↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第四部 環境対策編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
184/209

第182話 ちょっと目を離した隙に

「ただいま」


その一言を口にした瞬間だった。


「リーダー!」


タケシトが飛びついてきた。


「うおっ!」


ユージの身体が大きくよろめく。


「ちょ、待て! 酒! 酒こぼれる!」


「細けえこと気にすんな!」


「お前が持ってるんだろ!」


「そうだった!」


わはははは!


豪快な笑い声が響く。


「まったく……」


神楽耶が呆れた顔をしながら、それでも嬉しそうに笑っている。


「相変わらず騒がしい奴らじゃ」


「お前もだろ」


「なんじゃと?」


「帰って早々ケンカ売るなよ!」


いつものやり取り。


いつもの顔。


いつもの空気。


ほんの少し前まで、日本のアパートで一人、缶ビールを飲んでいたはずなのに。


まるで、ずっとここにいたような気がする。


「ユージ様」


ナーチャンが一歩前へ出た。


「お身体は大丈夫ですか?」


「ああ」


ユージは両手を広げる。


「見ての通り」


「怪我は?」


「ないない」


「体調に異変は?」


「ないって」


「本当に?」


「本当だって」


ナーチャンはユージの顔をじっと見つめる。


「……そうですか」


ようやく安心したように息を吐いた。


「よかった……」


最後の一言だけ。


声が小さかった。


「心配かけたな」


「……はい」


ナーチャンは小さく頷いた。


その目がまた少し潤んだ。


ユージは困ったように頭を掻く。


こういう時に、何と言えばいいのか分からない。


昔からそうだった。


「まあ……」


周囲を見る。


「ちゃんと帰ってきたからさ」


「はい」


ナーチャンが微笑んだ。


その時。


「ちょっと!」


甲高い声が飛んできた。


マイヤンだった。


「何を普通に再会してるのよ!」


「え?」


「え? じゃないわよ!」


マイヤンはずかずかと近づいてくる。


「誰のおかげで戻って来られたと思ってるの!」


「……お前なの?」


「そうよ!」


胸を張る。


「私が召喚したの!」


「へえ」


「へえって何よ!」


「いや、すごいじゃん」


あまりにも素直に褒められたせいか。


マイヤンの勢いが止まった。


「……そ、そう?」


「ああ」


ユージは頷く。


「ありがとうな」


「…………」


マイヤンの顔が赤くなる。


「べ、別に!」


横を向く。


「あなたのためにやったんじゃないんだから!」


「じゃあ誰のためだよ」


「うるさい!」


神楽耶が吹き出した。


「相変わらずじゃのう」


「笑わないで!」


再び笑いが起きた。


その中心で。


ユージも笑っていた。


◇ ◇ ◇


「それで?」


少し落ち着いたところで、ユージは尋ねた。


「どうやって俺を呼び戻したんだ?」


マイヤンが腕を組む。


「召喚魔法よ」


「それは見れば何となく分かる」


「何よ、その言い方」


「でも、俺を最初に召喚してから、ずっと成功してなかったんだろ?」


マイヤンの表情が少し曇る。


「そうなのよ」


「じゃあ何で今回は?」


「それが分からないから困ってるんでしょ!」


「知らないのかよ」


「知らないわよ!」


リシュンが横から入ってくる。


「そこは後で調べりゃいいだろ」


「そうだな」


「それよりリーダー」


リシュンがニヤリと笑った。


「向こうはどうだった?」


「ああ」


ユージは少し考える。


「普通だった」


「普通?」


「普通に会社行って、仕事して、酒飲んでた」


「それだけ?」


「それだけ」


「つまんねえな」


「うるせえよ」


リシュンが笑う。


「で?」


「ん?」


「どれくらいいたんだ?」


「一週間くらいかな」


「…………」


妙な沈黙が流れた。


「何だよ」


リシュンが首を傾げる。


「一週間?」


「ああ」


「七日?」


「一週間って普通、七日だろ」


リシュンはナーチャンを見る。


ナーチャンもリシュンを見る。


神楽耶。


タケシト。


マイヤン。


全員の顔から笑みが消えていた。


「……何?」


ユージが周囲を見る。


「俺、なんか変なこと言った?」


ナーチャンが恐る恐る口を開いた。


「ユージ様」


「ん?」


「こちらでは……」


一度、言葉を切る。


「ユージ様がいなくなってから、一年ほど経っています」


「…………」


今度はユージが固まった。


「え?」


「約一年です」


「…………」


周囲を見る。


誰も笑っていない。


「いやいや」


手を振る。


「だって俺、一週間だぞ?」


「はい」


「七日だぞ?」


「はい」


「そっちは一年?」


「はい」


「…………」


頭の中で計算しようとする。


やめた。


「意味分かんねえ」


「私たちにも分かりません」


ナーチャンが答える。


「異世界間では、時間の進み方そのものが異なるのかもしれません」


「そんなことある?」


「実際に起きていますから」


「……まあ、そうなんだけどさ」


そこで。


ユージは、ふと気付いた。


「待てよ」


「はい?」


「じゃあ最初は?」


全員が首を傾げる。


「俺が最初にこの世界へ来てから、日本に帰るまで」


指を折る。


「こっちじゃ四、五年くらいだったよな?」


「そうですね」


「日本じゃ一か月だった」


沈黙。


リシュンが言った。


「だいたい合ってるんじゃねえか?」


「……合ってるな」


一週間で一年。


四週間なら四年。


多少のズレはあるが、大体そんなものだ。


「なるほどなあ」


ユージは妙に納得した。


「世界によって時間の流れが違うのか」


そして。


すぐに別のことが気になった。


「じゃあ」


周囲を見回す。


「一年も、俺なしで何してたんだ?」


その瞬間。


何人かの顔が変わった。


ニヤッ。


そんな表現が一番近い。


「何だよ」


リシュンが胸を張る。


「聞きたい?」


「その顔がムカつくな」


「見た方が早いぜ」


「何を?」


タケシトまで笑っている。


「まあまあ、リーダー」


「何だよ」


「外に出てみろって」


「だから何なんだよ」


皆に押されるようにして、ユージは建物の外へ出た。


そして。


「…………」


足が止まった。


目の前に広がっていた景色は。


ユージの知っているユージア国であり。


ユージの知らないユージア国だった。


道路が広くなっている。


建物が増えている。


荷車の数も桁違いだ。


遠くでは、大きな工場らしき建物がいくつも稼働している。


水路が整備され。


倉庫が立ち並び。


人々が忙しそうに行き交っている。


「……おい」


ユージは口を開けたまま周囲を見る。


「なんだこれ」


リシュンが得意そうに笑う。


「すげえだろ?」


「いや……」


もう一度見る。


「一年だよな?」


「一年だ」


「十年じゃなくて?」


「一年だって」


「…………」


ユージは呆然とした。


自分がいなくても。


世界は止まらなかった。


それどころか。


自分がいた頃より、ずっと速く動いている。


「お前ら……」


思わず笑った。


「やるじゃん」


その一言に。


リシュンが笑う。


タケシトも笑う。


神楽耶が胸を張る。


そして。


ナーチャンは。


少しだけ誇らしそうに微笑んだ。


「お帰りになった時に」


ユージを見る。


「自慢しようと思っていました」


「十分自慢できるよ」


ユージは笑った。


「すげえよ」


本心だった。


遠く。


新しく建てられた製鉄所の煙突から、黒い煙が立ち上っていた。


一本。


二本。


三本。


さらに、その向こうにも。


ユージはそれを眺める。


「…………」


ほんの一瞬だけ。


何かが引っ掛かった。


だが。


「リーダー!」


タケシトの声が飛んでくる。


「一年ぶりの宴会だ!」


「お前、さっきから酒のことしか考えてねえだろ!」


「当たり前だ!」


笑い声が上がる。


ユージも笑った。


そして。


もう一度だけ。


遠くの煙突を見た。


黒い煙は。


今日も空へ昇り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。