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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第153話 聖王国の少女 セシル 後編

 薄暗い懲罰房。


 石壁にもたれかかりながら、セシルは一人考え込んでいた。


「結局……。」


「先生、答えてくれなかったな。」


「なんで禁止なんだろう。」


「神様なら、きっと理由があるはずなのに。」


 コンコン。


 静かなノックの音が響く。


「入ってもよいかな。」


「……枢機卿様!」


 慌てて立ち上がり、一礼する。


 枢機卿はいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。


「反省しているかね。」


「はい!」


 元気よく返事をする。


 だが、少し考えてから続けた。


「……質問したことは、後悔していません。」


 枢機卿は小さく笑った。


「実に、君らしいのだよ。」


「先生方は困っておられたぞ。」


「はい……。」


「でも。」


「知りたいんです。」


「神様のお言葉なら。」


「きっと意味があるはずだから。」


「意味が分からないまま信じるのは。」


「神様に失礼だと思うんです。」


 枢機卿は少しだけ目を見開いた。


 そして、ゆっくり頷く。


「そうなのだよ。」


「だから君は、問題児なのだよ。」


 セシルはしゅんと肩を落とした。


「やっぱり……。」


 枢機卿は静かに首を横へ振る。


「いや。」


「君は問題児ではないのだよ。」


「少々。」


「考え過ぎるだけなのだよ。」


「そして。」


「その『考える』ということを、我々は教えられなくなってしまったのだよ。」


 セシルは首を傾げた。


「どういうことですか?」


「我々は長い年月、神託に導かれてきた。」


「それは大変ありがたいことなのだよ。」


「だが、その結果。」


「自ら考え、自ら答えを見つける者が少なくなってしまった。」


「君は、その数少ない一人なのだよ。」


 しばらく沈黙が流れた。


 やがて枢機卿は、一通の書簡を取り出した。


「ユージ殿をご存じかね。」


「はい。」


「巫女様を連れて行ってしまった人ですよね?」


 枢機卿は思わず苦笑した。


「……まあ、間違いではないのだよ。」


「しかし。」


「巫女様は、この国を去る前に、次の巫女が現れるまでに必要な神託のお言葉を、すべて残してくださったのだよ。」


 セシルは驚いたように目を丸くする。


「そうだったんですか。」


「それに。」


「この国を出ると決めたのは、巫女様ご自身の意思なのだよ。」


「誰かに連れ去られたわけではない。」


「神は、適性のある者を巫女という依代に選ばれる。」


「だが、巫女そのものが唯一無二の存在というわけではないのだよ。」


「今しばらく待てば。」


「新たな巫女が現れるだろう。」


 枢機卿は窓の外へ視線を向けた。


「確かに。」


「我々は前の巫女様に頼り過ぎていたのだよ。」


「もっと早く、お役目を次の世代へ引き継ぐべきだったのかもしれない。」


 そして、セシルへ向き直る。


「いろいろあったが。」


「今はユージア国とは友好関係にあるのだよ。」


「安心してよい。」


 セシルはほっと胸を撫で下ろした。


「良かった……。」


 枢機卿は書簡を差し出す。


「セシル。」


「君に辞令なのだよ。」


「え?」


「ユージ殿は、人材育成のため、生徒を探しておられる。」


「君に行ってもらいたいのだよ。」


 セシルは、自分を指差した。


「わ、私ですか?」


「そうなのだよ。」


「でも私……。」


「先生によく怒られるし。」


「問題児ですよ?」


 枢機卿は優しく笑った。


「だからなのだよ。」


「君には、君の疑問を。」


「君には、君の答えを見つけて来てほしいのだよ。」


 セシルはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく頷く。


「……はい。」


「私。」


「行ってみたいです。」


「そして。」


「いっぱい質問してきます!」


 枢機卿は苦笑した。


「ほどほどにしておくのだよ。」


 セシルは照れ笑いを浮かべる。


「たぶん。」


「無理です。」


「やれやれなのだよ。」


 二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。



 数日後。


 小さな旅支度を整えたセシルは、聖王国を旅立った。


 その背中を見送りながら、枢機卿は静かに呟く。


「さて。」


「ユージ殿。」


「今度はこちらから、一手打たせてもらうのだよ。」


 その表情には、悪戯好きな老人の笑みと、一人の教育者としての期待が同居していた。


 こうして。


 聖王国から選ばれた三人目の生徒、セシルは。


 尽きることのない疑問を胸に。


 ユージア国へと旅立った。


 まだ誰も気付いていない。


 その「問い続ける力」が、やがて世界の常識を変えていくことを。

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