第146話 愛ちゃん先生
第一回世界会議から数日後。
ユージは、世界会議に参加した各国首脳へ一通の書簡を送った。
内容は簡潔だった。
『共同製鉄事業に必要な人材育成の実証実験を行う。各国より、生徒一名の派遣をお願いしたい』
その知らせは、各国で様々な反応を呼ぶことになる。
◇
王国。
マイヤン王女は書簡を読み終えると、腕を組んだ。
「人材育成ねぇ……」
「優秀な子を送るべきかしら?」
しかし、大臣たちは顔を見合わせた。
「危険です。」
「もし、その子がユージア国に残ってしまえば、我が国の損失になります。」
「それに。」
「優秀な子を国外へ送ることを、国民が受け入れるでしょうか。」
「そうよねぇ……。」
マイヤンは少し考え込んだ。
やがて肩をすくめる。
「じゃあ。」
「今回は実験ってことだし。」
「少し癖のある子にしましょう。」
ニヤリと笑った。
「それで成功するなら。」
「本物ってことよ。」
◇
魔王国。
宰相サムも、同じ書簡を静かに眺めていた。
「優秀な人材ほど、自国で育てるべきです。」
部下が尋ねる。
「では、お断りを?」
サムは静かに首を横に振った。
「いや。」
「教育法そのものには興味があります。」
「その真価を見極めたい。」
「誰を送りましょう?」
「最も扱いの難しい子です。」
「もし。」
「その子が変わるなら。」
「この教育法は、本物でしょう。」
◇
聖王国。
枢機卿は目を閉じたまま微笑んだ。
「優秀な子を送れば。」
「成功して当然なのだよ。」
修道士が尋ねる。
「では?」
「誰からも期待されていない子を送りなさい。」
「その子が笑顔になれるなら。」
「それこそ教育の奇跡なのだよ。」
「承知いたしました。」
◇
ネバランド帝国。
ペーターは書簡を読むなり笑い出した。
「ははっ!」
「リーダーらしいこと考えるじゃねえか。」
部下が尋ねる。
「どの子を送りましょう?」
「決まってんだろ。」
「一番手の掛かるガキだ。」
「実験なんだからな。」
「それで成功したら本物だ。」
「面白くなってきた。」
◇
こうして。
四つの国は、それぞれ一人ずつ子供を選び始めた。
王国では、授業を抜け出しては教師に叱られる少年。
魔王国では、喧嘩ばかりして教師を困らせる少女。
聖王国では、誰とも口を利こうとしない少女。
ネバランド帝国では、一時もじっとしていられず、授業中ですら歩き回る少年。
どの子も、教師や周囲の大人たちから、
「困った子」
「扱いづらい子」
そう見られている子供たちだった。
しかし。
彼ら自身は、まだ知らない。
自分の中に眠る才能にも。
自分の人生が大きく変わろうとしていることにも。
◇
数日後。
四人はユージア国へと集められた。
互いに顔を見合わせることもなく、それぞれ好き勝手に振る舞っている。
一人は落ち着きなく辺りを歩き回り。
一人は腕を組んで壁にもたれ。
一人は床だけを見つめ。
一人は周囲を睨みつけていた。
その様子を見たユージは、思わず笑った。
「あはは!」
「こりゃまた。」
「個性的な連中が集まったな。」
ナーチャンは少し不安そうに尋ねる。
「ユージさま。」
「パイロットとはいえ、この人選で本当に大丈夫なのでしょうか?」
ユージは笑って頷く。
「だからいいんだ。」
「最初から優秀な奴ばっか集めても意味がねえ。」
「教育が本物なら。」
「誰だって伸びる。」
そう言ってリシュンを見る。
「リシュン。」
「お前の実力が試されてるぞ。」
リシュンは四人を見渡し、ニヤリと笑った。
「望むところだ。」
「ここから先は、俺の喧嘩だ。」
その時だった。
『いいえ、リシュンさん。』
部屋に、優しい声が響く。
『私たちの喧嘩です。』
一瞬。
部屋が静まり返る。
リシュンは目を丸くした。
そして、ふっと笑う。
「……そうだったな。」
ユージは満足そうに頷いた。
「よし。」
「始めよう。」
「世界初の、一人ひとりに寄り添う教育を。」
こうして。
人類史上初となる、新たな教育実験が幕を開けた。
今回は、私の好きな作品へのリスペクトを込めて、一か所だけ遊ばせていただきました。
三雲岳斗先生、ごめんなさい(笑)




