰還報告~魔王国編 ②
魔王国中央駅。
そこへ到着したユージは。
しばらく言葉を失った。
「……すげえな」
大きな屋根。
何本にも分かれた線路。
荷物を積み下ろす作業員。
巨大な倉庫。
そして。
シュウウウウウ――。
白い蒸気を吐きながら、一台の蒸気機関車がホームへ入ってくる。
見覚えはある。
リシュンが作った蒸気機関車だ。
だが。
使い方がまるで違った。
何十両もの貨車を引いている。
貨車には。
鉄鉱石。
石炭。
木材。
食料。
様々な物資が満載されていた。
「リシュンの汽車を、こんな使い方してんのか」
「はい」
リリスが頷く。
「鉄道そのものを作ったのはリシュン様です」
そして。
駅の向こうに掲げられた巨大な地図を指差した。
「ですが、これをどう使えば魔王国全体を効率よく動かせるのか。それは私たちで考えました」
「なるほどねえ」
ユージは地図を見る。
そこには。
魔王国中に張り巡らされた線があった。
「以前は、ほとんどの物資を荷馬車で運んでいました」
「そうだったな」
「ですが、それでは一度に運べる量が少ない」
「うん」
「時間もかかります」
「うん」
「しかも、荷物を届けたあとの荷馬車は、空のまま戻ってくることが多かったんです」
「もったいないな」
「はい」
リリスが頷く。
「ですから、やめました」
「うん……え?」
ユージが振り返る。
「何を?」
「長距離の荷馬車輸送をです」
「そっち!?」
リリスは平然としている。
「すべてではありません。短距離輸送には今も使っています」
「ああ、そういうことね」
「長距離、大量輸送は、可能な限り鉄道へ切り替えました」
リリスは地図の一点を指差した。
「ここが最大の石炭鉱山です」
指を滑らせる。
「こちらが鉄鉱山」
さらに。
「製鉄所」
「主要都市」
「食料の集積地」
そして。
いくつもの線が集まる場所を指した。
「各国へ物資を送り出す集積地です」
「全部、線路でつないだの?」
「はい」
「一年で?」
「はい」
(……こいつ、汽車を使って物流網作っちゃったよ)
それだけではなかった。
「各地の在庫量も毎日報告させています」
「毎日?」
「はい」
「石炭がどれだけあるか」
「鉄鉱石がどれだけあるか」
「食料がどれだけあるか」
「そして、どこで何が不足しそうなのか」
リリスは淡々と説明する。
「不足してから運んだのでは遅いんです」
「まあ、そうだな」
「ですから、不足する前に送ります」
「…………」
「さらに、貨車を空のまま戻さないようにしました」
「え?」
「鉱山から製鉄所へ鉄鉱石を運んだ列車は、帰りに別の物資を積みます」
「ああ!」
ユージが手を叩いた。
「行きも帰りも使うのか」
「はい」
「そりゃ効率いいわ」
「列車の運行時刻も、生産量と出荷量に合わせています」
「そこまでやってんの?」
「はい」
ユージは地図を見た。
次に。
駅を見る。
次々と入ってくる列車。
積み下ろされる荷物。
倉庫へ運ぶ人々。
そして。
また別の貨車へ積み替えられていく。
「すげえな……」
素直に言葉が漏れた。
「リリス。これ全部、お前が考えたの?」
「皆にも手伝ってもらいました」
「それでも大したもんだよ」
「ありがとうございます」
「俺なんかより、よっぽど経営者向きじゃん」
「けいえいしゃ?」
「ああ、いや。こっちの話」
リリスは少し考えてから。
静かに言った。
「必要なものを、必要な場所へ、必要な時に、必要な量だけ運ぶ」
「うん」
「それが一番効率的ですから」
ユージは黙った。
ロクローマルが。
なぜか隣で胸を張っている。
「どうです、ユージ様!」
「なんでお前がドヤ顔なんだよ」
「我が弟子ですからな!」
「いや、これ教えたのお前じゃないだろ」
「何を仰います!」
ロクローマルはさらに胸を張った。
「リリスに強さとは何かを教えたのは、この私です!」
「最初は腕力の話しかしてませんでしたけど」
リリスが淡々と言った。
「リリス!?」
「力だけでは、国は豊かになりません」
リリスは静かに続けた。
「戦うだけが強さではないと、学校で学びました」
「…………」
「必要なものを必要な場所へ届けること」
「無駄を減らすこと」
「多くの人が動きやすい仕組みを作ること」
リリスは線路の先を見た。
「それも、強さなのだと思います」
ユージは。
しばらく何も言わなかった。
そして。
笑った。
「そっか」
「はい」
「お前も、ちゃんと自分の強さを見つけたんだな」
「…………」
リリスが僅かに目を見開く。
「はい」
今度の返事は。
少しだけ嬉しそうだった。
その隣では。
ロクローマルが目元を押さえている。
「おい」
「なんですかな?」
「泣いてる?」
「泣いておりません!」
「いや、泣いてるだろ」
「これは汗です!」
「目から?」
「ユージ様!」




