第186話 帰還報告~魔王国編①
王国への帰還報告を終えた翌日。
ユージたちは、飛行戦艦で魔王国へ向かっていた。
「次は魔王国か」
甲板の手すりにもたれながら、ユージは眼下を眺める。
「はい。アサダ様からも、ぜひお会いしたいとの連絡を頂いております」
隣に立つナーチャンが答えた。
「そりゃ、俺も会いたいよ」
魔王アサダ。
軍師サム。
そして、ロクローマル。
最初に会った頃には、まさか魔王国の連中とこんな関係になるとは思ってもいなかった。
そもそも。
勇者として召喚された人間が、魔王と仲良くなってどうする。
まあ。
勇者にはなれなかったんだけど。
「リリスも戻ってるんだよな?」
「はい。卒業後は魔王国へ戻り、国の産業基盤の整備に携わっています」
「へえ」
昨日会ったガイルの顔が浮かんだ。
あいつも立派になっていた。
リリスは、どうなっただろう。
そんなことを考えながら、ユージは再び眼下へ目を向けた。
そして。
「……ん?」
何かが動いている。
街道ではない。
まっすぐに延びた二本の線。
その上を。
黒い煙を吐きながら、何かが走っていた。
「……おい」
ユージは目を細めた。
「ちょっと待て」
シュッシュッ。
シュッシュッ。
先頭には黒い車体。
その後ろには、何台もの貨車。
「……汽車?」
思わず手すりから身を乗り出す。
「汽車じゃん!」
「危ないですよ、ユージ様」
「いや、そうじゃなくて!」
ユージは眼下を指差した。
「あれ、リシュンが作ったやつだろ?」
「はい」
「なんでこんなところ走ってんの?」
ナーチャンは、何でもないことのように答えた。
「魔王国でも導入したからですが」
「それは見れば分かるよ!」
しかも。
一台ではない。
遠くを見ると、別の線路にも貨物列車が走っている。
「……線路、めちゃくちゃ増えてない?」
「増えましたね」
「俺がいない一年で何があったんだよ」
ナーチャンが小さく笑った。
「それは、リリスから直接お聞きになった方がよろしいかと」
「またそれかよ」
どうやら。
今日も驚かされることになりそうだった。
◇ ◇ ◇
魔王城。
「ユージ様!」
ユージが広間へ入ると、アサダが駆け寄ってきた。
「本当に……」
途中で足を止める。
その顔に、安堵の色が広がった。
「本当に、お戻りになられたのですね」
「ああ」
ユージは笑った。
「ただいま」
「はい」
アサダも笑った。
「おかえりなさいませ」
その隣には、いつものようにサムが控えている。
「ご無事で何よりでした」
「サムも元気そうだな」
「おかげさまで」
「相変わらずアサダをこき使ってない?」
「逆です」
即答だった。
「え?」
「私がいなければ、陛下は三日で政務を放り出します」
「ちょっと、サム!」
アサダが慌てて振り返る。
「五日くらいは頑張れます!」
「そこじゃないだろ」
思わずユージが突っ込んだ。
笑い声が広がる。
変わっていない。
一年経っても。
この二人は、この二人だった。
「ユージ様!」
今度は。
広間の奥から、聞き覚えのある大声が響いた。
「うおっ」
ロクローマルだった。
相変わらずデカい。
身体も。
声も。
「よくぞお戻りになられた!」
「お、おう」
「このロクローマル! ユージ様のご帰還を心より――」
「師匠」
隣から静かな声が飛んだ。
「声が大きいです」
「何を言う、リリス!」
ロクローマルが振り返る。
「ユージ様のご帰還だぞ! これくらいでちょうどよい!」
「城中に聞こえています」
「それでよい!」
「よくありません」
「……お前も苦労してんな」
ユージが言うと、リリスが小さく頭を下げた。
「分かっていただけますか」
「リリス!?」
また笑い声が起きた。
◇ ◇ ◇
挨拶が一段落したところで。
ユージは早速、聞いた。
「で」
「はい?」
「汽車」
リリスが僅かに首を傾げる。
「汽車?」
「ここに来る途中で見たんだよ。リシュンが作ったやつ」
「ああ。鉄道ですね」
「そう、それ」
ユージは窓の外を指差した。
「ずいぶん増えてない?」
「はい」
「魔王国中に?」
「ほぼ全土に整備しました」
「…………」
さらっと言われた。
「誰が?」
「私が中心になって計画しました」
「お前かよ」
「はい」
リリスは平然としている。
「ちょっと見せてもらっていい?」
「もちろんです」
リリスの表情が少し明るくなった。
「ぜひ、ユージ様に見ていただきたいと思っていました」




