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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第178話 まだ負けてない

「どこだ?」


ユージが尋ねる。


リシュンは表示された座標を確認する。


それは、かつてマイヤンの召喚魔法から抽出したものだった。


ユージがこの世界へ召喚される直前まで存在していた場所。


「リーダーが元いた世界だ」


「日本か?」


「ああ」


倉庫の中が静まり返った。


装置の回転音だけが、耳をつんざくほどの音を立てている。


「それなら、俺は日本に帰るのか」


ユージが呟く。


「まだ決まってない!」


リシュンが叫ぶ。


「今、止める!」


ユージは光の壁へ手を当てようとした。


リシュンが睨みつける。


「触るなと言ってるだろ!」


「分かったよ」


「黙ってそこに立ってろ!」


「随分と無茶を言うな」


「俺を信じろ!」


ユージは一瞬、リシュンを見つめた。


そして、穏やかに笑う。


「ああ」


その笑顔が、リシュンの胸を抉った。


ユージは、何の疑いもなく自分を信じている。


つい先ほど、自分は言った。


俺は失敗しない男だと。


だが、装置は止まらない。


何重にも組み込んだはずの安全装置は、ユージの強大な魔力によって次々と突破されていた。


想定を遥かに超える魔力量。


それを抑え込めるだけの装置を、自分は作ったつもりでいた。


できると信じていた。


自分なら失敗しないと思っていた。


「止まれよ……」


リシュンが呟く。


操作盤を叩く。


「止まれ!」


装置は止まらない。

神楽耶が光の壁へ近づく。


「ユージ殿!」


「神楽耶」


「何を呑気にしておる!」


「俺だって慌ててるぞ」


「その顔のどこが慌てておるのじゃ!」


神楽耶の目に、涙が浮かぶ。


「ようやく国が立ち直り始めたのじゃぞ」


「製鉄所も完成した」


「これから、皆で新しい国を作っていくのであろう!」


「ああ」


「それなのに、何故おぬしだけいなくなるのじゃ!」


「俺が決めたわけじゃないぞ」


「分かっておる!」


神楽耶が拳を握る。


「分かっておるが、納得できぬ!」


「神楽耶様……」


ハミータが、そっと神楽耶の肩へ手を添える。


その目にも涙が浮かんでいた。


タケシトも光の壁の前へ立った。


「リーダー!」


「タケシト」


「何とかしてくれよ!」


「俺に言われてもな」


「いつも何とかしてきたじゃないか!」


「そうだったか?」


「そうだよ!」


タケシトの声が震える。


「俺たちが困った時、いつも最後はリーダーが何とかしてくれた!」


「だから今回だって、何とか出来るはずだろう!」


「難しい注文だな」


「笑ってる場合じゃねえ!」


タケシトが光の壁を拳で叩く。


火花が弾けた。


「タケシト!」


アルノルトが、その腕を掴む。


「触れてはいけません!」


「でも!」


「あなたまで倒れたら、ユージさんが心配します!」


タケシトは唇を噛み、拳を下ろした。


アルノルトが光の中のユージを見る。


「ユージさん」


「アルノルト」


「あなたには、まだ教えていただきたいことがたくさんあります」


「俺が教えられることなんてないぞ」


「また、そうやって……」


アルノルトは俯いた。


「あなたは、いつも何もしていないと言います」


「ですが、私はあなたから多くのことを学びました」


「アルノルトなら、もう俺がいなくても大丈夫だよ」


「大丈夫ではありません」


「そうか?」


「そうです」


アルノルトは顔を上げる。


その目は赤くなっていた。


「勝手に決めないでください」


「悪かった」


「謝るくらいなら、残ってください」


「できたらそうするんだけどな」


ナーチャンは、光の壁の前で立ち尽くしていた。


両手を胸元で握り締め、涙を流している。


「ユージさま……」


「ナーチャン」


「嫌です」


「まだ何も言ってないぞ」


「分かります」


ナーチャンは首を横に振る。


「お別れみたいなことを言おうとしているのでしょう?」


ユージは困ったように頭を掻こうとした。


だが、既に腕も光に包まれ始めている。


「別に、そんなつもりはないぞ」


「嘘です!」


「ユージさまは、嘘をつく時少しだけ左に目を逸らします!」


「そうだったか?」


「そうです!」


ナーチャンは、光の壁へ手を伸ばす。


「触るな!」


ユージとリシュンの声が重なった。


ナーチャンの手が止まる。


「危ないから離れてろ」


ユージが言う。


「嫌です」


「ナーチャン」


「嫌です!」


ナーチャンは声を上げて泣いた。


「あの時だって、ユージさまが帰ってしまうのが怖かったんです!」


倉庫の中が静まり返る。


ユージが目を瞬いた。


「あの時?」


ナーチャンは口元を押さえた。


もう、言葉を引き返すことはできなかった。


「あの装置に……」


「私が……」


「ナーチャン」


リシュンが声を掛ける。


ナーチャンは涙を流したまま、リシュンを見る。


リシュンは小さく首を横へ振った。


今は、その話をする時ではない。


「何の話だ?」


ユージが尋ねる。


「何でもない」


リシュンが答えた。


「また隠し事か?」


「後で話す」


「後って、いつだよ」


リシュンは答えられなかった。


ユージも、それ以上は聞かなかった。


シュタインがハミータの手を借り、どうにか立ち上がる。


「ユージ!」


「シュタイン、腰は大丈夫か?」


「わしの腰など、どうでもよい!」


「いや、結構痛そうだぞ」


「全て、わしのせいじゃ!」


シュタインが床へ両膝をつく。


「わしが余計なことをせねば……」


「まあ、そうだな」


「そこは否定せんか!」


「触るなって言われたのに触ったんだろ?」


「その通りじゃ!」


「じゃあ、今度から気をつけろ」


「今度で済む話ではなかろう!」


シュタインが拳を床へ叩きつける。


「わしが必ず、この装置を直す!」


「いや」


リシュンが、操作盤を見つめたまま言う。


「今度は、俺が作り直す」


「リシュン……」


「こんな一方通行の装置じゃ駄目だ」


リシュンは唇を噛んだ。


「必ず双方向にする」


「こちらからリーダーの世界へ行けて、向こうからも戻ってこられる装置を作る」


ユージは光の中で笑った。


「随分と気が早いな」


「黙ってろ」


「まだ俺は行ってないぞ」


「分かってる!」


「なら、最後まで止める努力をしろよ」


「言われなくてもやってる!」


リシュンは焼けた手で、もう一度操作盤へ触れる。


アルノルトも隣へ並ぶ。


「私にも指示を」


「左側の回路を見ろ」


「はい!」


シュタインも立ち上がろうとする。


「わしもやる!」


「おっさんは座ってろ!」


「しかし!」


「今度こそ何も触るな!」


「ぐぬぬ……」


装置から、甲高い音が響いた。


回転する輪が、限界まで速度を上げる。


表示盤に刻まれた文字が、次々と点灯していく。


リシュンの顔から血の気が引いた。


「転送術式が最終段階に入った」


「あとどのくらいだ?」


タケシトが尋ねる。


「分からない」


「止められるのか?」


リシュンは答えなかった。


答えられなかった。


ユージの姿が、少しずつ薄くなっていく。


指先が光へ溶ける。


足元が霞む。


もう、時間はほとんど残されていない。


「リシュン」


ユージが呼び掛ける。


「黙ってろ」


「でも――」


「黙れ!」


リシュンが怒鳴った。


「今、止める!」


「俺は失敗しない!」


自分へ言い聞かせるような声だった。


「絶対に止めるから、余計なことを言うな!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


次回、第三部完結。


ユージの運命が、大きく動きます。


最後までお付き合いいただければ幸いです。

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