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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第144話 実務者会議

 第一回世界会議終了後。


 各国首脳は満足そうな表情で帰路についた。


 だが。


 残された者たちは、そうはいかなかった。


「では、これより実務者会議を始めます」


 ナーチャンの一言で、第二ラウンドが始まる。


 集まったのは各国の実務担当者たち。


 財務。


 技術。


 物流。


 法務。


 世界会議で決まった方針を、実際に運用できる制度へ落とし込むのが彼らの仕事だった。


 当然ながら。


 話はそう簡単には進まない。


「製鉄所の建設費は誰が負担する?」


「輸送費は?」


「人件費は?」


「利益配分はどうする?」


「生産量は?」


「需要が急増した場合は?」


「品質保証は?」


「技術者派遣の人数は?」


 次々と議題が飛び交う。


 三日後。


 会議室には疲労だけが漂っていた。


「決まりません……」


 王国の担当者が頭を抱える。


「公平な案がありません」


 魔王国の担当者も腕を組む。


「利益配分だけでも何十通りも考えられます」


 誰もが限界だった。


 その時だった。


「おーい」


 のんびりした声が響く。


 ユージだった。


「何やってんだ?」


 部屋を見回す。


 机の上には書類の山。


 壁一面には地図と数字。


 皆、死人のような顔をしていた。


「ユージさま……」


 ナーチャンが苦笑する。


「実務調整です」


「なるほど」


 ユージは資料を手に取る。


 ぱらぱらと数ページ眺める。


「ふーん」


 三十秒ほど黙る。


 そして。


「費用負担割合にしたらいいだろ」


 会議室が静まり返った。


「……はい?」


「だからさ」


「建設費でも輸送費でも、かかった費用を全部積み上げる」


「それを費用負担割合で按分すりゃ終わりじゃねえか」


 一同が顔を見合わせる。


 そんな発想は誰もしていなかった。


「人件費は?」


「そりゃお前」


 ユージは笑った。


「人件費も費用なんだから、費用計上すりゃいいじゃないか」


 また沈黙。


「利益配分は?」


「そうだな」


 ユージは少しだけ考える。


「技術提供料として、一〇%もらっときゃいいだろ」


「残りは費用負担割合で配れば公平じゃね?」


 魔王国の担当者が目を見開いた。


「では、生産量の調整は?」


「事務局作りゃいいだろ」


「ユージア国にな」


「必要量を事前申請。」


「承認した分だけ生産。」


「費用はかかるが」


「まあ、一〇%の技術提供料の中から賄えるだろ」


 再び沈黙。


 誰も口を開かない。


「……何?」


 ユージが首を傾げる。


「変なこと言ったか?」


 ナーチャンは資料を見返し、小さく笑った。


「終わりました」


「え?」


「三日間悩んでいた問題が」


「十分で終わりました」


 ユージは頭をかいた。


「そんなもんか?」


 ナーチャンが小さく微笑む。


「やはり辺境調停官の肩書は、伊達ではなかったのですね」


 ユージは苦笑する。


「ああ」


「そんな名前で呼ばれてたこともあったな」


「今となっちゃ懐かしい気がする」


「当時は、とんでもない肩書を押し付けられたと思ってたけどな」


 そう言って立ち上がる。


「じゃ」


「後はよろしく」


「俺は腹減ったから飯食ってくる」


 ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。


 扉が静かに閉まる。


 しばらくの間。


 誰も口を開かなかった。


 やがて。


 王国の実務担当者が大きく息を吐く。


「……三日ですよ」


「三日間」


「我々が悩み続け、完全に行き詰まっていた案件です」


 魔王国の担当者も苦笑する。


「それを」


「いとも簡単に解決してしまわれた」


 聖王国の担当者が腕を組む。


「まるで」


「立ち話でもしているかのようでしたな」


 ネバランド帝国の担当者も静かに頷く。


「しかも」


「誰も損をしない」


「完璧な解決策です」


「……ちょっと理解できませんな」


 その場にいた全員が、小さく頷いた。


 一人の実務担当者が、ぽつりと呟く。


「……あの方は、本当は何者なんですか?」


 ナーチャンは軽く微笑んだ。


「本人に聞いたら」


「きっとこう答えます」


 少しだけユージの口調を真似る。


「俺か?」


「俺は、どこにでもいる、ただのおっさんだ」


 会議室に小さな笑いが広がる。


 だが。


 誰一人として、その言葉を信じる者はいなかった。

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