第184話 帰還報告~王国編①
ユージが戻ってきてから、数日。
「で、今日はどこに行くんだ?」
ユージは飛行戦艦の甲板から、眼下に広がる景色を眺めながら尋ねた。
「王国です」
隣に立つナーチャンが答える。
「ああ、やっぱり最初はそこか」
「はい。今回、ユージ様がこちらへ戻って来られたのは、マイヤン王女のお力によるものですから」
「そうだよな」
ユージも素直に頷いた。
あの王女が何度も召喚魔法を試していた。
そして。
理由は分からないが、そのうちの一回が成功した。
その結果、ユージは再びこの世界へ戻ってくることができた。
「ちゃんと礼くらい言わないとな」
「それがよろしいかと」
「俺だって、そのくらいの常識はあるよ」
「そうでしたか」
「おい」
ナーチャンが小さく笑った。
以前と変わらない。
そんなやり取りが、妙に嬉しかった。
◇ ◇ ◇
王都。
飛行戦艦が着陸すると、ユージたちはそのまま王城へ案内された。
謁見の間では、マイヤンが待っていた。
「よう」
「『よう』じゃないわよ!」
開口一番。
マイヤンに怒られた。
「一応、今日は正式な王国訪問なんだから、もう少しまともな挨拶はできないの?」
「こないだ会ったばっかじゃん」
「それとこれとは別よ!」
「はいはい」
「何よ、その返事!」
相変わらずである。
ユージは苦笑しながら頭を掻いた。
「まあ、今日はちゃんと礼を言おうと思ってさ」
「礼?」
「俺を呼び戻してくれたこと」
「…………」
一瞬。
マイヤンが黙った。
そして。
ゆっくりと胸を張った。
「ふふん」
嫌な予感がした。
「そうよ!」
びしっ。
ユージを指差す。
「私があなたを再召喚してあげたのよ! 感謝しなさい!」
「うん。ありがとう」
「…………」
マイヤンの動きが止まった。
「何だよ」
「いや……」
明らかに拍子抜けした顔をしている。
どうやら、もう少し抵抗されると思っていたらしい。
「本当に助かったよ」
ユージは素直に頭を下げた。
「もう二度とこっちには戻れないと思ってたからな」
「そ、そう?」
「ああ」
「……まあ!」
マイヤンは気を取り直すように胸を張った。
「私ほどの力を持つ者からしたら、あなたを召喚することなんて、なんてことなかったんですけどね!」
「へえ」
「私はどうでも良かったんだけど、ここにいるみんながどうしてもって言うから」
「…………」
「…………」
妙な沈黙が流れた。
「何よ?」
リシュンがぼそりと呟く。
「その割には必死だったよな」
「な、何がよ!」
タケシトも頷く。
「だよな。毎回魔力切れ起こして失敗して、何度も寝込んでたよな?」
「ちょっと!」
「俺、何回か見舞いに来たぞ」
「来なくてよかったのよ!」
神楽耶までニヤニヤしながら口を挟む。
「しかも、結局一年もかかったしの」
「それは関係ないでしょ!」
「いや、あるだろ」
リシュンが笑う。
「ホント素直じゃねえな」
「うるさい!」
マイヤンの顔が真っ赤になった。
「あ、あれは調整よ!」
「何が?」
「召喚術の精度を高めるための調整!」
「一年かけて?」
「うるさいって言ってるでしょ!」
わはははは!
笑い声が広がった。
ユージも思わず笑った。
だが。
何度も失敗した。
魔力が尽きるまで召喚術を使った。
そのたびに寝込み。
それでも。
諦めなかった。
「そっか」
「何よ」
「そんなに頑張ってくれたんだな」
「…………」
マイヤンが固まった。
「ありがとな、マイヤン」
「……っ!」
見る見る顔が赤くなる。
そして。
ぷいっ。
顔を背けた。
「だから! 私はどうでも良かったって言ってるでしょ!」
「はいはい」
「何よ、その返事!」
また笑いが起きた。
◇ ◇ ◇
王城での挨拶を終えたあと。
「せっかくだから、王都を見ていかれますか?」
ナーチャンが尋ねた。
「そうだな」
ユージは窓の外を見る。
ここへ来る途中から気になっていた。
王国も変わっている。
道路が広くなった。
建物が増えた。
荷物を運ぶ馬車も増えた。
何より。
街のあちこちで鉄製品を見かける。
「一年だもんな」
ユージは呟いた。
自分にとっては一週間。
しかし。
この世界では一年。
その一年を。
彼らは止まることなく進んできた。
「そういえば」
ユージが振り返る。
「ガイルはどうしてる?」
ナーチャンが微笑んだ。
「お会いになりますか?」
「いるの?」
「はい」
「じゃあ、会いたいな」




