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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第177話 好奇心は猫をも殺す

「何をしてる!」


「不可抗力じゃ!」


「戻せ!」


「どちらへ戻すんじゃ!」


「上だ!」


「これか?」


シュタインが別のレバーを掴む。


「それじゃない!」


ガコン!


二本目のレバーが下がった。


一瞬の静寂。


次の瞬間。


装置に埋め込まれた魔石が、淡い光を放った。


ブゥゥゥン――


低い振動音が倉庫全体へ広がる。


「動いたぞ!」


シュタインが嬉しそうに目を輝かせる。


「喜ぶな!」


リシュンは操作盤へ飛びついた。


「すぐ止める!」


倒れたレバーを元へ戻す。


最初の一本は、簡単に上がった。


だが、二本目のレバーが動かない。


「何だ?」


リシュンが両手で力を込める。


それでも、レバーはびくともしなかった。


「どうした?」


ユージが尋ねる。


「補助起動が始まっただけだ」


リシュンは平静を装って答えた。


「すぐ止まる」


装置の内部で、次々と小さな音が響く。


ブゥン。


ブゥン。


ブゥン。


魔石が一つずつ点灯し、床に刻まれた術式へ光が走った。


「本当に止まるのか?」


タケシトが尋ねる。


「止まる」


「でも、光が増えてるぞ」


「起動時の残留魔力だ」


「おい、リシュン」


ユージが操作盤を覗き込む。


「さっきから、その顔は大丈夫な顔か?」


「大丈夫だ」


「眉間に凄い皺が寄ってるぞ」


「集中してるだけだ」


リシュンは操作盤の蓋を開けた。


内部に並ぶ回路を確認し、いくつかの導線を引き抜く。


装置の光が一度弱まった。


「ほら、止まった」


リシュンが言う。


タケシトが息を吐く。


「驚かせるなよ」


「お前が勝手に驚いただけだ」


「元はと言えば、あのおっさんが――」


タケシトが振り返る。


「シュタインは?」


全員が倉庫の中を見回した。


操作盤の前にいたはずのシュタインがいない。


「ここじゃ!」


声は、装置の中央から聞こえた。


シュタインは円形の台座の上に立ち、足元の紋様を覗き込んでいた。


「何をしてる!」


リシュンが叫ぶ。


「動かなくなったから、近くで見ておるだけじゃ!」


「今すぐ降りろ!」


「もう止まったのであろう?」


「いいから降りろ!」


シュタインは不満そうに台座を降りようとする。


だが、床に残っていた布を踏み、足を滑らせた。


「ぬおっ!」


巨体が大きく傾く。


「危ない!」


ユージは反射的に駆け出した。


シュタインは台座の縁へ腰を打ちつけ、そのまま仰向けに倒れる。


「ぐおっ!」


「大丈夫か!」


ユージが台座へ片足を掛け、シュタインの腕を掴んだ。


「腰を打った!」


「立てるか?」


「力が入らん!」


「仕方ないな」


ユージは台座の中央へ踏み込み、シュタインの体を起こした。


「リーダー!」


リシュンが叫ぶ。


「台座から降りろ!」


「シュタインを先に出す!」


ユージはシュタインの巨体を引きずり、台座の外へ押し出す。


アルノルトとタケシトが、その体を受け止めた。


「シュタインさん、大丈夫ですか!」


「腰が……」


「動かないでください!」


アルノルトがシュタインの体を支える。


ユージも台座から降りようとした。


その瞬間。


床に刻まれた術式が、眩い光を放った。


ブォン――!


「何だ!?」


青白い光がユージの全身を包み込む。


装置に埋め込まれた魔石が、一斉に点灯した。


先ほどまでとは比べものにならないほどの光だった。


リシュンが目を見開く。


「リーダーの魔力を感知した……」


装置上部に設けられた金属の輪が、ゆっくりと回転を始める。


「本起動した!」


「止めろ!」


ユージが叫ぶ。


「分かってる!」


リシュンは操作盤へ飛びついた。


起動レバーを戻す。


安全装置を作動させる。


魔力の流入を遮断するための補助回路を切る。


だが、装置は止まらなかった。


むしろ、ユージの膨大な魔力を吸い上げ、さらに激しい光を放つ。


「何で止まらない!」


リシュンが操作盤を叩く。


「安全装置があるんじゃなかったのか!」


タケシトが叫ぶ。


「ある!」


「動いてないぞ!」


「分かってる!」


リシュンは操作盤の中へ手を入れ、魔石に繋がる導線を引き抜いた。


激しい火花が弾ける。


「くっ!」


リシュンの手が弾かれ、皮膚が焼ける。


「リシュン!」


神楽耶が叫ぶ。


「大丈夫だ!」


リシュンはすぐに操作盤へ戻る。


台座の周囲には、光の壁が立ち上がっていた。


ユージが外へ出ようと手を伸ばす。


その指先が光の壁へ触れた瞬間、激しい衝撃が走った。


「痛っ!」


「触るな、リーダー!」


「でも、出られないぞ!」


「俺が止める!」


「止められるんだろうな!」


「当たり前だ!」


リシュンが叫ぶ。


だが、その声には先ほどまでの自信がなかった。


装置上部の輪が、次第に回転を速める。


倉庫全体が震え始めた。


壁際に積まれていた木材が崩れ、工具が床へ落ちる。


アルノルトはシュタインをハミータへ預けると、リシュンのもとへ駆け寄った。


「私にできることは!」


「右側の魔石を外せ!」


「これですね!」


アルノルトは柱へ埋め込まれた魔石に手を掛ける。


だが、強烈な魔力が流れ、近づくことすらできなかった。


「無理です!」


「なら、台座の外周にある術式を壊せ!」


タケシトが剣を抜く。


「それは駄目だ!」


リシュンが止める。


「転送中に術式を壊したら、リーダーの体がどうなるか分からない!」


「じゃあ、どうするんだ!」


「制御盤から止める!」


リシュンは再び安全装置を作動させる。


一つ目。


反応しない。


二つ目。


反応しない。


三つ目。


僅かに装置の光が弱まった。


「止まれ!」


リシュンが叫ぶ。


だが、次の瞬間。


ユージから吸収された膨大な魔力が装置全体へ流れ込み、弱まりかけた光が再び激しく燃え上がった。


「くそっ!」


リシュンが拳で操作盤を叩く。


ナーチャンが光の壁へ駆け寄る。


「ユージさま!」


「ナーチャン、近づくな!」


「早くそこから出てください!」


「出られないんだよ!」


「そんな……」


ナーチャンの顔から血の気が引く。


光の向こうで、ユージの体が僅かに浮かび上がった。


「リシュン!」


ナーチャンが振り返る。


「止めてください!」


「やってる!」


「絶対に止めてください!」


「分かってる!」


リシュンが怒鳴る。


その声に、ナーチャンの体が震えた。


リシュンはすぐに表情を歪める。


だが、謝っている余裕はない。


操作盤に浮かび上がる文字と紋様を、必死に読み取る。


「転送先の座標が入力された」


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