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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第166話 旅立ちの日に

 開校から三年。


 ユージア国立第一学校は、記念すべき第一期生の卒業式を迎えていた。


 式典会場には、各国の国王や王族、重臣たちが来賓として顔を揃えている。


 最前列には、胸に花を飾った四人の卒業生。


 ガイル。


 リリス。


 セシル。


 ジン。


 いつもの戦闘服や作業着ではなく、正装に身を包んだ四人は、どこか落ち着かない様子だった。


「なんか、緊張するな……。」


「ガイルでも緊張するのね。」


「当たり前だろ。」


「こんな偉い人たちの前なんて、戦場より落ち着かねぇよ。」


 後ろの席には、二期生、三期生たちが整然と座っていた。


 彼らは憧れの先輩たちの晴れ姿を、誇らしげな眼差しで見つめている。


 やがて卒業証書の授与が終わり、送辞、答辞、来賓祝辞と式は滞りなく進んでいった。


 そして、いよいよ最後。


 校長であるユージの挨拶となる。


 壇上へ向かおうとした、その時だった。


「ユージさま。」


 隣に立っていたナーチャンが、小声で耳打ちする。


「校長先生のお話が長いと、式が間延びしますので、お気を付けください。」


「分かってるよ。」


「もう、うるさいなぁ。」


 二人のやり取りが会場中に聞こえ、あちこちからクスクスと笑い声が漏れる。


 ユージは頭を掻きながら壇上へ上がった。


「あー。」


「柄にもなく校長なんて罰ゲームをやらされてるユージだ。」


 会場が再び笑いに包まれる。


「昔から、スピーチと女性のスカートは短い方がいいって言われてるからな。」


「簡潔に挨拶させてもらう。」


「ユージさま!」


 ナーチャンがジロリと睨み付ける。


 ユージは「しまった」という顔をしたが、会場はさらに大きな笑いに包まれた。


 張り詰めていた空気が、一気に和らぐ。


 ユージは咳払いを一つすると、真剣な表情へ変わった。


「あー。」


「一期生のみんな。」


「卒業、おめでとう。」


 その一言だけで、四人の背筋が伸びる。


「三年前。」


「お前たちは、誰からも期待されていなかった。」


「問題児。」


「落ちこぼれ。」


「散々な言われようだった。」


 卒業生たちは、静かに俯く。


「あの頃、お前たちを見て、本気で期待していた奴は、ここにいる仲間くらいだったかもしれん。」


「でも。」


「今日、この会場を見渡してみろ。」


 四人はゆっくりと顔を上げた。


 来賓席には、それぞれの国の王や重臣たちが並んでいる。


 誰一人として、退屈そうな者はいない。


 皆、誇らしげな表情で卒業生たちを見つめていた。


「もう。」


「ここにいる誰一人、お前たちを問題児なんて思っちゃいない。」


「見事に見返してやったな。」


 ガイルは拳を握り締める。


 リリスは唇を噛み締める。


 セシルは涙を堪え。


 ジンは照れ臭そうに頭を掻いた。


「これは、お前たちの才能と。」


「三年間、必死にもがいて努力してきた結果だ。」


「胸を張れ。」


「誇っていい。」


 一瞬、静寂が流れる。


「……ただな。」


 ユージは少し笑った。


「本当の試練は、これからだ。」


「卒業したから終わりじゃない。」


「これからお前たちは、それぞれ製鉄所建設の現場へ入り、実地訓練を受けることになる。」


「設計。」


「建設。」


「運用。」


「保守点検。」


「物流。」


「経営。」


「まだまだ覚えることは山ほどある。」


「第一製鉄所完成まで、予定ではあと二年。」


「世界中が、お前たちに期待してる。」


「だから。」


「現場で思い切り失敗しろ。」


「そして。」


「二度と同じ失敗をするな。」


 卒業生たちは真っ直ぐ前を見つめる。


「さらに。」


「お前たちは、後輩たちの目標でもある。」


「お前たちが学んだこと。」


「失敗したこと。」


「成功したこと。」


「全部、第二、第三のお前たちへ引き継いでやってくれ。」


「そうやって。」


「もっとすごい奴らを育ててくれ。」


 ユージは、四人を一人ひとり見つめた。


「俺から言うことは以上だ。」


 少しだけ照れ臭そうに笑う。


「卒業、おめでとう。」


「期待してるぞ。」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


 会場は、割れんばかりの拍手に包まれた。


 卒業生たちは、誰一人として顔を上げることができなかった。


 涙が止まらなかったのだ。


「ユージに任せて正解だったな。」


 ペーターが満足そうに笑う。


「いい卒業式なのだよ。」


 枢機卿も静かに目を細めた。


 マイヤンがシニカルな笑みを浮かべる。


「立派になったじゃない。」


 ロクローマルは豪快に笑いながら、大きく頷いた。


「見違えたぞ!」


 そして、その様子を少し離れた場所から見守っていた愛ちゃんは、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。


『皆さん。』


『卒業、おめでとうございます。』


『本当によく頑張りました。』


 その日。


 ユージア国立第一学校は、初めての卒業生を送り出した。


 そして同時に。


 世界初の製鉄所を支える、未来の技術者、指揮官、管理者、そして経営者たちが、新たな一歩を踏み出したのだった。

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